第206話 赤き迅雷
そこは、死屍累々になって──はいなかった。
まあ、王都の冒険者ギルドで死屍累々なんてありえねーんだが、それでもアホはいるもの。タケルに因縁つけられて騒ぎにはなっていると思ったんだが、冒険者依頼所は至って平和だった。
午後四時前くらいなので混んではいねーが、それでもそれなりの数はいるのに、あからさまに怪しいタケル(依頼板を眺めてるよ)をアウト・オブ・眼中である。
……王都の冒険者は随分と紳士なのが多いんだな……。
「ベー!」
と、タケルやデンコじゃねー声で呼ばれた。
どちらさん? と声がした方へと振り向くと、これまた懐かしい面々がいた。
「おー! ザンバリーのおっちゃんたちじゃねーか。久しぶりだな」
三ヶ月振りに見たA級の冒険者パーティー──赤き迅雷だった。
人族のザンバリーのおっちゃんがリーダーで、虎の獣人で戦士のねーちゃん。弓使いでエルフのおっちゃん(見た目はあんちゃんだけど、年齢は百才を超えている)。翼人族で魔術師のねーちゃんの四人組で、この国では一番の実力者たちだ。
ザンバリーのおっちゃんらと出会ったのは三歳のときだが、そのときからオレの姿に捕らわれず、対等な立場で接してきた変わり者たちでもある。
「ダリエラ、カーチェ、バリラも久しぶりだな! 元気してたか?」
「元気すぎて鼻血が出そうだよ」
獣人のダリエラは動いてないと死んじゃう病だからな。
「ああ、この通りさ」
エルフのカーチェはいつもすましてクールだな。
「当然ですわ」
頭の左右にあるドリルヘアーを揺らすのはお約束だな、バリラは。
「ああ。ベーも元気そうだ」
相変わらず渋いな、ザンバリーのおっちゃんは。
それぞれ個性は強いものの、気のイイヤツらで付き合いの長い友達だ。ダリエラに抱え上げられ、三人に頭をわしゃわしゃされ、この再会を喜びあった。
「ったく。人形じゃねーんだから抱き締めんの止めろよな」
「アハハ! ベーは抱き心地がイイからね、つい抱いちまうのさ!」
まあ、そう言いつつも抵抗はしないがな。追求はノーサンキューだよ。
「ベーは相変わらず小さいね。ちゃんと食ってるのかい?」
「三ヶ月やそこらで大きくはなれんよ。だがまあ、これでも十一歳になったんだぜ」
この時代に誕生を祝うなんで生まれたときか、五歳になったときぐらい。あとは成人の十五歳まではおめでとーもねーよ。
「もう十一歳か。早いもんだな」
「確かにそうね。会った頃はコボルトくらいしかなかったですからね」
「どんな比較対象だよ。意味わからんわ」
「今も可愛いが、会った頃のベーはコロコロしてコボルトみてぇだったしな」
「そうですね。よくこれで動くもんだと感心したものです」
「まあ、中身はまったく変わってないのがベーのベーたる所以だがな」
「アハハ! まったくだな」
「なんか貶されてる、オレ?」
「手放しで褒めてるんだがな」
ザンバリーのおっちゃんのセリフにその通りだと笑いながら頷いた。なんとでも言ってくだせーだよ。
「にしても、おっちゃんら、なんで王都にいんだ? 帝国にいくって言ってただろうに」
A級ともなればだいたいが国を超えてのお仕事。三ヶ月前きたときも帝国との国境線に黒豹(もちろん、ただの豹ではなく、牛くらいの体格で風の魔法を操るB級指定の魔物だがな)を退治したあと帝国に渡るって言ってたはずだが。
「帝国にはいったが、あそこはハンターギルドが幅を利かしていてな、おれたちでも入る隙間がなかったんだよ」
「まあ、ランクを落とせばやれないこともないんだが、他の縄張りで若いヤツらの仕事を奪うのも悪いからな、止めて帰って来たのさ」
確かにA級に出てこられたらたまったもんじゃねーわな。A級だからこそ住み分けは守んなくちゃなんねーのだ。
「まあ、帰ってきても仕事はないがな」
A級に頼む仕事がそうポンポンあるあるわけじゃねー。あるのイヤだがよ。
「だから、パーティーを解散しようと思ってな」
は? はぁあぁっ!!
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