第200話 ひょうたん島

「じゃあ、あんちゃん。先いくね!」


 バビュンってな感じでサプルとモコモコガールが乗ったジェット機が飛んでいった。


「……なんだろうな。妹の将来が心配でなんねーよ……」


 いやまあ、サプルの人生なんだから好き勝手に生きりゃあイイんだが、兄としてはどうしても妹が穏やかに過ごして欲しいと願うワケよ。


 ……サプルのヤツ、ブレーキがあるようでねーからな、どこまでも突き進んじまうから怖いんだよな……。


「ベーさん。こちらも出発しますね」


「あいよ」


「はいですだ!」


 二度目のオレにはそれほど感動はねーが、初めてのデンコは中に入ってから興奮しっぱなしだ。


嵐山らんざん、微速五段で発進」


「了解。微速五段で発進します」


 人が歩くくらいの速度で港を出る。


 港を出ても下には人魚らの町があるので沖合いに出るまで三十分もかかってしまうのが難点だな。


「やっぱ、潜水艦用の港を創んねーとダメだな」


 荷物を積んだり降ろしたりはこの港でも構わねーが、遠出すっときに時間が掛かってしょうがねーよ。


「そうですね。おれの腕じゃまだあの港は難度が高いですし」


「隊商相手の商売が終われば時間も空くと思うし、そんときに集中建造だな」


 三日もあればそれなりのものはできる。あとは、ゆっくりとやってけばイイさ。


 ……なんて何度も思いながら実行できねーのが常だがな……。


「周回に障害物なし。いつでも発進可能です」


「了解。高速七段。嵐山らんざん、発進!」


 今回も海面を行くようで、潜水艦とは思えねー速度で発進。海面を切りながら島──あ、名前付けてねーや。ねーのも不便だし、なんかつけねーとな。


 なにがイイと考えてる間に島へと到着してしまった。もう高速戦艦でイイんじゃね? 


「島、なんて名前にすっかな」


「サプルちゃん、ひょうたん島って呼んでましたよ」


 うちの血がそうさせるのか、サプルもトータも見た目で決めるところあんだよな。


「んじゃまあ、ひょうたん島で決定な」


 考えんのもメンドクセーし、わかりやすくてイイだろう。オレに否やはなし。


「……この世界の人に受け入れられないんじゃないですか、それ……」


「気に入らなきゃ変えたらイイさ。オレが統治すんじゃねーんだからな」


 それまでの仮名だ。なんでもイイわ。


「え、人にやっちゃうんですか? もったいないじゃないですか、せっかく創ったのに」


「ならタケルが統治するか? 一国一城の主になれんぞ」


 貿易都市になるんだ、一国並みの金が入るぞ。


「え、いや、止めておきます。おれには嵐山らんざんがありますし。あと、統治とか大変そうだしやりたくないです」


「賢明な判断だな」


 まあ、元々出世欲があんなら潜水艦なんて願わねーし、海を自由に駆けてるほうがおもしれーさ。


「なに、費やした労力分はちゃんともらうし、イイ場所は真っ先にもらう 。使用権もタダにしてもらうさ」


 大金を稼ぐのに苦労するくらいなら優遇を得た方が商人としての賢い選択だ。


「……ベーさんって、結構悪どいですよね……」


「悲しいかな、それが生きると言うことさ」


 なんて適当に纏めてみた。


「艦長、接岸体勢に入ります」


「あ、了解。微速三段で接岸だ」


 潜水艦が百八十度反転してバックで港に入っていく。


 狭くないからかひょうたん島の港には五分で接岸してしまった。


「なかなかイイ感じにできたようだな」


 モニターから見る限り、護岸も地面も問題なく、前世の港に負けねーくらいに仕上がっていた。


 潜水艦から下りて確かめても問題は見て取れない。オレに負けない土魔法であった。


「つーか、その創り手がまだきてねーな。なにしてんだ?」


「多分、辺りを探索……と言う名の遊覧飛行?」


 タケルもサプルをわかってきたようだな。


「まあ、イイさ。そのうち下りてくんだろう。取り合えず荷物を下ろすぞ」


 地面を平らにしたので台車移動が可能であり、元々台車に載せていたので直ぐに降ろし終えた。


「……兄貴、これ砂鉄だよな? どうするだ?」


「船の材料だよ。タケル。お前の潜水艦にボートとか積んでねーか?」


「積んでますよ。それでいくんですか?」


「いや、見本に使うんだよ。あと、潜水艦のコンピュータ──嵐山ってオレにも設計図とかの知識を覚えさせるってことできんのか?」


「え? ええ。できますけど、量が量だけに直ぐには無理ですよ」


「そうか。なら、今回はファンタジー力を使うか。あ、ボートはイイや」


 王都に行くまでの足だしな、そんなに時間をかけてらんねーよ。


 持ってきた荷車三台分の砂鉄を辺り一面に撒き、その中央に立つ。


「デンコ。今から土魔法の可能性と素晴らしさを見せてやる」


 精神を統一してやろうとするイメージを明確にする。


 タンと右足で地面を叩く──と、撒いた砂鉄が波打ち、結合し、生えるように浮かび上がり、そして、十メートルの船ができあがった。


 船の種類や名前は知らねーが、前世で乗ったことがあるプレジャーボートの形をしたものだ。


 もちろん、形だけなのでエンジンなどは搭載されてはいねー。が、我には結界術があるので問題ナッシング~だ。


「……ス、スゲェェだっ! 兄貴スゲェだよっ!」


「まっ、こんなもん初級の初級だ。驚くほどじゃねーよ」


 投げナイフ創りと大した変わりはねーさ。


「……ほんと、ベーさんはチート野郎ですよね……」


「これは努力の結果だ」


 確かに力は神(?)からもらったものだが、知識は前世で得たものだし、できるようになったのは日々の試行錯誤があったからだ。なにもせずに得た結果じゃねーよ。


「さて。進水式といきますか」


 土魔法でコロを創り、滑らせて海へと浮かべた。


 船は何度も創っているので問題なく浮かび、水漏れや傾きは見て取れなかった。


「よし。荷物を積んで出発するぞ」


 折り畳み式のリヤカーを二台。布団などの生活道具。収納背負い籠を積み込んだ。


「サプルちゃんたちを待たないんですか?」


「イイよ。昨日言ってあんだから勝手にやるさ」


 生活空間を創るのはサプルの方が何百倍も優れている。オレがどうこう言う隙がねーよ。


「デンコ。しっかりつかまってろよ。タケルの船と違ってこれは揺れるからよ」


「わかっただ!」


「ほんじゃいくぞ」


 結界スクリューを回転させ、王都の港へ向けて発進させた。



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まだ1000話以上続きます。覚悟せよ!

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