第264話 暖かい我が家(仮)へ
さて。他は収納鞄に詰めるとして白茶は倉庫に入れておくか。
「チャンターさんよ。オレが借りてる倉庫に白茶を移してくんねーか。場所は倉庫街の奥にあるからよ」
「倉庫って借りるの高かったと記憶してるんだがな……」
「そうだな。だがまあ、必要経費。気にすんなだ」
元は充分取れるし、気に入ってもいる。損はしてねーさ。
「貸倉庫の事務所でオレの名を出せば場所を教えてくれるし、商人ギルドの人足を雇えるはずだ。ダメなら港の人足を使えや」
そう言えば、事務所のおっちゃん、名前なんて言ったっけ? カーとかマーとか言ったと思ったが……まあ、なんでもイイや。そのうち聞くだろう。
「そー言やぁチャンターさんって、ここに知り合いかコネはあんのかい?」
「そう多くはないが知り合いはいるよ。コネはまったくないがな」
さすがになにも考えできたわけじゃないか。でなきゃたんなる愚か者だしな。
「なら、チャンターさんに依頼を出してもイイか? もちろん、金は出すが」
「依頼にもよるが、なんだ?」
「チャンターさんに小麦粉を買って欲しい。量は買えるだけ買ってくれ。そして、オレが借りてる倉庫に入れて欲しい」
この港に入れるのなら商人ギルドとなんか取り決めや買い付けの許可を得てるはず。そうなれば個人で買う以上に大量買いができるはず。しかも、オレが買うより怪しまれない。穏便に素早く大量に集めれるだろうよ。
「小麦粉を、かい? まあ、帰るときに買おうとは思ってたから構わんが、どうするんだ、そんなに大量の小麦粉なんて?」
「まあ、保存用にな、買っておきたいんだよ。いつ飢饉がきてもイイようにな」
「まるで城塞都市の領主みたいなこと考えるな、ベーは。どんな最前線だよ」
「生きてるそこが最前線。余裕があるときに備えろだ」
「いやまあ、言っている意味はわからなくはないんだが、なんか納得できないのはなぜだろうな? ……わかった。その依頼受けるよ。小麦粉だけで良いのか?」
「そうだな。油や豆も頼む。あ、どこかの市で鶏を売ってると聞いたんで、それを探しておいてくれるか? それも買えるだけ頼む。もちろん、殺さずにだからな。人手が足りないときは貸倉庫の事務所にいるおっちゃんに相談してくれ。オレとの付き合いを大事にすんならなんとかしてくれんだろうさ」
あ、一回話しておくか。倉庫を借りてる間はなにかと頼らせてもらいそうだしな。
「ほれ、買いつけの軍資金だ。金貨百枚もあればしばらくは大丈夫だろうよ。足りなくなったらまたやるよ。どーした、頭抱えたりして?」
旅の疲れでも出たか?
「……なんかお前と話していると自分の中の商人としての常識や矜持が崩れていく感じだよ……」
「そこはチャンターさんの努力と根性で乗り越えてくれや。オレではどうにもしてやれねーからよ」
「いや、そこはお前が自重するところじゃね?」
「アハハ。チャンターさんはおもしろいこと言うよな。そんなの無理に決まってんじゃねーか」
「いや、そこで笑う意味がわかんねーよ! まったく、どんだけなんだよ、お前はよ……」
頭痛てーと天を仰ぎ、なにやら人生を振り返っているような遠い眼差し。一皮剥ける瞬間である。イイ意味でだよ。
「じゃあ、一皮剥けて新しい常識を見たチャンターさんにお祝いの品を贈りましょう」
収納鞄からなにも入ってない収納鞄を三つ、取り出した。
「説明しよう。これは収納鞄。荷車二台分の容量を入れることか可能であり、時間を停止しているので生物なまものでも大丈夫。もちろん、取り出しも安心設計。入れたものを念じれば簡単に取り出せちゃうのです。ただし、その収納鞄にも弱点と言いますか、欠点と言いますか、開け口の大きさのものしか入らないのですね~。なんとも惜しいですね。ハイ。ってことで買いつけは君に任せた!」
「…………」
なんて、さすがに乗ってはくれねーか。やっぱ、あんちゃんみてーに即座に突っ込めるヤツはいねーか。残念……。
「ってなことなんで、後はよろしく。なんかあったら倉庫か屋台広場にいっからよ。あ、ただ、あと三日くらいしたらオレは村に帰るから拠点を探しておけよ。村の方でバタバタと忙しいから二十日くらいはこれねーと思うからよ。まあ、王都見物がてらゆっくり買い付けしててくれや。んじゃな」
ちょっと早いが今日は終わり。倉庫に帰って明日の準備でもすっかね。
あ、そー言やぁ、プリッつあんがいねーや。どこ行った──と思ったら、サーリンさんに拉致られてた。
どうやら可愛いもの好きだったらしく、ちょっと引くくらいの顔でデレってた。人の趣味趣向も千差万別。オレはあなたのそれを認めるよ。と、ボディブロ──発。サックっと気絶させてプリッつあんを確保した。
「……容赦ないよね、ベーって……」
容赦? ああ、ドラッグストアで売ってたよ。三百円くらいで。情けがいっぱいあるから買わなかったよ。
優しいプリッつあんを頭に乗せて暖かい我が家(仮)へと帰った。
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