第205話 依頼完了

「さて。冒険者ギルドにいかねーとな。おばちゃん、また買いに来るよ」


 コリクリを入れ終わり、背負い籠をリヤカーに戻して出発する。


「勇者っていたんですね。さすが異世界!」


 タケルは喜んでいるようだが、オレは嫌な予感しかしねーよ。


 どうもオレは転生者との遭遇率が高いとしか思えねぇんだもん。


 だがまあ、必ずしも遭遇するとは限らねーだろう。相手は姫であり勇者である。村人のオレなんかと接点なんて繋げようがねーだろうさ。


 それよりも冒険者ギルドに早く行かねーと夕方になっちまうよ。寝床とか屋台の組立とかあんだからな。


 蒸かしイモを売っていたおっちゃんに教えてもらった通りに進んで行くと、王都の冒険者ギルドが見えてきた。


「ほぉ~。さすが王都にあるだけあって冒険者ギルドの建物は立派なもんだな」


 木造三階建てで脇には広場や訓練施設、買い取り専用の建物兼倉庫、冒険者ギルドが経営する宿屋や食堂が併設していた。


「なんか他とは造りも雰囲気も違いますね」


 確かに。建物自体が重厚な造りか醸し出す雰囲気と、そこにいるヤツらが生み出す気配がビンビンと伝わってくるぜ……。


 玄関の前はちょっとした広場が造られ、辻馬車や馬車持ちの冒険者が思い思いのことをしていた。


 そんなヤツらの邪魔になんねーように、広場の端にリヤカーを停めた。


「デンコとタケルはその辺見てろ。ちょっくら依頼を出してくっからよ」


「おれ、いかなくてもいいんですか?」


「依頼を出すだけだからな、護衛とかはいらねーよ」


 冒険者が集まる建物と依頼を出す場所は違うらしく、まあ、事務所的なところだから穏便に済ませた方がイイだろうよ。


 ……さすがにタケルの格好は不審者級に怪しいからな。いやまあ、オレが命じたんだけどよ……。


 それに、残したのはタケルの根性を鍛えるためのものでもある。


「まあ、怖いおにーさんらに可愛がってもらえや」


 ちょっと冒険者がお仕事から帰ってくるには早い時間だが、仕事にも行かねーで新人をイビるヤツは必ずいるもの。なら、タケルのために糧になってもらわねーとな。


「えーと、依頼受付はどこだ?」


 焼鳥屋のおっちゃんは、本館から買い取り施設の横だって言ってたな。どれ、あっちかな?


 いって見ると、ご親切にも買い取り施設の前に案内板が立っていた。


 その案内板で見ると、買い取り施設の横、なんか館っぽいのが依頼館のよーだ。


 冒険者ギルドは、何でも屋の側面が多大にあるよーで、依頼を持ってくる人が結構出入りしていた。


「出入り自由なのか」


 まあ、冒険者ギルドに強盗しようってバカはいないか。一般職員でもそれなりに戦闘力がないと入れねーって話だからな。


 玄関を入ると、バリアルの街の冒険者ギルドのように総合受付カウンターが構えてあった。


「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用でしょうか?」


 カウンターに近づくと、十七、八のねーちゃんが先に声をかけてきた。


「初めて依頼を出しにきたんだが、どうすっとイイんだい?」


「ありがとうございます。依頼でしたらあちらになります。受付の者に声を掛けて番号札をもらってください」


 なんかハローワークに行ったときのこと思い出すな~と、どうでもイイことを考えながら指示された方向に進み、カウンターにいるおば──じゃなくておねえさんに声をかけた。


「順番札になります。番号が呼ばれるまであちらでお待ちください」


 と、長椅子のあるところを手で示した。


 言われた通りに長椅子に座り、番号札を見る。


 ……六十二番か。もし、今日の朝からの順番だったら相当利用されてんだな、冒険者ギルドって……。


 オレの前には四人いるからまだまだ先かと、明日のことを考えながら待つことにした。


 しばらくして番号が呼ばれ、個室へと案内された。この辺はバリアルの街と変わらんのな。冒険者ギルドの形式美なのか?


「わたし、アルゼムと申します。よろしくお願い致します」


 線の細い、年齢不祥なあんちゃんがオレの担当者のよーだ。


「こりゃご丁寧に。オレはヴィベルファクフィニー。ボブラ村のもんだ、よろしくな」


 やはりオレの名前に表情一つ動かさなかった。ほんと、優秀だな、冒険者ギルドの職員ってよ。


「言い辛いときはベーと呼んでくれ。村ではベーで通ってからよ」


「はい。ではベー様と呼ばせていただきます」


「あいよ」


「それで今日はどんな依頼をお持ちに?」


 バリアルの街の冒険者ギルドで言ったことを同じように言うと、さすがに微妙な顔をされた。


「正直、その報酬では誰もこないかと」


「しょうがねーさ。貧乏な村ではこれが精一杯なんだからよ。まあ、物好きな者がいることを願っての依頼だからな」


 記録さえ残れば受けても受けなくても構わねーさ。どうせ証拠残しなんだからよ。


「まあ、二月は出してくれや。その間、誰も依頼を受けねーなら依頼を取り下げてくれ。あとは村でなんとかすっからよ」


 微妙な顔をする年齢不祥のあんちゃんだが、長い沈黙の末、依頼を了承してくれた。


「では手数料として銀貨十五枚をお願いします」


 おっ。やはり王都は高けーな。バリアルの街では銀貨八枚だったのによ。


 まあ、物価が違うしと、素直に金を払った。


「では、報酬はボブラ村の冒険者ギルドの支部でお願い致します」


「あいよ。ありがとさん」


 さて。王都での目的の半分は終わらせたし、残り半分を堪能しますかね。


 心軽やかに依頼館を出た。

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