第201話 君子危うきに近寄らず
「あれ? 港に入らないんですか?」
港が視界に入ったのに、進路を変えたことに疑問を感じたタケルが聞いてきた。
「ああ。この船はどこの国にも登録してねーし、いろいろ整備不良で引っかかるからな」
技術はそんなに進化してねークセに無駄に歴史があるから決まり事が増えて用意できねーんだよ。
港から二、三キロ離れた人気のない砂浜に船を上げる。
折り畳み式のリヤカーを下ろし、組み立てて荷物を載せる。
一台はオレが。もう一台はデンコに。タケルは護衛だ。
まあ、いろいろ突っ込みどころはあるが、これもタケルが強くなるための一環。習うより馴れろだ。
ちなみに武装は自動小銃で、格好は潜水艦アニメの戦闘員スタイルにマントで見た目を怪しくしている。
「……明らかに不審者ですよね、これ……」
「迫力ねーんだ、怪しさでカバーしろ」
寄ってこねーって意味では同じだ。
まあ、なんでこんなことしてるかと言うと、オレ一人だとアホが虫のように寄ってくんだよ。
昨日もそうだし、バリアルの街でもそうだったが、こんな弱肉強食な時代にガキが大量買いしてるのはカモがネギ背負っているようなもの。襲ってくれと言ってるものだ。
え、今さら? との突っ込みはノーサンキュー。オレ一人なら寄ってくるアホの十や二十ものともしねーが、今回はタケルを同伴させたので万が一を考えてだ。
前世でならタケルの体格は普通だが、この世界(時代)では貧弱でしかねー。オレ以上にアホを引き寄せてしまうことだろう。
まあ、それも経験だとは思うが、いきなりは可哀想なんでこんな格好をさせたのだ。
「お前が強くなったら好きな格好すればイイさ。今はそれで我慢しろ。あと、オレが絡まれてもすぐに撃つなよ。オレにもお前らにも結界を張ってあるから命の心配はねーからよ」
命も大事だが、騒ぎになるのが一番メンドクセーんだよ。警羅隊沙汰になったら時間を無駄に取られっからな。
「そろそろ昼になるし、いくぞ」
オレ、デンコ、タケルの順で王都を目指す。
昨日きたときと同じく門で止められることはなく、順調に昨日借りた倉庫街へと到達する。
「ん? なんか人垣ができてんな」
貸倉庫は港側からも街側からも入れるようになっており、今回は街側からきたのだが、入口のところに何十人もの老若男女が貸倉庫のほうを見ていた。
「なんかあったのかい?」
身なりの悪いおっちゃんに銀貨を一枚渡して事情を尋ねた。
「エヘヘ、話がわかるぼっちゃんだ」
「そりゃ話のわかるヤツに声をかけたからな」
身なり悪いおっちゃんの下卑た表情は変わらなかったが、目だけは鋭く光らせた。
「あんたの商売に口出す気はねーが、そんな演技力じゃ仕事なくすぞ」
「……もしかして、あんた──」
「オレは村人。あんたは浮浪者。それ以上でもなけりゃそれ以下でもねーよ。違うかい?」
オレの可愛い笑みに身なりの悪いおっちゃんは下卑た笑いを返してきた。
「エヘヘ。ごもっともで」
まあ、次に期待ってところか。
「で、なにがあったんだい?」
「なんでもマフィアの若い衆が倉庫に忍び込んだんだが、なんかの罠に掛かったらしくて地べたに転がってるんだよ。マフィアの幹部やら警羅隊に魔道隊がきて、わんやかんやと騒いでるのさ」
「そりゃ迷惑な話だな」
「まあ、おれには景気のいい話だがな。毎度」
「ああ。黒目に会ったらよろしくと伝えてくれ」
銀貨をもう一枚投げ渡してやった。
なにか言いたそうだったが、笑顔なオレに負けて肩を竦めて人混みの中に消えて行った。
「……誰なんです、今の?」
「所謂情報屋ってやつさ。まあ、今のは三流だったがな」
どんな仕事にもピンとキリがあり、街のウワサ程度を知るにはちょうどイイ存在だ。
「……それをわかるベーさんは何の何流なんですか……」
「超一流な村人さ!」
はい、突っ込みはノーサンキューね。
「今いくとメンドクセーから先に冒険者ギルドにいくか」
君子危うきに近寄らずだ。で、あってたっけか? まあ、なんでもイイか。
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