第199話 買い物です

 次の日の朝、港に下りてくると、ウルさんが海面に顔(まあ、上半身だけどね)を出していた。


「おはようございます、ベーさま」


「おう、おはよーさん。早いな」


 まだ六時前で人魚も起きるには早い時間だ。


「はい。首都より連絡が入りハルヤールさまがこちらへくるとのことでしたので一報を入れておこうかと思いまして」


「そりゃ嬉しい一報だ。わざわざすまねーな」


「いえ、とんでもございません。そのためにわたしがいるのですから」


 どっかの派閥から送り込まれてきてんのに、そーゆーところはマジメにやんだよな、ウルさんって。


「ところで、何日か開けるとタケルさまからお聞きしましたが、どのくらいほど開けられるので?」


「ん~。だいたい七日から十日かな? まあ、隊商がくるまでは帰ってくるからハルヤール将軍がきたらそう伝えてくれや」


 隊商相手の商売は、村も少し噛んでるし、臨時収入源でもある。やらねー訳にはいかねーからな。


「わかりました。そうお伝えします。それと、捕虜の件はいかがなされますか?」


 捕虜? と一瞬わからなかったが、海面にイカ娘ちゃんズが現れてなんのことか思い出した。


「あーいたな、捕虜。すっかり忘れてたわ」


 別に重要事項でもねーから完璧に頭から抜け落ちてたよ。


「まあ、そのままでイイわ。別に急ぐ用もねーし。食費がかかんならなんか港整備の仕事にでも回してくれや」


 見た感じ、頭は空っぽそうだったが、力はありそうだったからな。


「……わかりました」


「イカ娘ちゃんたちは、港の警備とエサ確保をよろしくな」


 コクンと頷くイカ娘ちゃんズ。


「んじゃいくか」


 後ろにいるタケルやサプル、モコモコガールにデンコに声を──。


「──って、なんでモコモコガールがいんだよ!」


 いや、いたのはわかってたが余りにも違和感なくて突っ込みを忘れてたわ!


「アリザもいきたいって言うから、イイでしょ、あんちゃん」


 モコモコガールと仲良く手を繋ぐサプルちゃん。


 ……えーと。君たち、いつの間にそんな仲になってんの……?


 いやまあ、同じ年頃だし、仲良くなるのは不思議じゃねーが、どんなコミュニケーションしたら仲良くなれんの? オレ、未だにモコモコガールと会話──どころか声も聞いたことねーよ。


 なんだろうな。トータと言いサプルと言い、なにげにスゲーコミュニケーション能力持ってね? いやまあ、他種族の友達いっぱいいるオレのセリフじゃねーが、やっぱうちはそーゆー家系なのか?


「……あーまあ、構わねーが、ジェット機に乗せるのか?」


「うん。アリザ、結構丈夫なんだよ。昨日も一緒に乗ったけど、全然平気だったしね」


 昨日も乗ったんかい! って言うか、モコモコダンディ、娘が未知の世界に突っ込んでるがイイのかっ!


「……モコモコダ──じゃなくてとーちゃんはイイって言ってんのか? 人様の娘を危険にはさらせんぞ」


 サプルは心配するだけ無駄。こいつなら高度一万メートルからでも笑って生還するからな。実際、二百メートルもの崖の上から笑ってダイビングする幼女だから……。


「大丈夫。アリザのおとうちゃん、イイって言われてるから」


 ……ほんと、将来、娘がどうなってもオレは知らんからな……。


「わ、わかったよ。好きにしろ。けど、無茶はすんなよ。人様の娘なんだから」


「うん、わかった!」


 その無邪気で純真な返事にあんちゃんは不安でたまんねーよ。しゃーねー。結界纏わせておくか。えい。


「んで、デンコはなんで着いてきたんだ?」


 いや、デンコもいたのに気が付いてはいたよ。けど、見送りにきと思って黙ってただけだ。


「兄貴、おらも連れてってくれだや。おら、もっと兄貴からいろんなこと学びてぇだよ」


 なにか知らぬ間にデンコの目が力を帯びていた。え? マジでなにがあったの、この短時間の間に?


「おら、兄貴としてガブに負けてらんねぇだよ。もっともっと強くなって兄貴としての力を見せつけてぇだ!」


 なにがなんだかわからんが、その意気やよし! 同じ兄としてわからんではねーぞ。


 無能の烙印を捺された兄ほど惨めなもんはねー。いや、仲が悪くなるどうこうではなくプライドの問題であり年長者としての意地のことを言ってるのだ。


 下らねーとはわかっちゃいるが、どうしても弟や妹に負けらんねーって思いが出てくるのだ。


「心配すんな。土魔法は汎用性に優れた魔法だし、やり方次第では数千数万の軍勢にも勝てる力だ。ましてやオレが教えんだ、大魔道師どころか魔王すら目じゃねーよ」


 なんて言い過ぎだが、土魔法が使えると言うことは他の魔法も使えると言うこと。魔法は魔法。土や火だと区別はねー。ただ、種族的才能的にその属性に特化してるまで。根本たる魔法は一つ。考えるな感じろだ!


「でもまあ、その前に世界を知るのもイイかもな」


 うん。よくよく考えたらイイ機会じゃねーか。世界の広さ、大きさ、光や闇、己の小ささ弱さ。それらは強くなる糧だしな。


「わかった。連れてってやる。しっかり学べよ」


「はいですだ!」


 よしよしとデンコの頭を撫でてやった。


「タケルもだからな。お前も大魔道師や魔王ですら倒せる力があんだ。しっかり己の力を知り、使いこなせるだけの意志と技術を身につけろ。それまでオレが横にいてやっからよ」


 大丈夫。人は強くなりたいと願い、努力すれば必ず強くなれる。なにより一人じゃねーんだ、嫌でも強くなるわ!


「はい! 強くなります!」


「よし。いくぞ」


 なにか女性陣の目が冷めている気もしなくはないが、考えたら負け。男は熱くなってなんぼじゃ!


「……え、えーと、戦いにいくのですか……?」


 いえ、ちょっと王都まで買い物です!

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