第225話 絶対ルール

 ──っては来てみたものの、港は関係者以外立ち入り禁止だったっけ。しかも、どこにいっかわかんねーじゃんかよ。


「……どーすっぺ……」


 まあ、オレの出会い運に身を任せて不法侵入。ちょっくらごめんなさいよ。


 テキトーなところで迷彩結界を解除。さて、どこでしゃろ。


 辺りを見回すが、見知った者はいない。つーか、閑散としてんな。


「船も少ねーし、出港したか?」


 商売繁盛でなによりと、取り合えず港をさ迷って見るかと方向転換したら赤毛のねーちゃんがそこにいた。


 オウ。なにこの出会い運? なんか怖いんですけど。オレ、マジでなんかに呪われてる!?


「……あんた……」


 買い物帰りなのか、両手に食料品が詰まった鞄を持っていた。意外と近くに住んでんのかな?


「久しぶり……ではねーか。まあ、会えてよかったぜ」


 まあ、ここは神のお導きと解釈しておこう。鰯の頭もなんとやらだ。


「あ、会えたって、なんかようなの?」


 なにやら歓迎されてないご様子。オレ、なんか嫌われるようなことしたっけか?


「ああ。ねーちゃんの親父さんにな。連れてってもらえねーかい?」


「……なんの用なの……?」


「商売の話さ。まあ、ねーちゃんが認めねーつーなら帰るがな」


 そこそこは賢いよーで、オレの言い回しに露骨に顔をしかめた。


「気が付くのはイイが、それを顔に出すのはいただけねーな。そんなんじゃ親父さんを越えられんぞ」


 図星だったようで、さらに顔をしかめてしまった。アハハ。わかりやすいねーちゃんだ。


「お嬢、どうしやした?」


 と、ごっついオッサンズが湧いて出た。


「なんだテメーは?」


 ジロリと睨みつけるオッサンズ。なんか最近、こんなんばっかりじゃね、オレ?


「どうやら体力が戻ったみてーだが、あんま無理すんなよ。急激な回復は体にイイようで長期的に見ればワリーからな」


 ファンタジー薬は効きは早いが、それは無理矢理回復させているだけで、どっかの摩訶不思議な世界から力をもらっているわけじゃねー。歪みはどうしても出るのだ。


「テメーが、いや、あんたがおれたちを救ってくれた薬師のガキか!?」


 あ、そー言やぁオッサンズ、気絶したままだったからオレを知らねーんだったっけ。


「ああ、その薬師のガキだよ」


「すまねぇ! 恩人に失礼をした」


 と、一斉にオッサンズが頭を下げた。


 ……なんとまあ、随分と義理堅いオッサンズだな……。


「気にしなくてイイさ。薬師として代価はもらってるしな。こっちこそ毎度ありさ」


 代価もさることながらイイ商売ができたことが一番の儲けだぜ。


「それより、だ。オレはあんたらの船長さんに会いてーんだが、案内してもらえっかな?」


「もちろんだ。恩人に閉ざす桟橋はねぇさ」


「──ちょ、バルーナ!? そんな勝手に!」


「お嬢。あっしらその感情は気に入ってやすが、それは時と場合ですぜ。潮目を見抜く目を持て。それが今ですぜ」


 ほぉう。さすがあの船長の下にいだけはある。イイ目とイイ精神を持ってやがるぜ。まさに叩き上げ。超一流の冒険商人だ。


「……わ、わかってるわよ! 来な!」


「フフ。可愛がられてんだな」


 オッサンズリーダーにニヤリと笑って見せた。


「……なるほど。船長の言う通り、ただのガキじゃねぇな……」


「オレは生意気なくそガキさ。ただのオッサンじゃねーオッサン」


「オッサンは余計だ。おれはまた三十だ」


「そりゃ失礼。難しい年頃だったな。じゃあ、お兄ちゃんって呼ぼうか?」


「……オッサンでいい。なんかお前に言われるとムズいわ……」


「アハハ。そりゃ助かる。オレも言ってて体がムズいわ」


 顔は悪いが中身は気持ちイイ男じゃねーか。気に入ったよ。


「はぁ~。なんかお前と話していると調子狂うな。まあ、いい。きな。案内してやるよ」


 と、オッサンに連れてってきたところは商館の横にある建物だった。


 商館よりはショボいが、造りはしっかりしている。旧館かなんかか?


「オッサンらは結構歴史ある冒険商人なのか?」


「なぜ、そう思うんだ?」


「旧館だろう、ここ。なら、新参者は入れんと思ってな。ここにいるヤツら、無駄に矜持が高かったからよ」


 老害化してダメになったイイ見本みてーなとこだったしな。


「……お前、いったい何者だ……?」


「ああ、自己紹介がまだだったな。オレはベー。ボブラ村のもんさ。よろしくな」


 なんか納得いかねー顔で見られてるが、無理矢理オッサンの手をつかんで握手した。


「……そう言うことにしておくよ」


 ため息一つ吐き、中へと入った。


 ただの事務所と使われているらしく、受付とかはねーようだな。


 三階へと上がり、海に面した部屋が親父さんの事務所のよーだ。


「へー。結構広いんだな」


 新館は十五畳くらいだったが、旧館は二十畳以上はあり、別室へと続くだろう戸が三つ見えた。


「よくきたな、ベー」


 オレの薬と食事、そして充分な睡眠をしたようで顔色はイイよーだ。


「おう。お邪魔するよ」


 中へと通され、質素なテーブルに案内しれた。


 席へと座ると赤毛のねーちゃんが茶を出してくれた。


「へ~。ライ茶とはスゲーな。南の大陸にもいってんのかい?」


「南の大陸の茶を知ってるとか、本当におもしろい男だな」


 さすがだな。ガキとは言わねーよ。


「まーな。南の大陸に友達がいて毎年いろいろ送ってくれっからよ」


「ほう。そりゃ羨ましい。なら、違うのを出そうか?」


「いや、これでイイよ。ライ茶も好きだからな」


 ちょっと独特な味がする茶だが、慣れるとハマる味なのだ。あと、漬け物と合う。


 一口頂き、親父さんを見る。


「冒険商人、辞めんのかい?」


 事務所が所々片付けられていた。


「ああ。船もないし、信用も落ちたからな。しょうがないさ」


「そうかい。そりゃしょうがねーな」


 なんとも腐った話ではあるが、こちらにとってはありがい話だ。


 言葉が途切れ、お互い見つめ合う。


 親父さんはオレから目を外さず、不敵な笑みを絶やさない。まるで己の全てを見せるかのように。


「……一つ、親父さんに依頼を出したい」


「引き受けた」


 即答に思わず笑いが込み上げてくるが、それを堪えてポケットから風の魔道剣を出してテーブルに置いた。


「前金だ。受け取ってくれ」


「ああ。確かに受け取ったよ」


 気に入った。それがオレの契約書。譲ることができねーオレの絶対ルールだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る