第261話 出会い運
餅ウメー!
港へ向かいながら結界コンロで餅──バモンを焼いて食していた。
魚醤に砂糖を入れた磯辺焼き──とは若干違うが、懐かしさを感じる味に頬が緩みっぱなしだった。
前世では米はあんまり食わんかったが、餅はよく食ったし、好物の一つでもある。
磯辺焼きはもちろんのこと、ゴマやみたらし、アンコなんか付けて食うのも好きだった。
スーパーの見切り品が主食なオレだったが、団子や大福、お汁粉は出来立てや和菓子屋でよく買って食ったもんだ。
現世に生まれ、餅がないことにはショックだったが、この地域は豆の種類が豊富で小豆に近いものがあった。
ラーシュと文通するまでは行商のおっちゃんから砂糖を買い、サプルさまの努力でアンコはでき、アンパンで満足していた。
……アンパン食い過ぎて飽きたから最近は食ってねーけどな……。
「そんな食い方、東のもんでもしないぞ」
「そうなのかい? ウメーのにな」
東の大陸も食文化が遅れてる口か?
「でも、バージャンにつけるか。考えもしなかったが、旨そうだな」
チャンターさんの言葉に光にも負けないくらい振り返った。
「バ、バージャンって、もしかして豆からできた黒い液体のことか?」
「よく知ってるな。この大陸にもバージャンなんて出回っているのか?」
どこまで前世の醤油とは同じかはわからんが、醤油なのは間違いないようだな。これはイイこと聞いたぜ。
「いや、本で読んで知ったまでさ。本好きなんでな」
「ベーは……不思議なヤツだな」
「チャンターさんは、できる商人だな。その若さで感情をコ……操れるなんて、知り合いの商人に見習わせたいくらいだ」
まあ、感情のままにがあんちゃんの売りだがな。
「まあ、これでもいろいろ苦労したしな」
だろうな。雰囲気が落ち着いてるし、その苦笑はなにかを達観したからこそ出せるものだ。
「苦労を買い益を得る。骨の髄まで商人だな。好きだぜ、そう言うの」
ただ、利益を求めるだけの守銭奴になってないのがさらに好きだぜ。
「ほんと、おもしろいことを言うよな、ベーは。でも、そう言われることが嬉しいから不思議だな」
誰かに認められる。益は得られねーが、自信は得られる。人なんて他人に認められてなんぼさ。
再び磯辺焼き風のバモンを堪能していたら港へと着いた。ちなみにだが、どちらも屋台を引いてますのであしからず。
「あれかい?」
船にそれほど興味はないが、何度もきたとこ。見知らぬ船があればわかるさ。
「ああ。我が愛しき船、リーチャオン号さ」
赤い帆に黒い船体。わかない方がどうかしてるわ。
「見た目からして、魔道船かい?」
「わかるか。さすがだな」
そりゃあんな中華ファンタジーっぽいものがただの船ならこの世の理不尽に爆発するよ。
「東の大陸の船はあんな感じなのかい?」
「まーな。赤は富を。黒は厄除け。東の者は信心深いのさ。まあ、信じるのはタダだからな」
なんとも商人らしいもの言いだ。
近づくと、船からチャンターさんのような東洋系の顔した二十代後半のねーちゃんが下りてきた。
「ジンジャオ!」
ジンジャオ?
「こちらの言葉で言えば主さま、かな?」
と、首を傾げてるオレにチャンターさんが教えてくれた。
自動翻訳の首輪をしてないんでなにを言ってるかはわからんが、感じからしてチャンターさんを心配して、怒ってるようだ。
しばらくしてねーちゃんを宥めたチャンターさんが、オレを見てねーちゃんを紹介する素振りをした。
「これ、おれの秘書兼お目付け役のサーリン・チェイ。サーリン。おれの商売相手のベーだ。サーリンもちゃんとこの大陸の言葉を話せるから安心してくれ」
そりゃよかった。しゃべれんならそれに越したことはねーからな。まったく、ファンタジーな世界なら全国共通にしてくれよな。メンドでたまんねーよ。
「よろしくな、サーリンさんよ」
東の大陸は、手を胸に当ててのお辞儀なので、礼儀にそって挨拶した。
「よく、ご存じで。わたしは、サーリン・チェイです。よろしくお願いいたします」
サーリンさんもこの大陸で一般的な挨拶、握手を求めてきた。
「さすがだな。チャンターさんの懐がわかるよ」
チャンターさんの魅力で部下にしていることがよくわかる感じであった。
「どうだ、サーリン! おれの商機! 危険を越えてやってきただけはあるだろう!」
なんかよくわからんが、オレをサーリンさんに自慢するチャンターさん。なんなの、いったい?
「ジンジャオのは悪運と言うのです。まったく、引きの強いお方です……」
フフ。どうやらオレ以外にも出会い運のイイのがいたらしいな。
「それがおれの強みさ。さあ、ベー。我が愛しきリーチャオン号へどうぞだ!」
「じゃあ、遠慮なくお邪魔させてもらうよ」
リーチャオン号へと上がらせてもらった。
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