第227話 カリスマ

 寺院に向かう道すがら親父さんに今後の計画を話した。


 まず最初にやることは作業員の確保だ。


 寺院に集まった者が全員働くとは思えねーし、ただ食いにきただけのヤツもいるだろう。まあ、他にも紛れ込んでいるだろうが、そこは親父さんらにお任せ。ガキがやるより強面のオッサンズがやればスムーズだろうて。


 アブリクト貿易連盟員が揃ったらアブリクト貿易島の建設資材の確保だ。


 サプルが改造しているとは言え、そこにあるもので改造するには限りがあり、改造できるだけの土魔法を使えるのはオレとサプルしかいない。


 幾らサプルがスーパー幼女でも海での作業は大変であり、魔術で海水から身を守りながら土魔法を使用すると言うのは凄まじい集中力を必要とする。


 興味のないことには才能を輝かせないって欠陥がある以上、サプルに任せることはできねー。だからってオレがやっても完成させる時間はかわんねー。どうしたって長期になる。


 そこで考えた手が埋め立て方式だ。


 ひょ──じゃなくてアブリクトの横(つっても百メートルは離れているがな)の島との間は浅瀬で埋め立てすればかなりの土地が生まれ、マンションのような集合住宅を造れば三千人は暮らせるだろうし、周辺の島と連絡船を設けたら更に人が住める場所となる。


 人を集めるのに苦労はするだろうが、都市としては成り立ち、経済が生まれる。


 そうなれば周辺国はアブリクト貿易島を認めずにはいられないだろう。なにより利にさとい商人たちが黙っちゃいねー。


 連盟と言ったようにアブリクト貿易連盟員になればここへの入港は自由であり、税金は掛からねー。もちろん、ただではやっていけねーので港使用料とか連盟維持費なんかはもらう。それだけでも莫大な金になるはずだ。総督たる親父さんにも利はある。島に人がくるなら船の補給所や修繕施設は必至だし、船員には食堂や酒場と言った娯楽施設や宿屋、道具屋、鍛冶屋と街に必要な店を設けなければいけねー。そのショバ代だけでも相当な金になるだろう。


 まあ、他にもいろいろ金を生むだろうが、それは島ができてから。まずは埋め立てる土や岩を集めることだ。


 できれは王都の外、それも人がこない場所で作業員を休ませたりする建物や土や岩を置ける広さがあれば文句はねー。が、なければ作業員の建物が優先だ。


 島に土や岩を運ぶ方法は船と行きてーが、この壮大過ぎる計画に混ざろうとする勇気のある商人はいねーから、オレの魔術でやる。どうするかは内緒だ。真似されても困るからな。


 まあ、それも人の集まり次第だが、王都には食うに困るヤツが腐っているほどいるからそうは難しくはねーだろう。


 となれば、マフィアに次ぐ──どころか超える勢力になっちまうが、そこは親父さんの愛と勇気でなんとかしてちょうだい。物理的、魔術的に援護すっからよ。


「そうなると、港の外に拠点を作らんとならんな」


 なるへそ。そりゃもっともだ。全然考えてなかったわ。


 ならどっか家を借りるか? 倉庫はガキどもの家と荷物を置くためのとこだしな。


「拠点はこっちでなんとかする。伝はあるからな」


 顔も広くてなによりだ。ついでに人材もなんとかしてくんねーかな。できれば土魔法か土魔術の使えるヤツをさ。土木工事する職人には土魔法や土魔術を使える者がいるって話だからよ。あと、大工も。一応、島にも家を造って欲しいからよ。


「了解。資金さえあれば難しくねぇさ」


 頼もしいね。惚れちゃいそうだよ。


「ほう。結構集めたもんだな」


 寺院前に集まる屑どもに感嘆の声をあげた。


 どこかの腰抜けくんのお陰さ。イイように動いてくれて助かるよ。


「まあ、あれはどうしようもないからな。他のマフィアも頭を痛めてたよ」


 そりゃご愁傷さまだな。同情はしねーけど。


「あそこにいるエルフ、もしかして赤き迅雷のカーチェか?」


 ああ。その横にいるのがオレの家族で名はタケル。ちょっと変わった船の船長でカーチェはその補佐兼指導を頼んでいるよ。赤き迅雷、解散するからな。


「そりゃまた大事だな。なにかあったのか?」


 リーダーのザンバリーのおっちゃんがうちのオカンと結婚するんでな、パーティーを解散することになったんだわ。他の二人はどうするかは聞いてねーから知らん。


「A級の冒険者が父親ね。益々ベーとは敵対できんな」


 まあ、仲良くできる理由がいっぱいあってなによりだな。


「こいつらを使えと?」


 カラエらを紹介しての一言。あ、そこのドワーフのガキはオレの弟分のデンコ。よろしくな。


「……まあ、人は多いに越したことはないか。ベーが選んでなにかを企んでんだからな」


 そんな大した企てはしてねーよ。ただ、オレの代わりに働いてもらうだけ。オレがいるべきところはボブラ村だからよ。


「……村人が黒幕って、冗談にもほどがあるわ……」


 突っ込みはノーサンキュー。オレが隠れるくらい働いてくださいませ。


 では、我らが総督どの。ご挨拶を。


「おれはブラーニー。元冒険商人で今はアブリクトの頭。お前たちの親分ってことだ。認めないと言う者は去れ。従うと言う者は残れ」


 誰も動かず、黙って親父さんを見ている。


「アブリクトの決まりはいろいろあるが、大事なことだけ覚えておけ。働いたら食わしてやる。働いたら服を与えてやる。働いたら寝る場所を与えてやる。働いたらお前らに明日を与えてやる。ブラーニーの、アブリクトの名に誓って約束する。今日はいっぱい食って明日から働け!」


 起こる大歓声。


 まさにカリスマ。これぞカリスマ。まったく持って敵わねー。なんで冒険商人に甘んじていたかわかんねーよ。


 だが、これでオレの仕事が一つ減った。やっと会長さんちにいけるぜ。

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