第215話 お導き

 土魔法で直径一メートル。深さ四十センチの鉄鍋を創り、うちで消費が少なく大量にある鳥煮を入れて行く。あ、決して処分しようと思ってじゃないので勘違いしないようにね。


 熱々のまま結界で封じているので入れる度にイイ匂いが辺りに漂っていく。


 それに釣られて浮浪児どもが集まってきて、魅いられたかのように見詰めている。


「デンコ。土魔法で皿とスプーンを創れ。ガキどもがお待ちかねだ、急げよ」


 これも修行。機会があればやらせるのがオレ流の教えだ。


「わ、わかっただ!」


 まあ、小さいとは言え、トータとタメをはれるくらいのゴーレムを創れるのだ、そんなに難しいことじゃねーがな。


 少々不揃いなお椀とスプーンができあがったが、これは数をこなせば機械で造るように正確で大量に創れるようになるので問題ナッシングだ。


 それらを高熱結界に入れて焼き、冷ませば完成だ。


 たっぷりと盛り、次々と配っていく。


「いっぱいあんだ、急いで食うなよ。腹がびっくりして食えなくなんぞ」


 まあ、無駄だと思うが、これも経験だ。胃薬は充分あるからやったれだ。とか思ってたが、以外と浮浪児の胃袋は丈夫のようでガツガツと食っている。


「デンコ。ちょっと面倒見てろな」


 ガキどもを任せ、唖然としてる院長さんのとこへといく。


「あー院長さん。なんかいろいろ限界なんで口調を元に戻させてもらうわ」


 ダメだ。これ以上やったら発狂する。オレの口調は変えちゃダメ病に犯されてるぜ。


「え、あ、え? あの、いったい……」


「さっきの口調は作ったもの。これが本当のオレってことさ。耳障りかもしんねーが、我慢してくれや」


 やっぱオレには上品な暮らしはダメだな。雑で適当に生きられる村人が一番だぜ。


「まあ、口調を偽ったのは謝るが、言ったことにウソはねーからよ」


 ま、真実でもねーがな。


「ガキどもを食わせる金も物資もオレが出す。バカが寄ってこねーように後ろ楯も用意する。院長にはガキどもの世話を頼む。人手が足りないならあん中から使えるヤツを選び出して見習いにするなり孤児院の世話役にするなりして使え」


 少なくてもここまで案内したヤツは使えるだろうよ。


「あと、ガキどもに字と計算を教えてやってくれ。バリアルの街の孤児院でも使った教材を渡すからよ」


 単語を焼き印した文字や九九の板を収納鞄から出して院長さんに渡した。


「まあ、急ぐことはねーさ。まずガキどもに食い物を与えて不安をなくしてやってくれ。それができたら勉強だ。ここにきて文字や計算を覚えたら食事ができる。そんな場所にしてくれ。ただし、文字や計算を覚えたかをテスト……試してもらい、できたら食べられるがダメだったらできるまで食事抜きだ。厳しいと思うが、そこで怠けたり挫けたりするヤツに生きる価値はねー。まあ、大精霊サフィールがそんなヤツでも見捨てられねーって言うなら好きにしたらイイ。オレは全てのことから手を引く。勝手にしろだ」


 この時代で至れり尽くせりなんて害悪でしかねー。生きたきゃ強くなれ。生きたいと強く思えだ。


「……わたしに、できるでしょうか……」


「不安に思うのも当然。戸惑うのも当然。それが人だ。生きるってことだ。無理なら逃げてもイイさ。それもまた院長さんの勝手だ。大精霊サフィールでも強制はできねー。オレにもできねー。それを強制したり咎めたりすることができるのは己だけ。あんただけだ。だから己で決めろ。できるかできねーじゃなく、やりてーかやりたくねーか、な」


 これは院長さんの意志と覚悟があってこそ。それが前提条件だ。ダメなら食わして終わり。また明日から畜生のように生きろだ。


「……わたしは、あの子たちを導きたいです……」


 院長さんにどんな思いがありかは知らんが、その目には強い意志とやり抜く覚悟が見て取れた。


「ガキどもとオレとの出会い、院長さんとオレとの出会った。まさに導かれたように、な。これぞ天命──いや、院長さんに与えられた使命だ。恐れんな。導きのままに突き進めや!」


「はい! この使命、必ずややりとげて見ます!」


 チョロいと言うことなかれ。宗教なんてノリと勢い。哀れな子羊なんてこんなもんさ。


 パニア修道院でのマニュアル(パニアの院長さんに書かした苦労譚だな)を渡し、金の使い方や今後の方針を軽く説明する。


「どうしてもダメなときはパニア修道院から人を回してもらう。だからまずは己の力を知り、限界を知れ。ガキどもを身近で守るのは院長さんなんだからよ」


「はい! 頑張ります!」


「無理なときは無理と言えよ。院長さんの前にはガキどもがいるが、その後ろにはオレやパニア修道院がいる。院長さんが倒れねーように支えている。だから、院長さんは笑顔を絶やすな。恐れんな。どこまでも突き進みな」


 オレは裏方タイプ。陰でこそこそ動くのを得意とするのだ。


「はい! ベーさまのお導きのままに」


 クックック。ああ。オレのより良い暮らしのためと、貿易都市の人材確保のためにも導きますとも。  

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