第210話 村人ナメんなよ
これ以上、腹を膨れさせても悪いので、続きは村に帰ってからってことにした。
「と言うか、なぜベーが王都にいるんだ?」
今更なことを聞いてきた。
「んーいろいろだな」
買い物がメインだが、全ての問題に絡んでるからそうとしか言いようがねーんだよ。
「……なんだろうな。これまで危険なこと、過酷なことを乗り越えてきたのに、そのいろいろが怖くて聞けねーよ……」
「まあ、別に巻き込む気はねーから心配すんな。オカンとよろしくやってろや」
どれもこれもオレの問題であり、オレが望んで関わっていることだ。他には迷惑……掛けたらスンマセンだ。
「バカ野郎! 水臭いこと言うんじゃねぇよ! 自分の子供になるヤツをほっとけるほど腐っちゃいねぇぞ!」
あ……そう言う意味で言った訳じゃねーんだが、まあ、そう言うナイスガイ。素直に謝っておいた。
「あ、いや、おれこそ悪かった。怒鳴ったりして……」
「気にしねーよ。オレを心配して言ってくれたんだからな。ありがとよ」
そう言ってくれるヤツはオレにとっての自慢であり宝だ。悪くなんて思えねーよ。
「……お前と話していると、時々自分がガキに思えてくるから参るぜ……」
どんなに強くても、どんなに年をとっていようが、冒険なんてガキがするもの。いや、ガキじゃなくちゃやっていけねーもんだ。大人は保守的で臆病だからな。
「生意気なくそガキの戯れ言だ、気にすんな」
「お前に敵わねぇのはそう言えるところだよ。自分に揺らぎがねぇ」
まあ、手酷い失敗したら二度はしたくねーって思うのが人情さ。
「さて。そろそろいくな。早く帰っていろいろ準備せんとならんからな」
そろそろ四時だ。急がねーと夜になっちまうよ。
「帰るって村にか?」
ザンバリーのおっちゃんはルククのこと知ってるからな、そう思って口にしたんだろう。
「いや、今回は泊まりできたんだよ」
「珍しいな。で、どこの宿屋に泊まっているんだ?」
「いや、宿屋には泊まってねーよ。倉庫借りてそこを拠点にすんだよ」
サプルじゃねーが、この時代の宿屋など汚くてゆっくりもできねー。食事も悪けりゃ風呂もねーんだからよ。
……まあ、そんな潔癖じゃねーから必要なら泊まるけどな……。
「お前はいつも人の斜め上をいくよな。倉庫借りる村人ってなんだよ? 意味わからんわ」
「必要なら右でも左でもいくよ、オレは」
興味もねーことに回り道なんてしたくねーわ。
「倉庫に印付けておくから用があったらきな。夜は……まあ、ザンバリーのおっちゃんらは通れるようにしとくから好きに入って好きなことしてろや」
ゆったりスペースは作っておくからよ。
金を払……おうとしたら先に出されたのでありがたくゴチになっといた。
「おれらはバラオ通りにある白木亭と言う宿屋に泊まっているから、用があればこいな。話は通しておくから」
「あいよ」
片手をあげて応え、親交(?)を深めるカーチェとタケルの元へと向かった。もちろんデンコもいますからね。
「おう。そろそろいくぞ」
と、タケルに言ったのだが、なぜかカーチェも着いてきた。なぜに?
「もちろん、船長と認めたからには着いていくのは当然でしょう」
「まあ、好きにしな」
一人増えようが二人増えようがオレの行動に支障はねー。自由にしろだ。
「んじゃ帰るぞ」
リヤカーを引いて借りた倉庫へと向かった。
問題なく倉庫の入り口までくると、先程の人垣は消えていたが、借りた倉庫の前に警羅隊と思われるおっちゃんが二人と、四つん這いになった若い男が四人いた。
「なんだいいったい。そこにいられっと邪魔なんだが」
警羅隊の片割れに文句を言うと、なぜか怖い目を向けられた。
「貴様か、こんなことをしたのは!」
「だからなんなんだと聞いてんだよ。意味わかるように言ってくれや」
「惚けるな! この者らがこの倉庫に触れて動けなくなったお陰で沢山の人が迷惑してるのだぞ!」
一方的だな、おい。十歳の……いや、十一歳のお子さま相手によ。
「いくら警羅隊と言えど、一方的な態度とってんじゃねーよ。迷惑してんのはこっちだ。帰ってきたら一方的な怒声と決めつけ。通行の妨害。迷惑だ? それはこっちのセリフだ。そもそもオレがやったって証拠はどこから出てきたんだよ。倉庫に触れた? なんで触れただけで四つん這いになんなくちゃならねーんだよ。意味わからんわ!」
ったく。いくら前世よりおくれているとは言え、状況証拠だけでオレを犯人扱いしてんじゃねーよ。
「よろしいか?」
と、カーチェがオレの前へと出る。
「わたしは、カーチェ。冒険者、赤き迅雷の一員だ」
「──赤き迅雷だと!?」
「エルフ!? 雷の矢っ!?」
さすがA級の冒険者。有名ですこと。にしても異名いっぱいだな、カーチェって。
「わたしを知っていただけるとは光栄なことです。それで、なぜこの者がベーの、この子のせいだと言うのです?」
スッゴイ笑顔して二人を脅すカーチェさん。A級ともなれば威圧がハンパないんだからほどほどにね。
「あ、いや、その……」
「…………」
完全にビビっちゃって声も出なくなっているようだ。
「まあ、疑いを掛けられのはおもしろくねーが、入れねーのはもっとおもしろくねーしな。カーチェ。ワリーが排除してくれや」
「了解した」
カーチェがアホに触れたところで結界を一時的解除し、倉庫の前から排除してもらった。
「このくらいの拘束魔術も解除できないとは情けない。王都の魔道隊も質が落ちたものです」
ノリがイイカーチェに笑いそうになるが、必死に堪えて倉庫の扉を開けて中へと入った。海千山千のカーチェに任せておけばイイように解決してくれるからな。
しばらくしてカーチェが入ってきた。
「ご苦労さん。助かったよ」
スピード解決してくれてな。オレだったら夜中まで掛かるどころか警所まで連れてかれるところだったよ。
「構いません。どうせそのためにわたしを連れて来たのでしょう?」
その問いに肩を竦めた。さすがです。
「しかし、いいのですか? あれはマフィアの警告ですよ」
「構わんさ。オレの警告を無視するなら懇切丁寧に相手してやるよ。村人ナメんなだ」
「クク。こんな息子を持つザンバリーが羨ましいよ」
未来のオヤジどの。精一杯の親孝行はさせていただきます……。
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