第257話 オシャレさん プリッシュ登場
さて。メルヘンは好きにさせておくとして、さっさと屋台を広げますか。
まあ、開店時間なんて決まってもなけりゃ決めてもいねーが、並べるのも屋台の醍醐味。早く楽しみましょうだ。
屋台から板と台を出し、前に組み立てて、厚手の布を敷いた。
その上に首飾りや髪飾り、手鏡にブラシを並べて値段表を前に置いた。
この時代には値段表なんてなく、口頭での告知と交渉で決まる。
前にも言ったが、オレは商売するのは好きだが、値引き交渉とかは好きじゃねー。欲しけりゃその値段で買うし、いらねーなら仮令希少品でも小銅貨一枚も出さねー男なのだ。
とは言え、安く買おうとするのは厳しい世を生きる者の生存本能のようなもの。ましてや屋台は交渉ありきの商売。百戦錬磨(値引きさせる達人)がくることだろう。
なんで、値段を倍にして、値引きを要求する客には二割くらい負けてやり、更に値引きをしてきたら四割にしてやる。素直に買う客には半額な。
意地悪のようなやり方だが、なんちゃって商人。自分の好きなようにさせてもらいます、だ。
つっても、うちの商品は激安商品。クシは銅貨一枚。髪飾りに首飾りは、どれでも銅貨三枚。ブラシは銀貨一枚。貴族でも持ってねー手鏡なんて銀貨十枚ときてる。
はっきり言って爆売りだ。会長さんの店で出せば軽く十倍はするだろう。会長さんの店にあった豪奢だが、あまり写りがよくねー鏡が金貨五枚とかあり得ねーよ。
……いやまあ、その十分の一で売るオレもあり得ねーですけどね……。
まあ、安さには自信があるが、それでも庶民にしたら銅貨三枚と言えども決して安い買い物じゃねー。売れるか売れないかはやってみねーとわかんねーな。
屋台には、いろんな柄のリボンを垂らし、匂い袋や小物袋、ベルトに付けるポーチなどを並べる。
「……興味あんのか?」
陳列している間、好奇心全開で品を見ていたメルヘンに声をかけた。
「うん。おもしろい」
なんか、とってもエエ笑顔を見せた。
ふ~ん。メルヘンにもオシャレさんがいんだな。今着ているのはボロ布だけど。
あ、そー言やぁ、別のメルヘンさんから服もらったな。
サプルの趣味の一つに、ミニチュア品を作るってのがあり、家具とか家とかよくそのメルヘンに渡していて、お礼にと人形に着せる服を大量にもらったのだ。
まあ、なんの素材かは知らんし、追求したくもねーんで全力でスルーしてるが、デザインは見事に尽きる。前世のコスプレ愛好家に見せたら萌え死ぬことだろうよ。
……オレは興味ないんでふ~んだけどな……。
「えーと、どの鞄に入れたっけな?」
確か、まだサプルに渡してねーのがあったはずなんだが……お、あったあった。
目的の収納鞄を取り出し、中からメルヘン印の服を入れた袋を出した。
「多分、お前に合う服があると思うから着てみな」
結界で更衣室を創ってやり、服が入った袋を中に入れてやる。メルヘンとは言え、気遣いはせんとな。
「遠慮すんな。お前もそんなボロを着るよりは新しい方がイイだろう。好きなの選んで好きなだけ着ろ。服は誰かに着られるためにあんだからな」
萎縮だか遠慮だか知らんが、涙目でオレを見るメルヘンの背中を押して結界更衣室に押し込んでやった。
女の着替えは長いものと、次の準備に移った。
屋台の裏に椅子とテーブルを出し、コーヒーポットにカップ、あと朝食用のサンドイッチを出した。
周りを見ればまだ準備中で、客の姿もまだ見えない。
まあ、人通りの少ない立地だしと、慌てることなくゆっくりと朝食を取ることにした。
半分くらい食べた頃、結界更衣室からメルヘンが出てきた。
「お、早かったな。気に入ったのはあったか?」
「……う、うん。これ、好き。どうかな?」
女(なのか? つーか妖精に性別あんのか?)の『どうかな?』は褒めろの合図。それを理解できてこそ一人前の男だ。
……まあ、理解するまでにいろんな苦労がありましたけどね……。
「似合ってんじゃん。趣味イイな」
なぜにロリータファッション? とか顔に出しちゃダメ。まず褒めろ。更に褒めろ。そして、笑顔を見せろ。男の価値(命運)はそれで決まるのだからな。
「エヘヘ」
満足してくれたようで、照れ臭そうに笑っていた。
……ふ~。どうやら生き残れたようだな……。
まったく、女の扱いには命が縮むぜ。なんてオレがヘタレなだけなんだがな……。
「そー言やぁ、お前、名前は?」
「プリッシュ」
「そうか。プリッシュか。朝食は食ったのか?」
メルヘンも普通に野菜食ったり肉食ったりするんだよ。まあ、妖精って言ってるが肉体を持つ生き物。食わなきゃ死ぬ存在である。ファンタジーな世界のメルヘンな生き物だが、それは前世の意識を持って見た場合。この世界からしたら超現実な生命体。生きるのに夢もクソもねーんだよ。
「……食べてない……」
「んじゃ一緒に朝食を食うか?」
「うん!」
超現実な生命体とは言え、見た目はメルヘン。見えるものを素直に愛でればイイさ。現実の目も心の目も、塞ぐことはできるんだからな。
見たいものだけを見る、それもまた人の生存本能さ。
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