第214話 人は使いよう
予想外に浮浪児が集まった。
いや、浮浪児をこれだけ集められるとは思わなかったと言うべきか、二十四人もの浮浪児を三十分もしないで集めてきたのだ。
「……お前、なんて言って集めてきたんだよ……?」
口が上手いにもほどがあんだろうが。お前はどこのなんのカリスマだよ!
「腹へってんならこいって言っただよ」
なにそれ? そんなことで集まんの? あり得ねーだろう! それともそんだけの魅力を秘めてんのか、こいつはよっ!?
「……ダメ、だったかや……」
しょんぼりするデンコに、ため息をつく。
「いや、ダメってわけじゃねーよ。ただ、お前のスゴさに驚いただけだ」
いやまあ、それもデンコの力だ、兄貴ならそれを認めて伸ばしてやればイイか。
「よし。お前ら、聞け」
浮浪児の目をこちらに向けさせる。
「オレはこいつの兄貴でベーってもんだ。こいつが言ったように腹へってんなら食わしてやる。だが、ただで食わしてやる訳じゃねー。お前らには仕事をやってもらう。まあ、仕事って言ってもそう難しいもんじゃねー。ちょっとした買い物をしてもらうだけだ。やりたいってやつはここに残れ。やりたくねーヤツは帰れ」
なんてこと理解できるわけねーか。学もなけりゃ理性もねー獣と同じ。ただデンコの言葉(魅力?)に釣られて集まっただけだろうしな。
「しゃーねーな。おい、この中で孤児院と一緒になった寺院の場所を知ってるヤツはいねーか?」
そう問い掛けると、十二、三の少女(だと思う)が小さい声で『はい』と手をあげた。
見た目は他と同じだが、目に意志のある輝きを見せていた。
「なら、そこに案内してくれ。お前ら、食いたけりゃ着いてこい」
十二、三の少女に再度案内を促し、孤児院と一緒になった寺院へと向かった。
一キロほど歩いただろうか、スラムとまではいかねーが、あんまり裕福でない住宅地内に、孤児院を兼ねたガリラ寺院ってのがあった。
大精霊サフィールを信仰する寺院だが、あんま、お布施が集まってはいねーようだな。
孤児院の方もあんま大きくはねーみたいで、庭で遊んでいるガキも四人しかいなかった。
デンコと浮浪児どもを庭の方に待たせ、オレは寺院の正面の方に回り、扉を叩いた。
しばらくして扉が開き、中から十七くらいのねーちゃん──じゃなく尼さんが出てきた。
「初めまして。わたし、ボブラ村の者でベーと申します。こちらの院長にお会いしたいのですが、おりますでしょうか?」
あんまり敬語にはなってねーが、今の時代からしたら相手が貴族と勘違いするくらいには敬語になっているだろう。たぶん。
「わたしがこの寺院を預かるサリーと申します。どのようなご用でしょうか?」
あんたが? って目になりそうになったが、無理矢理押さえ込んで笑顔を見せた。
「これは失礼しました。実は街で飢えていた子どもたちに食事を与えたいと思いまして、その場を貸していただけないかと。あ、これはお布施になります」
ポケットから大精霊サフィールの紋が入った布の小袋を出し、院長に渡した。
この小袋は、パニア修道院で作ったもので、寺院を利用する場合に用いるものだ。
「サフィールさまの紋?」
「はい。わたしがお世話になっているバリアルの街にあるパニア修道院でお布施の感謝にといただいたものです」
まあ、バリアルの街なんて知らねーとは思うが、大精霊の紋は信者しか縫えねーし、それ以外の者が縫えば罰があたると言われている。それに、院長か精霊魔法士がなんかの精霊魔法を籠められているので、精霊力を使える者ならその精霊魔法がなんなのかわかるのだ。
「……ファーニの祝福……」
それがなんなのか知らねーが、まあ、わかる人で助かったぜ。
「失礼しました。大精霊サフィールさまのお導きに感謝し、ありがたくいただきます」
小袋に口付けをし、オレに片膝をついて感謝を述べる院長さん。仰々しいもんだな。いやまあ、宗教なんてそんなもんか。
「大精霊サフィールのお導きに従いお使いください」
円滑に事を進めるために相手の流儀で応えた。
「飢えた子供たちに食事を与えたいとのことでしたが、見た通り我が寺院にはとても小さく貧しいところです。火を炊くようなものが……」
「心配には及びません。できあいのものなので火は使いませんので。あと、大変申し難いのですが、子どもたちの数が大変多いのでどなたか手伝いをお借りしたいのですが?」
さすがにオレとデンコだけではキツいわ。
「わかりました。わたしと年長の者がお手伝いをさせていただきます」
どうやら中も厳しいみてーだな。
「失礼ですが、他には?」
「お恥ずかしいことながら、大精霊サフィールさまのお導きを理解できず祝福が足りぬようで、大変困窮しております……」
それはなにより。生臭坊主だったら巡礼の旅に出しているところだ。
「そうですか。では、大精霊サフィールさまのお導きに従い、これで貧困に苦しむ子供たちをお導きくださいませ」
さらにポケットから小袋を出し、背負い籠から薬箱を出して院長さんに渡した。
「少ないでしょうがお納めください。こちらは薬です。この身でありますが薬師として食べております。中に使用法がありますので弱き者をお導きくださいませ」
0円スマイルで相手の信頼をゲットする。
「……ありがとうございます。大精霊サフィールさまのお導きに従い、必ず弱き者らを導いてまいります……」
チョロいと笑うことなかれ。大精霊サフィールを信仰しているとは言え、哀れな子羊を助けてくれるお人好しな神ってわけじゃねーし、人の理は人だけのもの。つまり、人を救えるのは人だけだってことだ。
ましてや金儲けの上手い生臭坊主ってわけじゃねーようだし、ただ人の善意だけを信じてやってきたんだろうさ。
まあ、世間的に見れば甘いことこの上ないんだろうが、甘いなら甘いなりに使い用はある。それを考えもしねーで捨てるヤツこそただ甘の、もっと使えねーヤツだぜ。
「無理をせず、あなたの心のままにお導きください。惰弱ではありますが、わたしもお手伝いさせていただきますので」
「はい! よろしくお願いいたします」
ケッケッケッ。これで王都での人材確保の場をゲットだぜ!
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