第209話 お腹いっぱいです
「あーその所行なんだがな、ザンバリーのおっちゃんの記憶につけ足す必要があんだわ」
空気を変えるためにコーヒーを注ぎ、一口啜った。
「まあ、その前にだ。ザンバリーのおっちゃんは、この国の重鎮とかと付き合いあんのか?」
オレの問いに訝しげな目を向けるが、答えが出るまで黙っておっちゃんを見続けた。
「……あるかないかと言えば、ある。今、王都にいるのも冒険者を辞めるための挨拶回りだからな。だが、それはシャニラと結婚するためにしがらみを切るためのものだ。村に行ったらおれは村人だ。シャニラとお前たちを優先する」
うんまあ、こー言う男だから友達になったんだが、巻き込むとなると、ちと気が引けるな……。
「……なにかあったのか?」
「もうありまくりで否定もできねーくらいだな」
会長さんから……でもねーが、ここ一月は濃厚過ぎるくらいの日々だった。もうスローなライフはどこいいったの? ってなくらいだ。まあ、退屈はしなかったがな……。
「……それは、なんと言うか、聞くのが怖くなるな……」
「アハハ。さすがベーですね。話題に事欠かなくて羨ましいですよ」
クールなクセに人四倍くらいに冒険大好きな変わり者エルフなんで、心底羨ましそうな目を向けてきた。
「なら新たな冒険に出てみるかい?」
挑発するような声音と視線をカーチェに向けた。
長い付き合いなんで挑発には乗ってこねーが、いや、ある意味、挑発に乗りまくりな目(キラキラって感じ)で食いついてきた。
「その話乗った!」
「……まだなんも言ってねーだろうがよ」
「ベーが言うんだ、ただの冒険ではないのでしょう。断る理由などあるわけがありません!」
……ほんと、冒険が好きなエルフだよ……。
「まあ、細かい説明はいずれとして、その冒険をするにはこのタケルに付いていくことだ」
親指で食事に夢中になる食いしん坊を差した。
「見ての通り、まだガキで無知だが、こいつを船長として認め、支えてやってくれるのならタケルに頼んでやる。だが、無理だってんならこの話──」
「──トワニ族、カーチェ・バリッサ・ウィーの名に懸けて誓おう。わたしは、タケルを船長と認め、支えると」
冒険のためなら即決即断。オレ以上にバカ野郎なカーチェである。だが、そう言うバカ野郎は大好きだ!
「ってなことで、タケルを頼むわ」
「任せてください。立派な男にしてみせます!」
席を立ったと思ったら、食うことに夢中なタケルの襟首をつかみ、どこかへと連れ去っていった。
「遠くにはいくなよ」
「了解した!」
うんまあ、親交はホドホドにね。あと、タケルがんば!
「ちと、話は逸れたが、まあ、ありまくりの一つってわけさ。あ、カーチェ抜けて大丈夫だったか?」
「……あ、ああ、まあ、挨拶回りはおれ一人でやってるからな」
確かに。他は個性的すぎてお偉いさんの前には出せんわな。
「そりゃよかった。で、だ。おっちゃんらの精神を思いやって軽いところから行こうか」
「なんだよ、その思いやってってのはよ?」
「どんだけスゴいことになってんだい」
「ベーのことだから心臓が止まるくらいなんでしょうね」
まあ、A級の冒険者だし、これで心の準備はできたと理解させてもらいます。
「バーボンド・バジバドルって知ってるか?」
「あ、ああ。大商人で貿易商のバーボンド・バジバドルだろう」
「ああ。その会長さんにうちの領主の排除をお願いした」
「「「はぁ!?」」」
うん、お見事なハモりです。さすがA級冒険者パーティーだ。
「で、ちょっと抜かして魚人のなんたら帝国のバカ王子が攻めてきたから取っ捕まえた」
「「「はぁ!?」」」
ちなみに結界を張ってあるからどんなに騒いでもバッチグーよ。
「秘境アルマランでオークキングが魔王化になってるみたいで、そこに住んでいた獣人族が逃げてきてな、いきがかり上助けることになった。あと、一緒にいたドワーフ一家を雇った。あ、そうそう。行商人のあんちゃんが嫁さん連れて引っ越してきて、うちの隣に店を出したから。ついでに港にもな」
「「「…………」」」
あらま、沈黙ですか?
「あータケルをうちで預かることになったのは省くが、王都の沖にある無人島を貿易都市にすることにしたからよ。あ、モコモコ、じゃなくて、その獣人のための島の開拓も進めなくちゃならんかったな」
いろいろありすぎて忘れそうだな。誰かスケジュール管理してくれんかな。
「えーと、飲み込めてる?」
いやまあ、飲み込めてないのは丸わかりなんだが、このくらい飲み込んでくれんとエリナのことが語れんよ。
「「「お腹いっぱいです」」」
ですよね~。
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