第203話 主義主張

 前世で『騙される方が悪い』とご立派なことを言った民族がいた。


 その逆で『騙す方が悪い』と言ったご立派な民族もいた。


 別にどっちが悪いと言いたいわけじゃねー。


 どちらもそうなる事情があり、歴史があったんだろうからな。


 オレだって『騙した』こともあれば『騙された』こともある。どうこう言う資格はねーさ。


 だが、騙さず騙されねーヤツはスゲーと思うし、尊敬もする。それが理想だとも思う。


 まあ、そんな立派なヤツになれるわけじゃねーし、オレは相手の主義主張を否定はしねー男だ。


 気に入れば受け入れるし、気に入らねーなら拒否はする。それだけのこった。


「……え、えーと、なんですか、この人たちは……?」


 食事を終え、店から出るとガラのワリー三人の男がリヤカーの前で四つん這いになってるのを見たタケルが、なぜかオレに問うてきた。


「世の中にはいろんな趣味趣向のヤツがいるからな、温かい気持ちで放置してやれや」


 オレは生温かい気持ちでタケルを諭してやった。


「いや、明らかにベーさんの仕業ですよね!?」


「おいおい、なんでもかんでもオレがした見たいに言うなよな。オレは無害な村人だせ」


 失敬だよ、タケルくん。


「…………」


 もうなんだい、その『うわー』って目は。こんなじゃ──純真なオレに向けるなんて。ぷんぷん!


「──なんて冗談はこのくらいにして、冒険者ギルドに行くか。デンコ、しっかり着いてこいよ」


「はいですだ」


 邪魔な障害物を足でずらし、よっこらせとリヤカーを持って出発する。


 あー、そー言やぁ冒険者ギルドの場所知らねーわ。まあ、街ん中に入ってから聞きゃあイイか。


「ベ、ベーさん、いいんですか、あのままにして?」


「イイんじゃねーの。オレは気にしねーよ」


 人のものを盗むアホが返り討ちされただけ。それだけだ。


「で、でも……」


「まあ、慣れろとは言わねぇし、認めろとも言わねーが、今は強いものが偉くて弱いヤツは食われる時代で、それが当たり前と思われてる。もちろん、イイヤツはいるし、好ましいヤツもいる。だが、それを善しとするヤツは圧倒的に少ねーのが現実だ。腐ってると言うのは簡単さ。でも、それを正すには膨大な時と大多数の意識改革が必要だ。オレはそんなことに自分の時間は使いたくはねー。やるんなら勝手にやれだ」


 邪魔はしねー。ガンバレと応援するよ。


「オレは相手の主義主張を大事にする男だ。騙される方が悪い。盗まれる方が悪い。ああ、イイんじゃねーの。そんな間抜けに優しい時代じゃねーしな。なら、認めてやるよ。その土俵に乗ってやるよ。正々堂々とその理屈で戦ってやるよ。引っ掛かる方が悪い。返り討ちにされる方が悪い。満足だろう? テメーの選んだ主義主張で負けんだからよ」


 なら、遠慮する必要がどこにある。気遣ってやる必要がどこにある。ねーよ。どこにもねーよ。


「と言っても通行の邪魔になるしな、七日もすれば動けるようにしといたさ」


 たかだか体重を三倍にしてやっただけだし、日頃の行いがよけりゃあ誰かが助けてくれんだろう。水だけは飲めるようにしてやったしな。


「まったく、自分の甘さにヘドが出るぜ」


 なんだかんだと言って手心を加えっちまうんだからよ。


「……いや、思いっきり悪い顔してますけど……」


 おっと。そりゃ失礼。悲しい顔悲しい顔っと。


「こんな感じ?」


 タケルに確認してもらったら、なぜか怯えられた。え、なぜに?


「……おれ、清く正しく生きていきます……」


 あ、うん。イイんじゃねーの。ガンバレ。 

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