第208話 連携突っ込み

 イヤイヤ待て待てドントストップだ。いや、意味違うわ!


 だから落ち着けオレ。深呼吸だ。ヒッヒッフー。なんてギャグはイイんだよ、ほんと、マジで落ち着けや、オレ!


 コーヒーへと手を伸ばし、一服。ん~マ〇ダム。


 全てを飲み干し、カップをテーブルに置き、息を吐いてザンバリーのおっちゃんを見る。


「マジデ?」


 我ながら情けねーが、そう言うのがやっとデス。


「マジデがなんなのか知らんが、シャニラと結婚したい。認めてくれ!」


 頭を下げるザンバリーのおっちゃん。なんだろう、経験したことねーのに、娘を持つ親の気持ちがわかった気分だよ……。


「……ダメか?」


 上げた顔はとてもA級冒険者の顔ではなく、叱られた飼い犬のようだった。


「いや、ダメってことはねーさ。ザンバリーのおっちゃんが望んでオカンが認めたらオレが口出すことじゃねーよ。クソ! まったく気が付かなかったわ!」


 オカンの名前を忘れてたオレのセリフじゃねーが、鈍いほどがある。まったくこれっぽっちも気が付かなかったよ。


「しっかし、いつからそんな関係になったんだよ? なんもなかったじゃねーか」


 どう思い出しても二人が通じてるとこなんてなかった。あ、いや、二人で話してる姿は何度か見たな。でも、これと言って仲睦まじいなんて感じなかったぞ?


「……に、二年前、くらい、かな……」


「二年も前かよ! ったく、わかるようにやれよ。ガキの恋愛じゃねーんだからよ!」


 中学生だってもうちょっとわかりやすい行動するわ。


「アハハ! まったくだよな」


「ウブにもほどがあります」


「情けないったらありませんわ」


 まったくもって同意見だよ。


「……しょ、しょうがないだろう、これまで恋愛なんてしたことねぇんだからよ……」


 拗ねたように呟くな。四十五だろうが。ったく!


「にしてもなんでオカンなんだよ。オカン、そんなに美人じゃねーし、田舎の女だぞ。しかも三人の子持ちじゃねーか」


 ウブなのはわかったが、A級の冒険者ともなれば選り取り見取り。他にも若くて器量持ちはいんだろうによ。


「シャニラは綺麗だぞ!」


「叫ぶな、こっちが照れるわ!」


 なんだろうね、このおっちゃんは。もっと渋い男だと思ってたのによ。ったく、恋する乙男とか気持ちワリーわ!


「ほんと、なんでオカンなんだよ?」


「……綺麗なのはもちろんだが、懐が深いところに惚れた。冒険者が危険なことを承知しながら止めることはしない。笑顔でいってらっしゃいと言ってくれて、帰ればおかえりなさいと笑ってくれる。正直、そんな女いなかった……」


 まあ、同じ男なので追及はしねーが、オカンの前では言うなよ。まあ、オカンなら気にしなさそうだがよ。


「……チョロイにもほどがあんな。よくそれで女に騙されずこれたな……」


 こんな時代で奇蹟でしかねーよ。


「まあ、そこは流してやるのが優しさだよ。ベー」


 うん、ああ、あったのね。無事でなによりだ。


「ふー。まあ、話はわかったし、オカンと結婚したいのならすればイイさ。オレは祝福するよ。で、結婚後の展望はあんのかい?」


 ザンバリーのおっちゃんにオカンがどう映っているかは知らんが、筋金入りの村人で農家の女だ。都会暮らしなんてできねーぞ。ましてや動いてねーと死んじゃう病に掛かっている。屋敷でオホホな奥さまなんて無理だぞ。


「もちろん、おれが村にいく。ベーの家に入る。……ダメか?」


「いや、ダメじゃねーが、村人になるってことか? A級の冒険者が?」


 A級ともなれば国に仕えて貴族になり、領地だってもらえちゃうくらいの名と実力と金がある。それを捨てると言ってるのだ。


「ああ。村人になる」


 しっかりと宣言した。


「血湧き肉躍ることなんてねー、穏やかな過ぎて欠伸が出る世界だぞ」


「説得力ないな」


「ないわね」


「ありませんね」


 え、なにその突っ込み三重奏。パーティーに必須のスキルなの!?


「お前の側こそこの世でもっと血湧き肉躍る場所だわ。人魚と友達とか一国の王子と文通とか、村人の所行じゃねぇよ」


 ハイ。まったくもってその通りでございます。 

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