第216話 不純な理由

 さて。こいつらの使い道は前から考えていたからイイんだが、さすがに今すぐ使えるとはいかねーな。


 今は腹いっぱいになって満ち足りた顔をしているが、これまでの食生活と不摂生、教育がなされていないことにより、買い物させるために仕込むのにも数日は掛かるだろう。


 人材は欲しいが、いつまでもこいつらに付き合っている訳にはいかねーし、細々と指示を出すことも不可能だ。


「やっぱ、リーダーを選ぶしかねーか」


 それはそれで問題があるんだが、それを一気に解決できる知恵なんてねーんだからできる選択肢を選ぶしかねー。


 ガキどもの行動や仕草、会話からリーダーに向いている、もしくは使えるヤツを見分する。


 一人はもう決まっている。ここまで案内してくれた十二、三の女の子だ。


 あれはつい最近まで人並みかそれ以上の生活をしていたヤツと見る。なぜなら立ち振舞いに品があり、少なからずこんな生活をしていることに抵抗がある素振りがあったからだ。


「腹は満たされたか?」


 姉妹か知り合いかはわかんねーが、オレくらいの女の子と寄り添っているところに近付き、声を掛けた。


 オレの読み通り、直ぐに立ち上がり姿勢を正した。オレくらいの女の子はその後ろに隠れてしまった。


「あ、ありがとうございます。は、はい。久しぶりにお腹いっぱい食べました」


 言葉使いからして商人……いや、貴族っぽいな。


「気にしなくてイイ。仕事をしてもらうために食わせたんだからな」


 そこはハッキリさせておく。慈悲で助けたんじゃねーとな。


「あ、あの、わたしたちは、なにをすればよろしいのでしょうか……?」


 教育をされただけに、この状況に怯えてんだろう。目も体も震えていた。


「まず名前を教えてくれっか?」


「し、失礼しました。わたしは、カラエと申します。この子は妹のバーニです」


「カラエとバーニね。単刀直入に聞くが、貴族だったのか?」


 聞くと、一瞬体を強張らせたが、小さく頷いた。


「別に深く聞くつもりはねーし、あんたらの過去に興味はねー。まあ、お家再興してーって言うんなら今すぐ帰ってもらうが、したいのか?」


「──いいえ! そんなこと考えておりません!」


「ならイイさ。まあ、それだけはっきりしゃべれんなら並み程度の文字と計算はできるな?」


「はい。幼年学校は出ています。妹は途中までですが……あ、計算は得意な子なのでどうか使ってください!」


「心配すんな。働く意欲があるなら働いてもらうし、それに見合った給金も出すからよ。それでだ。あんた──カラエにはオレの代理としてこいつらを纏めてもらう。ある程度の権限と金を渡すからカラエの判断で使ってよし。ただし、使った内容はこれに書いてもらうぞ」


 収納鞄からタダの鞄と帳面と筆記具、そして金を出してタダの鞄に詰めてカラエに渡した。


「その鞄にはちょっとした魔術を仕掛けてある。そこから出せるのはカラエだけ。他の誰にも出せねーし、カラエから剥がすことはできない。万が一、妹を人質に取られて渡せと言われたら渡してやれ。それで相手は動きを封じられるからよ」


 まあ、カラエ自身にも結界は施しておく。雇い主として大事な従業員(?)を守るのも義務だからな。


「……あ、あの、わたしにそんな大役など無理です……」


「無理でもやってもらう。嫌なら帰れ」


 バッサリと切り捨てる。が、それじゃあタダの脅しだ。ちゃんと言葉を増やしてやんねーとな。


「なにも完璧に皆を纏めろとは言わねーし、ちゃんと補佐も付ける。わからないことがあればここの院長さんに頼れ。少しずつ皆を纏めて、ガキどもに文字や計算、仕事を教えてやってくれればイイさ。どうだ?」


 優しく問いかけてやる。


 オドオドして長いこと考えていたが、妹の存在に気が付き、オレを見てまた小さく頷いた。


「……やらしてもらいます……」


「よし。任せた。こい」


 カラエを引っ張り、土魔法で創った演台に乗せた。


「お前ら、こっちを見ろ」


 寛ぐガキどもをこちらに向けさせる。


「こいつはカラエ。オレの代理でお前らのリーダーだ。こいつの命令に従えないヤツは帰れ。逆らうヤツはオレが許さねーし、容赦もしねー。ましてや食い物はやらん。それを頭に叩き込んでおけ。そこのお前、立て」


 デンコが同じドワーフだと言った者を指差して命令する。


 ビクッと、体を跳ねらせ、周りに助けを求めたが、誰も助けてくれないと理解したのか、脅えながら立ち上がった。


「名前は?」


「……リ、リム……」


「よし。リム。こっちにこい。そこのお前、立て」


 リムがこちらにくる前に次を指差した。


 十一、二の犬耳を生やした女の子(だと思う。汚くてはっきりとはわからん)は、脅えながらも直ぐに立った。


「名前は?」


「……タジェラです……」


「よし。タジェラもこっちにこい。一番後ろにいる、マフラーを巻いたお前、立って名前を言え」


 オレよりやや下ではしっこい感じの人族のガキだ。


「……ダムって言います……」


「こっちに来い」


 呼んだ三人を演台に上がらせる。


「こいつらはカラエの補佐。まあ、カラエが一番。二番がこいつらってことだ。今はわからなくてもイイが、こいつらに逆らったら食い物をもらえなくなるとだけ覚えておけ」


 あとの面倒は院長さんに任せ、一日でも早く仕事ができる体にしてもらう。


「お前ら、来い」


 四人ぷらすオマケ(バーニが離れないもんでな)を連れて倉庫へと帰り、まず風呂に入れて身を綺麗にさせた。


 もちろん、女はカラエに任せ(ドワーフ、女の子でした)、ダムはオレが綺麗にさせた。


「よし。綺麗になった。じゃあ、これを着ろ」


 オレのお下がりをダムに着させる。女の方はサプルのお下がりとオカンのお古を渡しておいたよ。


 オレたちが出てから二十分くらいしてやっと女組が出てきた。


「……す、すみません。遅くなりました……」


「構わんよ。女の風呂なんて長いと決まってるからな。ほれ、髪を乾かせ」


 温風の魔術で女らの髪を乾かしてやる。あ、ダムもな。


「さて。お前らには仕事をしてもらう。これはガキどもにもやってもらうことだからしっかり覚えろよ」


 三人にもタダの鞄を渡し、カラエに言った内容の説明をする。


「あ、あとデンコ。お前はこいつら以上に覚えてもらって、お前がこいつらを守る立場になってもらう。お前が言い出したことなんだからな」


 真っ直ぐデンコの目を見て言った。


「わ、わかっただ! おら、頑張るだよ!」


 まあ、なんか不純な理由(ドワーフの少女を見ながら言ってます)だが、男なんてそんなもの。頑張る理由には充分か。


「よし。ならいくぞ」


 再度、買い物へと出かけた。 

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