第196話 イイ倉庫

「そう言やぁ、なんで街側が空いてんだい?」


 倉庫へ向かう道すがら、先程疑問に感じたことをおっちゃんに聞いてみた。


「港の人足は一日幾らと雇われますので、港より遠い場所にある倉庫へは行きたがらないのですよ。だから、金を多く払って呼び寄せないとならないから街側を借りる者は少ないのです」


 なるほどね~。そう言う理由からかい。


「確かに金が同じなら近いほうがイイわな」


 まあ、わからねーではないな、その心情にはよ。


 まさに3Kの代表みてーな人足を好きでやってるヤツなんている訳がねーし、やり甲斐なんて感じる仕事ではねー。まあ、ピンハネする元締めはどうかは知らねーがな。


「……余り、驚きはないようですね……?」


「まーな。元々人足なんて使う気なかったしな」


 表情を変えぬまま船長さんへと目を向けるおっちゃん。説明しなかったのかって抗議かな?


「平和にやるんじゃなかったのか?」


「平和にはいくさ。ただ、受けてくんねーのなら仕方がねぇさ。違う方法を考えるさ。ただまあ、安い金で受けてくれたヤツにはなにか礼をせんとな」


 おっちゃんに向けてニヤリと笑う。


「……そのときはわたしにお声をかけてください。多少なりともお役に立てるかと」


「おう、そりゃ助かる。そんときは頼むよ」


 頼るべきはできる商人だな。フフ。


 なんてことをやってたら倉庫に着いた。


 利用がないからか、それとも丈夫からかは知らねーが、それほど傷みはねーし、汚くもねー。しっかりとした木材製の倉庫だった。


「意外としっかりした倉庫なんだな」


 もっとみすぼらしく、雑な造りかと思ってたよ。


「はい。王都は大工が多いですから」


「ほ~。なら、仕事の取り合いとか激しそうだな」


「……だからなんでわかんだよ、お前はよ……」


「そりゃ造りからだよ。見た限り、どの倉庫も悪くねーどころか立派なもんだ。これを標準とするならそれ以下の大工に仕事なんてくる訳がねー。なのに、大工が多いときた。なら価格競争──あー他より安く、他より早くと競うのは当然、じゃねぇ?」


「…………」


「…………」


 別に特別深いことは言ってねーんだが、二人は口を開けてオレを凝視していた。


「まあ、オレの適当な考えだ、気にすんな。それより、入れんのかい?」


 商売はするがそんなに商売に精通したわけじゃねー。それ以上は語れんよ。


「──あ、はい。で、では、鍵をここに差し込んでください」


 出入り用の戸の横にボックスティッシュくらいの箱がついており、真ん中に開いた穴を指差した。


 言われた通りに鍵を差し込むと、左右開閉式の扉を包む魔力が消失した。


「へー。倉庫自体が魔道具とはな。そりゃ金貨七十枚もするわけだ」


 さすが魔法や魔術が発達したファンタジーな世界だぜ。


「……もうお前が千年生きたエルフにしか見えねぇよ……」


「十年しか生きてねー、クソ生意気な人族のガキだよ」


 なんだよそれ。目、腐ってきたんじゃねーの。


 そんな船長さんやおっちゃんに構わず倉庫の中に入った。もちろん、扉を開けてな。お、意外とスムーズに開くんだな。


 魔道具な倉庫とは言え、やはり中は埃っぽい。通気窓もないので空気も悪いな。


「明かり取りの窓はあんだな」


 いや、窓って言うか戸だな。


 備え付けの梯子を登り、明かり取りの窓(戸)を全て開けていきながら結界を張っていく。


「まあ、作業するには充分か」


 手作業するには暗いが、荷を運ぶには問題はねー明るさだ。


「ここが寝泊まりする場所か」


 ロフト的な、四畳ほどの空間が扉の斜め上にあった。


 まあ、ここに暮らすわけじゃねーし、警備するための仮眠場所としてなら充分か。


「ちょっとした秘密基地みてーでなんかおもしれーな」


 古い探偵ドラマに出てきそうなところでワクワクすんぜ!


「……なんかいろいろ弄りてーな……」


 買い取っちゃおうかなと一瞬浮かんだ欲望を慌てて振り払った。


 イカンイカン。オレの悪いクセが出てしまった。オレは村人。村に住んでの村人だ。やるんなら村でやれだ。


「まあ、年間で借りちゃったんだから弄るけどね」


 いや、もう弄っちゃってますがねっ。


「イイとこだな。気に入ったよ。ありがとな」


 下りておっちゃんに礼を言った。


「いいえ。お礼を言うのはこちらですよ。人気のない場所なのに、こんなに喜んでもらえるのですから。貸し手としては冥利に尽きます」


「お互い、イイ商売ができてなによりだな」


 やっぱり、できる商人との商売は心地イイぜ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る