第195話 保険は大事です

 貸倉庫の受付を行う事務所は、港を直ぐ出たところにあった。


 港にあった商館とは違い、なんとも質素な、木造の平屋だった。


「なんともこじんまりしてんな」


 まあ、貸倉庫の受付だけだからこんなもんだろうが、商館を見た後だけにガッカリ感が激しいぜ。


「商人ギルドの方は見栄より実益重視だからな、雨風防げればそれでいいのさ」


「さすが商人。いや、ここのギルド長の考えかな?」


「さすがだな。まさにギルド長の考えさ。なんでわかった?」


「バリアルの街にある商人ギルドは立派だったし、どこも頭次第で特色が出るもの。まあ、そんなところからそう思ったまでさ」


「まったく、それをわかるとか、本当にお前の頭ん中を見てーよ」


 別に深い考えがあったわけじゃねーし、そんな大したもんは入ってねーよ。


 木造の平屋──じゃなくて、貸倉庫の事務所へと入る。


「邪魔するよ」


 中にいたのはよく肥えた中年のおっちゃんと、事務員(?)のねーちゃんだった。


「いらっしゃいませ」


 挨拶するおっちゃんの顔に変化はない。これぞまさに営業スマイルを浮かべていた。


 さすが、と言うべきかはまだわからないが、ガキが入ってきても表情を崩さないのは好感が持てるな。まあ、後ろの船長さんを視界に入れてのことだろうが、それでも商館にいた、自称冒険商人よりは立派さ。


「貸倉庫を借りてーんだが、空いてるかい?」


 一瞬、船長さんを見たが、すぐにオレへと戻した。なかなか立派な商人じゃねーの。


「はい。空いておりますよ。どう言ったものをお求めでしょうか? あ、こちらへどうぞ」


 と、受け付けカウンターの横にある応接室へと移された。


「お茶をどうぞ」


 革張りのソファーに座ると、事務員(?)のねーちゃんがお茶を持ってきてくれた。


「オレは、ただの村人なんだがな」


「そうでございますか。今後もどうかご贔屓に」


 しばし、その営業スマイルを見詰めたが、おっちゃんの表情が崩れることはなかった。


「……スゲー……いや、止めておこう」


 余り立ち入らないのが吉。いろいろ大人の事情とかあるしな。


「──で、倉庫なんだが、広さは一般的荷車で五十台分くらいで寝泊まりできるところを希望すんだが、どうだい?」


「はい。五十台分となると中倉庫になります。寝泊まりも大丈夫ですよ。警備のために冒険者を雇う方もいらっしゃいますから」


 なるほど。それはつまり悪さをするヤツがいるってことか。まあ、こんな時代のこんなデカイ都市だし、当然か。


「場所は街側で頼みてーんだが、どうだい?」


「はい。大丈夫ですよ。街側はあまり人気がないので空きはありますので」


 ほーん。そうなんだ。そりゃ都合がイイや。


「なら、二つ、隣続きで頼むわ。金はいくらだい?」


「倉庫一つにつき一日銀貨六枚。一月期間では金貨十枚。年間でご利用される場合は金貨七十枚とお安くなっております」


 それがどんな計算のもとになってるかは知らんが、安くなるなら年間の方がイイかもな。会長さんに買い物頼んで入れててもらえばわざわざ買い出しに出んでもイイしな。


「なら、年間で頼むわ」


 ポケットから金貨を百四十枚出してテーブルに置いた。


「……はい。では、数えさせていただきます」


「あいよ」


 お茶を飲みながら数えるのを待った。


「はい。確かに百四十枚頂きました。では、鍵と番号札をお渡しします」


 魔道具の鍵と、多分、その倉庫の番号が書かれたまな板くらいの札を渡された。


「その番号札を掲げることで借りていると見なされます。鍵は大事にお持ちください。無くすと金貨三十枚をいただくようになりますので」


 なんともあっさりしたものだが、この時代にありがちの自己責任ってことなんだろうよ。


「あいよ。承知した」


「では、倉庫にご案内させていただきます」


「おっちゃん自らかい?」


「はい。大事なお客さまですから」


 なんかナルバートのおっちゃんと同じ臭いがするおっちゃんだな。


「あ、名乗るのを忘れてたな。オレは、ヴィベルファクフィニー。言い辛いときはベーと呼んでくれや」


「こちらこそ失礼致しました。わたしは、バーザと申します。どうかお見知り置きを」


 今後どうなるかはわかんねーが、商人ギルドと繋がりがあったほうがイイしな、できねー商人よりできる商人と顔見知りになってた方がなんかあったときに頼りになる。まあ、かけられる保険はかけておかねーとな。

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