第256話 カワイイも好き
「…………」
なんだろうな。さっきからいろんな人から注目を浴びてるんだが……?
確かに屋台は変わっているし、屋台を引く子どもは珍しいだろう。だが、そう言った目ではない。なんと言うか、好奇な目で見られているのだ。
不思議に思いながらも屋台広場へと向かう。
屋台広場とはそのまんまの広場で、屋台で稼いでいる者たちが集まってくるのだ。
屋台は商人ギルドで札を買えば誰にも出せて、ご禁制でなければなにを売っても構わない。ただ、広場利用料として銀貨一枚を払わなくちゃならねー。
銀貨一枚とは高いかもしんねーが、ここで売ったものには税金が掛からねーし、マフィアやゴロツキからの嫌がらせもない。それに、当たれば一日で銀貨十枚を稼ぐことも夢じゃねー。聞いた話によれば一日で銀貨二十枚を稼いだ猛者もいるとか。屋台ドリームがここにあるのだ。
「……へ~結構早くからきてんだな……」
まだ七時半なのに、広場の八割近くは埋まっていた。
「さて。空いてるとこはどこかな?」
聞いた話によると、この広場は早い者勝ちで、商売によって好まれる場所があるらしい。
食い物関係は、水場に近い南側に集中し、小物関係は東側に集まるとか。まあ、歴史があるだけにいろいろ暗黙の誓いとかルールとかあるんだとよ。
「取り合えず東側に行ってみるか」
郷に入っては郷に従えって言うしな、敢えて逆らうこともねーだろう。
早く集まっているとは言え、まだ準備中なようで、見学がてらゆっくりと向かった。
「ふ~ん。いろんなのあんだな~」
意外と品数豊富で職種も豊富だった。
服の直し屋や革製品の直し屋、鉄製品の鍛冶屋、刃物の研ぎ屋、小物家具の修理屋など、そう言った屋台まであったのには驚いたぜ。
小物関係が集まる東側は、ライバルが多く、空いてる場所がなく、人の流れが悪い中央にしか入り込めるスペースがなかった。
「……まあ、初めてにはちょうどイイか……」
儲けは二の次。雰囲気を味わいたい派だからな、オレは。
人の流れは悪いとは言え、人気の広場。中央寄りにも屋台はあり、見た感じ、オレと同じ新人さんのよーだ。
まあ、これもなにかの縁と、お隣さんにご挨拶。
「どーも。隣でやらしてもらうベーってもんです。よろしく」
お隣さんは、十七、八くらいのねーちゃんで、頭に犬(?)耳が生えていた。
この手の獣人さんは珍しくねーし、差別もないのでお互いに悪感情はない。耳触りてーぐらいの細やかな萌えがあるくらいだ。いやまあ、オレの感情ですけどね。
「あ、はい。よろしくです。あたしは、アラマナって言います。毛糸を扱ってます」
なにやら腰の低いねーちゃんで、やたらと頭を下げてきた。
「こっちは髪飾りとか扱ってるよ。お近づきの印にどーぞ」
その薄茶色の犬(?)耳に合いそうな青色のリボンを贈った。
「い、いいのですか? 綺麗な布ですけど?」
「布の端で作ったもんさ。気にせんでくれや」
捨てるのもなんだしと、余った布を縫い合わせたもの。売ったとしても小銅貨二枚くらいだろうさ。
「あ、ありがとう。いただくわ。あ、なら、これをどうぞ」
と、近くにあった毛糸の敷物を差し出してきた。
なんの毛かは知らんが、なかなか立派に編み込まれた逸品だった。
「それこそイイのかい? 結構なできじゃねーか」
「そんな、小さい子の練習用よ。そんないいものじゃないわよ」
ほぉう。熟練者になればもっとイイってことか。ちょっと興味が出てきたよ。
会長さんに仕入れてもらうかと考えながら、軽い挨拶をして自分の陣地に戻った。
「ん?」
なにやら屋台の上にキラキラ輝くものが。なんだこれと近寄ってみればメルヘンだった。
……道理で周りのヤツが目を向けるわけだよ。ここら辺では見ない謎の生命体なんだからよ……。
「おい」
呼びかけると、びっくと体を跳ねらせると、恐る恐る振り返った。
「お前、なにやってんだ?」
あ、そー言やぁ、倉庫にメルヘンどもいなかったな。どうでもイイから忘れてたわ。
「……ごめんなさい……」
どうやら他のメルヘンどもと違って内向的な妖精のようだな。
「別に怒ってはいねーよ。なんで付いてきたんだ? 仲間たちといなくて大丈夫なのか?」
メルヘンの扱いには慣れてるので収縮椅子を取り出し、妖精の目線に合わせて座った。
「……外の世界、見たくて……」
ふ~ん。どこのメルヘンにも変わり種ってのはいるもんなんだな。
「まあ、好きにしたらイイさ。勝手にしな」
タケルの仲間はオレの身内でもある。やりてーって言うなら好きなだけやらせるのがオレです。
「いいの?」
「イイよ。でも、オレからは離れるなよ。ワリーヤツに捕まるのもメンドーだからな」
ゲスな野郎はどこにでもいるし、この王都にも闇の仕事をする者もいる。ホイホイ歩いて(飛んでか?)て知らないところで拐われんのが一番メンドクセー。やるんならオレの目の前でやってくれだ。
「ありがとう!」
サプルのように天真爛漫に笑うメルヘンに、自然と頬が緩んだ。
まあ、メルヘンも嫌いじゃねー。オレはカッコイイも好きだがカワイイも好きな男なのだ。
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