第194話 人との商売

 結果を言えば交渉は──と言うほどのものじゃねーが、誰も受けてはくれなかった。


「すまねぇな、提案しておいてこの様とは……」


 申し訳なさそうに頭を下げる船長さんの腰を軽く叩いた。


「気にすんな。最初の一件で予想はしてたさ」


 どいつもこいつも信用がどうのこうのと口にするばかり。勉強と経験だと思ってなければ唾を吐いているところだぜ。


「だったらなぜ続けたんだ?」


「冒険商人の商館なんて入れる機会なんて滅多にできることじゃねーし、ましてや冒険商人を沢山見れる機会なんてこの先あるかどうかわかんねー。ならこの機会を生かせだ」


 イイ商売をできる相手とは出会えなかったが、いろんな冒険商人を見れることができたんだ、金貨百枚に匹敵する価値はあったぜ。


「にしても、信用なんて目に見えねーこと言うクセに、人を見てねーんだから情けねーよな」


 オレがどうこうってこともねーことはねーが、相手を見てねーのが呆れ果てるよ。


「冒険商人が言う信用もわからねーことはねぇよ。だが、その信用は冒険商人からだけのことか? 客からも信用できるかどうかをわかっちゃいねー」


 あ、いや、わかってはいるだろうが、それは馴染みの客に向けられたもの。新規の客には向いてねーのだ。


「堅実なのもイイさ。失敗できねー商売だ、自分を、乗組員を守らなくちゃならねー。それをどうこう言うつもりはねーさ。だがそれ、普通に商人でイイじゃねーか。なんでわざわざ冒険商人って名乗んだよ。意味わからんわ」


「……辛辣だな、お前って。だが、わかんねぇことはねぇな。おれも今の冒険商人に違和感を感じてたからな……」


 あいつらと船長さんを比べるなんて失礼極まりねーよ。


「まあ、ベーがそう言うなら構わねぇが、諦めんのか?」


「うん、まあ、たぶん大丈夫だろう」


 だからこその冒険商人見学だったんだからな。


「どう言うことだ?」


 眉を寄せる船長さん。あれ、わかんなかったの?


「まあ、なるようになるってことだよ。それより貸倉庫ってあるか、この港によ」


 一応、確かめ合いはしたが、絶対って訳じゃねー。外れたらカッコワリーからな、黙っておこう。


「……また、変なことを言いだすな、お前は……」


「そうかい。船をってんだから倉庫は必須だろうが」


 しばらく滞在するし、輸送(タケルの潜水艦)もある。なによりデカイものや大量(いつも以上にな)に買いたいしな。


「ま、まあ、お前の考えには着いていけんが、貸倉庫ならあるよ」


「おっ、そりゃよかった」


 いやまあ、これだけの港なんだからあるのは当然なんだろうが、それを簡単に裏切るのがファンタジーの恐ろしいところだからな。


「オレでも借りられんのかい?」


「ああ、借りられるよ。貸倉庫は商人ギルドの領分だからな。まあ、港内にも貸倉庫はあるが、結構な金を取られる上に狭いからな、借りるなら商人ギルドの方をお勧めするよ。あ、荷揚げや荷下ろしはマフィアの人足、商館に行って依頼しろよ。平和に出港したけりゃな」


「わかった。平和にいくよ」


 メンドクセーのはごめんだしな。


「んじゃ、何度も頼ってワリーが、貸倉庫借りられるとこに連れてってもらえっかい?」


「おう、今度こそ任せておきな」


 頼もしい船長さんの後に続き、貸倉庫の管理を行うと言う事務所へと向かった。

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