第263話 タケルくん出番です

 なにはともあれ、どんなものを持ってきたのか知るために船倉へと案内してもらった。


 チャンターさんの船(今は)、リーチャオン号は、だいたい四十五メートル。魔道船としては大型に入るが、容量的には四トントラックの荷台くらいしか入らねー。


 なんで一回ばっかりの運びで一攫千金ってことにはならねーし、それほど旨い商売ではねーはずだ。


 だが、帰りも荷を積んで帰ればちょっとした商会の一年くらいの売り上げにはなるだろう。と、船長さんが言ってたよ。


「……白茶が大半なんだな……」


 なにやら桐のような木箱が天井まで高く、隙間なく積み込まれ、大小の木箱がちらほらと見て取れた。


「まぁな。白茶が人気と聞いたからいろいろかき集めたのさ」


 なんかその後に続きそうだったが、チャンターさんは口を開くことはなかった。


「まあ、白茶は会長さんに捌いてもらうか」


 持つべき者は大商会の会長さん。代わりに頑張って儲けてくださいな。


「で、他にはなにがあんだい? 餅──じゃなくてバモンはどんだけあんだ?」


「そうだな。バモンは航海中の食糧ともなるから結構な数はあるな。確か、この箱だから全部で六箱か。他の部屋のもまぜれば十箱にはなるじゃないか? すまん。そこは確認せんとわからん」


「いや、細かい数はイイよ。自分ちで食う分だけだからな。足りなくなったらまた買うさ」


「それは毎度ありと言っておこうか。で、他は、反物……こちらでは布地か。植物の繊維で編んだものさ」


 箱から一つ取り出して見せてくれた。


 木綿、のような感じだが、柄が色鮮やかで肌触りもイイ。が、この大陸では派手過ぎて貴族のお嬢さんのドレスになるくらいしか使い道はねーな。


 いや、トアラに渡したらなんかスゴいものができそうだな。試しにワンピースかエプロン、スカーフでも作らせてみるか。


「東の大陸じゃあ、こんなのが流行ってんのかい?」


「ああ。あちらじゃこう言う柄が女には人気なのさ。こっちではダメそうだがな……」


 こちらにもオシャレさんはいるが、それは小数であり、金持ちか貴族のお嬢さんしか飾らない。一般女子は実用一辺倒の羊毛品か革製の服が精一杯さ。


「なに、使い道はあるからこれも足りなくなったら買わしてもらうさ」


 その辺はうちの村の女子たちならなんとかすんだろう。だいたいがオシャレさんだからよ。


「あとは油に酒、煮付け、乾燥ボマ、工芸品、試しに東の武器を少々だな」


 数は多くねーが、手堅いものばかりだな。


「煮付けに乾燥ボマってなんだい?」


「海で採れた小魚や貝をバージャンと砂糖で煮込んだ保存食さ」


 佃煮のようなものか?


「ん? 砂糖? 東の大陸では砂糖が採れんのかい?」


「いや、南の大陸の砂糖とは違うさ。白目甘木と言う木の樹液を煮詰めたもので、正式にはジャンパと言うんだが、こちらにはないんで砂糖と言ってるまでだ」


 メープルシロップのようなものか?


「それは一般的に売られてんのかい?」


「ああ。とは言っても贅沢品扱いだが」


 こちらで言えば蜂蜜みたいな感じか。山にいけば蜂の巣は沢山あるが、集めるのが大変で一般的にはならないって感じだ。


「乾燥ボマってのは?」


「ん~。なんと言って良いんだろうな? ちょっと特殊な食材でな、料理の元になるもの……なんだが、わかるか?」


 見せてもらうと、壺の中に肌色っぽい粉が入っていた。


「舐めてもイイものかい?」


「ああ。それは大丈夫だ。食うものだからな」


 と言うので舐めてみる。


「……肉、いや、野菜の出汁か……?」


 材料がなんなのかわからんが、たぶん、これは出汁の素だ。


 コンソメとは違うが、前世で口にしたことがある味だ。


「ダシ?」


「チャンターさんが言ったように料理の素になるもので、うちでは小魚や乾燥させた海藻を煮て旨味を出してる。この乾燥ボマは、肉とか野菜を煮詰めて乾燥させたものだろう? いわゆる魔法の粉だ」


 この国では出回ってねーが、帝国では魔法の粉として人気があると公爵さんから聞いたことがある。


 いつかは手に入れようとは思っていたが、こうも早く手に入れられるとは思わなかったぜ。


「ほ~。さすがベー。それも知っているか。前にきたとき、この国の料理の不味さに辟易してな、売れなきゃ自分らで食べればいいと持ってきたのさ」


 やっぱこの国の食文化は遅れに遅れてんだな、まったくよ……。


「なんつーか、チャンターさんが神の使者に見えてきたよ。オレの求めてたものばかりじゃねーか」


 なんだよこの幸運。イイことだらけで逆に怖いよ。なんか悪いことが起こる前兆か?


「……あ、いや、そう言ってもらえると助かるよ……」


 もう感激すぎてチャンターさんにキスしたいよ!


 と、不穏な空気を感じたのか、オレから距離を取る心の友。イケずなんだから、もぉう!


「だが、ちょっと足らねーな。この十倍は欲しいぜ」


「いや、ちょっとじゃねーよ、それ!」


 アハハ。突っ込み上手なチャンターさんだな。


「荷が捌けたらすぐに帰んのかい?」


「いや、こちらからも商品を集めなくちゃならんし、海の流れが変わるまでは足止めだな。そうだな、一月はいないとならんな」


 一月も?


「チャンターさんの船、魔道船だろう。海の流れなんて関係ねーんじゃねーの?」


 でなきゃ魔道船の意味ねーだろうが。


「いや、そうなんだが、途中に凶悪な海賊がいてな、その道は通れないんだよ。しょうがないで外洋に出て潮の流れに乗って帰るしかないのさ」


 海賊? って、どっかで……あ、親父さんの話でだ! クソ! 海賊に熱くなった自分が情けねーぜ。 思いきっりお邪魔野郎じゃねーか!


「おのれ海賊、成敗してくれるわ!」


 タケルくんが、だけどね! 

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