第226話 親父マジスゲー

「やっぱ、できる男は話が早くて助かるよ」


「あれだけされたら嫌でもわかるさ」


 ほんと、さすがとかとしか言いようがねーよ。


「それで、おれはなにをしたら良いんだい?」


 テーブルの上に結界術でひょうたん島を描いた。


「……もしかして、王都の沖合いにある島、か?」


 結界術にはまったく驚かず、ひょうたん島を見詰めたまま問う親父さん。さすがを通り越して恐ろしくなるぜ……。


「ああ、そうだ。名前がないんで便宜上ひょうたん島と呼んでいるが、気に入らないなら変えてくれても構わねーよ。親父さんが統治するんだからな」


 さすがにひょうたん島では威厳っつーか、カッコがつかねー。どうもオレには名づけの才能がねーみいたいだし、イイのを付けてやってくれ。


「統治、ね。なかなか壮大な依頼のようだな」


「そうだな。この島を貿易都市にして人魚と人の交流の場にするからな、年単位の依頼になるな」


 さすがの親父さんも顔色が……変わらない。オレの思惑を探るように鋭い目を向けてきた。


 それにオレは目を反らさない。親父さんが口を開くまで沈黙して待つ。


「……一つ、聞きたい」


「ああ、構わねーよ。幾らでも聞いてくれ」


 契約したとは言え、やりたくねーヤツにやってもらう必要はねー。ダメなら諦めるだけだ。


「まず、アブリクトって名前はどうだ?」


「ひぇぁ?」


 なにを言われたかわからず変な声を漏れてしまった。


「ダメか? 結構いい名だと思うんだがな」


 やっとなにを言われたか頭が追いつき、吹き出したらと思ったら大爆笑してしまった。


 スゲーよ。この親父、マジスゲー。なんなんだよ、ほんと。マジ尊敬するわ!


「……いや、こんなに笑ったの、生まれて初めてだぜ」


 いやもう笑いすぎて脇腹いてーよ!


 いつまでも笑ってらんねーと、根性出して冷静さを取り戻した。


「イイんじゃねーの。それで。アブ……なんだっけ?」


「アブリクト。南の大陸の言葉で調和って意味さ」


「なかなか博識なんだな。じゃあ、それに決定ってことで」


 本当にスゲーヤツはセンスもイイんだな。オレは歴史的人物を前にしてっかもな。


「んで、他には?」


「そうだな。今のところはそのくらいだな。まだ不確定要素が多すぎてなんとも言えんよ。逆にそこまで持って行くまでの考えを聞かせてくれ」


「まずは人材確保だな。今、浮浪児やスラムのヤツらを集めてる。島の改造には人手がいるからな。だから親父さんらにはそいつらの面倒を見てもらいてー。金や資材はこちらで出す」


 その活動資金だと、収納鞄から金貨が詰まった袋を二つと銀貨が詰まった袋を出した。


「必要なことに必要だけ使ってくれ。足りなきゃまた出すからよ」


「羨ましいほどの資金力だな」


「まーな。帝国で真珠が大盛況でな、出せば出しただけ買い取ってくれんだよ」


「バイブラスト公爵か?」


 その名に思わず目を見開いてしまった。


「……ほんと、敵わねーな親父さんには。なんでわかんだよ……」


 公爵のおっちゃんだが、無類の飛空船マニアで、よくルククがいる湖まできていたのだ。


 根っからの冒険野郎で、気さくなおっちゃんだから有り余っている真珠を帝国で捌いてもらってるのだ。


「バイブラスト公爵は、別名真珠公爵って有名だ。しかも、その旗は飛竜に跨がった少年の図。前々から噂はあった。公爵の背後には誰かいるってな。まさかベーだったとはな……」


 マジそれでわかるとか恐ろしいわ。マジ敵にしちゃいけねー人だわ。


「……まったく、自分の出会い運に感謝だな……」


 これが敵としての出会いだったらオレの人生真っ黒だったぜ。


「フフ。どうやらおれの運もまんざらじゃねぇようだな」


 その笑みは野望を持った男の笑みだった。


「怖い男だぜ。油断してたら食われちっまうな」


「そりゃ魅力的な誘いだな。だが、それはこっちのセリフだ。これまでにない強敵に背中がびっしょりだわ。まったく、敵じゃなくてよかったぜ」


「そりゃオレのセリフだ。世が世なら英雄になってる男と敵対するなんて考えただけでチビるわ」


 オレに三つの能力があったとしても目の前の男には敵わねーだろう。才能、経験、思考、人徳。全てにオレが劣っている。まさに天に愛された男と言っても過言じゃねーよ。


「クク。お前さんにそこまで言われると、なんか誇らしいな。いや、生きてることに大感謝だぜ」


 益々持って敵にしたくねーな。生きることに貪欲になったモンはしぶとい。凡人なオレがイイ証拠だぜ。


「改めてその依頼を受けさせてもらう。お前に恥じぬ仕事をしようじゃないか」


「ふふ。そりゃなによりだ。こちらも恥じぬよう頑張らねーとな」


 まあ、金だけ出して丸投げなんだがな。


「あ、そうそう。知ってるとは思うが、マフィアの一つがちょっかい掛けてきてんだが、問題ねーよな?」


「まったくない。なんで、ベーの好きなようにするといいさ」


「なんとも心強いこった。今から親父さんの部下になるヤツを紹介してーんだが、大丈夫かい?」


 体的にとか、仲間たちへの説明とかよ。


「依頼を受けたら迅速丁寧がうちの売りさ。なんの問題もない」


 仲間たちを見ると、当然とばかりに不敵に笑うオッサンズ。この出会いマジ感謝。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る