第204話 姫勇者

「ねぇ、ベーさん。なんか、やたらと壊れてる家が多くないですか?」


 屋台で買ったチーズ乗せ蒸かしイモ(チーズはオレのポケットから出したもの)を食べていたタケルがそんなことを言ってきた。


 言われて周りを見れば、確かに壊れてる──つーか、斬られてねぇ? 


 なにかが当たって壊れたとか、老朽化で崩壊したとかじゃなく、明らかに鋭利なもので斬られ、重力に従って落ちて壊れた、ってな感じだった。


「どっかのバカが風の刃で斬ったんか?」


 サプルも前に同じことして、我が家を建て直すことがあったのは今ではイイ思い出、としておこう。うん……。


「あ、あっちはクレーターできてますよ。隕石でも落ちたんですかね?」


 いや違うだろうと言えねーくらい、上からなにかが落ちてきて家が中から吹き飛びクレーターができたってな状況にしか見えなかった。


「にしては街のもんに動揺とかはねーな」


 オレたちにだけに見える怪現象ってわけじゃねーようだし、ちゃんと立ち入り禁止の札が立っている。


「ちょっくら聞いてみるか」


 イイ感じに露店が立ち並ぶ脇道があったので、そっちに進み、これまたイイ感じのコリクリと言うらっきょのような玉ねぎのような根菜を売る露店があった。


 このコリクリって根菜、薄く切って天ぷらにするとウメーんだよな。


 うちの村やバリアルの街周辺にはなくて、王都周辺で採れるもんだから、なかなか食えねーんだよ。


「おばちゃん。ここにあるコリクリ全て売ってくれや」


 王都周辺の村から売りにきている感じのおばちゃんらしく垢抜けてないが、肝っ玉は筋金入りって感じだった。


「ぜ、全部かい?」


「おう。全部さ。銀貨一枚、いや、銀貨一枚と大銅貨三枚でどうだい?」


 ポケットから銀貨一枚と大銅貨三枚を出しておばちゃんに見せた。


 相場なんて知らねーが、露店で一日の売上が銀貨一枚になれば儲けたってことは、以前、焼き鳥屋のおっちゃんに聞いたことがある。


 畳一畳くらいの台に山盛りとなってるし、銀貨一枚と大銅貨三枚なら文句はねーだろうよ。


「……か、買ってくれんならありがたいけど、こんなにいっぱいあんのに持っていけんのかい?」


「問題ねーさ。荷車があっからな。おい、デンコ。背負い籠を頼む」


「はいですだ」


 デンコが引くリヤカーに乗せた背負い籠を持ってきてもらい、山盛りのコリクリを三人で入れていく。


「あ、そー言やぁよ。なんか壊れてる家とかあちらこちらで見たんだが、なんなんだい、あれは?」


 結構な量で時間がかかりそうなんで、このおばちゃんでイイかと聞いて見た。


「あんたら王都の外からきたのかい?」


「ああ。ボブラ村って遠い村から買い出しにきたもんでな、王都の話題にはまったく無知なのさ」


「ボブラ村かい? 聞かない村だね」


「だろうな。歩いて一月はかかるくらいの距離だからな」


 まあ、潜水艦で三時間くらいの距離つってもわかんねーだろうしな。歩いてがわかりやすいだろうさ。


「あ、歩いて一月かい!? そりゃまた遠いとこからきたもんだねっ!」


「まあ、これも商売。儲けとなれば隣の国にだっていくさ。おばちゃんだって朝早く起きてここにきてんだろう?」


「まあ、確かにそうだ。アハハ」


 笑うところがどこかわかんねーが、取り合えず笑っておく。おばちゃんと話すにはこんくらいできねーと精神をごっそり削られっからな。


 ……まあ、二人以上のところには死んでも入りたくねーがな……。


「んで、なんなんだい、あの壊れた家は?」


 あるていど付き合ってから本題に入る。これがおばちゃんと話すときのコツだぜ。あ、目から汗が……。


「ありゃあ、姫勇者さまの仕業さ」


「姫勇者? なんなんだいそりゃ?」


 初めて耳にしたわ。


「王さまの四番目の子でね、天から勇者としてお告げがあったんだよ」


 いやまあ、神(?)がいて精霊とかいる世界だからお告げの一つや二つあっても不思議じゃねーが、そんな告げるような神っていたっけ? どっかの宗教国家ならわからなくもねーが、うちの国、大精霊を奉ってる国だろう。良き恵みを与えたまえ、とかなんとか祈る国だぜ。天にいる神さまとか祈ってとこ見たときねーわ。あ、いや、そんなに見たわけじゃねーけどさ。


「まあ、そう言う顔になるのは当然さ。あたしらも直接聞いたわけじゃないからね。けど、お城に住むお偉いさんたちは皆聞いたって話だよ」


「そりゃなんと言うか、お城のお偉いさんは戸惑ったことだろうよ」


 魔王に狙われてるとか、国家存亡のときって言うならラッキーだが、これと言って災いのねー平和なときに勇者とか言われても『はぁ』としか言いようがねーよ。


「まあ、確かに聞いた話じゃ相当戸惑ったみたいだよ。けど、天からのお告げだ、蔑ろにはできない。将来なにかあるから姫勇者さまが遣わされたかもしれないからね」


「そりゃまあ、そうだな。なってからよりなる前に使わしてくれた方がイイものな」


 最悪がわかってて、なってから使わす神よりなる前に使わしてくれた神さまの方が断然ありがたいし、親切ってもんだわな。


「そんなもんだから姫勇者さまが暴れてもなにも言えない訳さ。実際、姫勇者さまが街に出てきてからは悪党が減ったし、ちゃんと国から見舞金も出る。幸いにして死んだヤツもいないから文句は出ないんだよ」


 まあ、街のもんにしたら恩恵はあるだろうが、城にいるもんは大変だろうよ。


 天からのお告げだから人の口を塞ぐことはできねーし、捨てるにも捨てらんねー。だからと言って放置してたらなにをするかわかんねー。好き勝手やらせて万が一民を傷付けたりすれば反感を買うかもしんねー。もう数え上げたらわかんねーくらい問題ありまくりだ。まずはお偉いさんの胃を救ってやれよだ。


「その姫勇者さまって、何歳なんだい?」


 去年きたときは全然平和だったから若いのは想像できっけどよ。


「六歳だよ」


「はぁ? 何歳だって?」


「だから六歳だよ」


 ああ、そりゃ転生者だな。と、なぜか確信してしまった。

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