第198話 お休み

 夕食が終わり、各自それぞれのお茶を飲みながら食休みをする。


 はぁ~。落ち着くわ~~。


 しかしなんだろうな。王都に一日──いや、半日もいなかったのに、我が家がスゲー新鮮に感じやがるぜ。


「ベー。王都はどうだった?」


「おう。おもしろかったぜ──って、あんちゃんいつの間にきたんだよ!」


 声に釣られて見たらあんちゃんが暖炉の前の椅子に腰掛けていた。全然気が付かなかったわ!


「お前って、家の中にいるときは呆れるくらい無防備だよな。ちゃんと戸を叩いてサプルにいらっしゃいと招き入れられたぞ」


 へ? そんな流れあったの? まったく気がつかんかったぞ……。


「って、まあイイか。んで、どうしたい、こんな時間に?」


 あんちゃんたちがいつ夕食取るかは知らねーが、外はすっかり暗くなってんぞ。


「王都の話を聞きに来たに決まってんだろう。それ以外にあんのかよ」


 うんまあ、ねーわな。


「なかなかおもしろかったぜ。少し前にうちの村に寄った船の船長さんと再会したり、冒険商人と話したり、酒場で旨いもん食ったり、なかなかイイ感じの貸倉庫を借りたり、できる商人と商売したりと、なかなか濃い一日だったぜ」


 あー、一日が濃かったから我が家を新鮮と感じんだな。もう五日くらい行ってた気分だぜ。


「相変わらず濃い人生を送ってるよな、お前は。それですろーらいふとかよく言ってるよな」


 あんちゃんにはスローライフの概念を教えたが、やはりわかっちゃいねーようだな。


「スローライフってのは、生き急がず自分の間で生きろってことだし、仕事をしなくてもイイってことじゃねーよ。貧乏人にパン一つは貴重だが、金持ちにはパン一つなど重要なものじゃねー。人それぞれの間であり、速さだ。それに、スローライフってのは世界が、周りが豊かで安全でなけりゃ無理な話なんだよ」


 そのための道具作りだったり環境作りだったりするワケだ。


「サプル。よさ気な島は見つけたか?」


 タケルくんはモコモコガールと並んで大の字になってうーうー唸ってます。まったく、加減を知らねー食い方してっからだ。


「うん。ブララ島くらいのひょうたん島があったよ。ただ、食べられる草木が少なくて川がないのが難点だったね」


「まあ、水は井戸を掘ればイイし、食料はなんとでもなるから大丈夫さ」


 元々島一つで賄えるとは思っちゃいねーよ。謂わばうちの港と王都を繋ぐ中継地点。食料は持ち込みさ。


「んで、島の改造はどこまで進んだ?」


「タケルあんちゃんの船を入れられる港と会長さんの船を二つは着けられる桟橋は創って、あと、地ならしして、簡単な岩家を四つ創ったよ」


 あーうん、スーパー幼児サプルちゃんだから突っ込みはノーサンキューだよ。土魔法の才能はオレ以上なんだからさ……。


「そ、そうか。ありがとな。サプルは仕事が早くて助かるよ」


 ……もっと土魔法を上達させねーと、兄としての威厳がなくなりそうだぜ……。


「あと、なにを創っておけばイイ?」


「……か、簡単な倉庫を六つくらい頼むわ。こんな感じのをよ」


 結界術で倉庫の見本を見せてやる。


「まあ、そう細かくなくてもイイからな。本格的な倉庫を造るまでの仮置きだからよ」


 才能はオレ以上でも細々とした知識もなけりゃ技術もないんでだいたいの形になってれば構わねーさ。


「わかった。あ、食糧とか置いておく? なんかあったときのために」


「そうだな。後々人が住んだり人魚も引き寄せるから食糧だけじゃなく生活道具や工作道具も用意しておかなくちゃな」


 将来的には貿易都市(自由都市)にして人魚と人族との交流の場としたいからな、忙しくなる前に用意はしておくか。


「あんちゃん。港にナルバールのおっちゃんがきたら自由貿易都市をつくるから覚悟しとけって伝えてくれや」


「……じ、自由貿易都市って、軽く言うよな、お前は。まあ、わかった。伝えておくよ」


「あんちゃんも興味があんならタケルに付いてって土地確保しとけよ。なんならその島の総督にでもなるか? たぶん、儲かるぞ」


 まあ、その分髪の毛が抜けるくらい大変だがな。


「いや、おれはここと港で充分さ。とても総督なんて大役は勤まんねーよ」


「まあ、あんちゃんのやりてーようにだ。あ、でも総督どうすっかな? やれそうなヤツに心当たりねーよ」


「ある方がどうかしてるわっ! 自称村人が!」


「正真正銘村人だよ、オレは」


 ったく。オレのアイデンティティーを否定しやがってよ。


「タケル。前に言ったようにお前も王都にいくんだからな、忘れんなよ」


「…………」


 まだ動けないようで頷いて返事した。


「んじゃ、明日も早いし、風呂入って寝るぞ」


 さすがのオレも王都日帰りはキツい。腹が落ち着いたら眠くなってきた。


 アクビ一つして風呂場へと向かい、眠気を堪えながらさっぱりさせて、寝台に飛び込んだ。


「……今日生きられたことに感謝を籠めて、ありがとうございました。お休み……」


 言って、深い眠りへと落ちていった。 

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