第202話 以下同文

「ベーさん! お腹が空きました!」


「ん? ああそう言やぁ昼だったな」


 タケルの宣言で昼なのを思い出した。


 燃費がイイんだか悪いんだかわからないタケルの腹は、常に食い物を求めているので、満腹になっても一時間もすれば潜水艦にエネルギー(なんのかは知らん)回され、また食い物を要求するらしい。なんで、十時くらいにオヤツ(肉まん二十個)を平らげ、オレも二つ食ったのでそれほど腹は空いてないので昼なのを忘れていたんだよ。


「倉庫にいくのもなんだし、どっかその辺の食堂にでも入るか」


 港と街の境には結構な数の食堂がある。これは港で働く者や商人が多いからそうだ(船長さん談)。


「あ、そう言えばおれ、この世界で初めての食堂だ! ちょっと嬉しいかも!」


 ちょっととは言いながらも満面の笑みを浮かべるタケルに、なんと言ってイイかわからず曖昧に返事をした。


 あーうん、まあ、これも勉強。言うよりまずは食えだな。


「そこにすっか」


 ちょうどよく食堂が見えたので、リヤカーを路駐して中へと入った。


「いらっしゃいませ~!」


 入ると看板娘らしき十七、八くらいのねーちゃんが出迎えてくれた。


「何名さまですか?」


「三人だ」


 まあ、ここら辺のやり取りは前世と変わらん。四人用のテーブルへと通された。


「結構広いですね」


 テーブルに着いたタケルが興味深そうに辺りをキョロキョロしている。


「そうだな。人も多いし、繁盛店なのかもな」


 オレも食堂に入るなんて十年の人生で四回しかねーんだよな。


 これまで日帰りが当たり前だったし、サプルの料理は常に収納鞄に一月分は入っているから食堂なんて利用することもねー。バリアルの街で試しに一回。王都でも試しに一回。ラーニアと言う街でも試しに一回。そして先日の誘われての一回の合計四回ってわけさ。


「なににしますか?」


 この時代に品書きなんてねー。その日の食材で決まる定食に肉か魚のメイン料理。あとは、金次第で多いか少ないかになるだけだ。


「肉を中心に銀貨一枚で頼むわ」


 銀貨一枚渡すと看板娘のねーちゃんがびっくりした顔になる。


 まあ、牛丼屋で一万円分の牛丼をくれって言ってるようなもの。そりゃびっくりもするわな。


「こっちのが大食いなんでな、そんだけ必要なんだよ」


「……は、はぁ、わかりました……」


 まあ、わかっちゃいねーだろうが、前金を払ったので問題はねーだろうと厨房へと下がった。


「銀貨一枚ってどんくらいなんですか?」


「まあ、だいたい一万円くらいだな。ちなみに定食なら四十は食えるな」


 調べた訳じゃねーが、この時代、定食はだいたい二百五十円くらいだ。


 安っ! て思わなくはねーが、それは前世の感覚。この時代では普通であり、日払いの人足をメインに商売してるのでそれ以上にはできねーのだ。


 確か、人足の一日の給料は大銅貨一枚に銅貨三枚。二千五百円にもならねーくらいだ。前世の記憶がある者にしたら暗黒時代である。村人に生まれてラッキーって言いたくなる気持ち、わかるだろうよ。


「お待たせしました~! 肉定食で~す!」


 塩で焼いたなにかの肉(見た感じ三百グラムかな)に黒パン二つ。そして、野菜の煮込み汁が三人前置かれた。


「…………」


 タケルがなにか言いたそうにオレを見る。まあ、言いたいことはわかるので、取り合えず食えとアゴで促した。


 デンコはこれと言った──どころか目をキラキラさせてオレを見ていた。


「遠慮なく食え。足りないときはまた頼むからよ」


 そー言やぁドワーフの食生活ってどんなもんかよく知らねーなと頭の隅で思いながらデンコを安心させるために微笑んでやった。


「……ベーさん、しょっぱい肉です……」


 そりゃ肉体労働者相手の定食だからな、とは言わない。オレが初めて食ったときと同じ感想だったから。


「煮込み野菜汁を食ってみな」


「……薄いです……」


 まあ、野菜をただ煮込んだだけだからな、とは言わない。オ……以下同文。


「これがこの時代の料理だ」


 いや、旨いもんはあるよ。ただ、一般庶民の懐具合ではこれが当たり前であり、多分、この店は他よりもサービスがイイからしょっぱいんであり、煮込んだ野菜汁が出るんだろう。


 他のテーブルを見れば、人足の纏め役や船乗りと言った、人足より高給取りが占めていることからして街の洋食屋さんレベルなのがわかる。


「オレが真っ先に料理人を集めた意味がわかっただろう?」


「……はい。こんなの毎日食べるなんて嫌すぎます……」


「でもまあ、こーゆーのにも慣れておけよ。常にサプルの料理が食えるとは限らねーし、他の地域で違う種族と食をともにする場合もある。ましてやタケルは海を活動場所にするんだ、ゲテモノ魚料理だって出てくるかも知れねー。食えませんでは相手と仲良くはなれんぞ」


 実際、ハルヤール将軍にこれは旨いぞと深海魚を生で出されたときは、さすがに泣いたね。まあ、根性で食ったけどね! 腹壊したけどね!


「まあ、胃袋鍛えるのが嫌なら酒に強くなるしかねーな。不思議なことに酒は万国共通。人魚だろうが獣人だろうが、酒を飲むからな」


 そう言う理由からゲコなオレが酒を買ってんだよ。


「前世のままの姿で転生したタケルには酷だしな、今回はこれをやろう。サプル特製の焼肉のタレだ。ついでに塩も取ってやるよ」


 ポケットから焼肉のタレが詰まった瓶を取り出し、結界で塩を排除してやった。


「野菜汁にはこれな」


 コンソメパウダーを出してやる。


「……おれ、ベーさんやサプルちゃんに出会えて本当によかったです……」


 ああ、オ……以下同文だよ。

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