第193話 商売道

 商談も成立したので船長さんに冒険商人が集まると言う商館に案内してもらった。


 冒険商人と言うのは冒険者ギルドや商人ギルドには属してなく、港を仕切るマフィアが金を出し合いやっているそーだ。


 マフィアが? とは思わなくもないが、元々マフィアは冒険商人を引退した者が金と武力、そして権力者の後ろ盾を得てできたものなんだと。


 まあ、成り立ちなんて興味はねーが、維持している力に興味が出てきた。


「……なかなか立派な造りだな……」


 煉瓦造りの建物は王都でよく見たが、四階建てのガラス窓付きなんて初めて見た。ほんと、どーなってんだ、この世界の発展の仕方はよ……。


「まあ、冒険商人の仕事はデカイからな」


 なるほど。その仲介料だか紹介料もデカイってことか。運輸業って儲かんだな。


「隊商とかバカらしくなるな」


「そんなことねぇさ。確かに船の儲けはデカイが、その分危険が隊商の比じゃねぇ。失敗は破滅と同じだ。さっきのブラーニーも荷は無事に届けたが、たぶん廃業だろうな」


「船が燃やされたからか?」


 船体は少々黒焦げていたが、主要なマストや柱がなくなっていた。それで港まで辿り着けんだからファンタジーはスゲーよな。


「それもあるが、信頼の象徴たるブラーニーの怪我だな」


「怪我って、片腕なくしたくらいだろうが?」


 世の中、片腕一本で剣豪って呼ばれているジジイや盲目の賢者ってのもいる。まあ、それは特別だとしても船は船長一人で動かす訳じゃねー。優秀な船員と優秀な船長がいればやって行けんだろうがよ。


「冒険商人は船長の名が物を言う。一度ケチが付けば格が落ちる。そして、依頼する商人は高い金を払うから確実を求める。バカらしいとは思うが、これが海の現実なのさ」


 アホらしいと言うのは簡単だ。だが、それが今まで積み重ねられた海の常識であり、この時代の正義だ。オレが言ったところでどうにもならねーし、オレの領分じゃねーよ。


 商館に入り、船長さんが一階の受け付けカウンターへと向かう。


「よっ、ジェイル。空いてるヤツはいるかい?」


「タージさん、いらっしゃい。ちょっとお待ちください」


 なにやらそれだけで通じたようだが、船長さん、結構名の売れた人でしたか?


「まあ、バーボンドさんに雇われてはいるが、おれも冒険商人。結構な古株なのさ」


 見た感じ、四十手前に見えるが、その言い方からして、五十は行ってそうだな。


「お待たせしました。カルニーバさんとアリベオさん、バルイサさん、アナガンさんが空いてます。アリベオさんとバルイサさんなら三階の事務所にいますよ」 


 事務所?


「ここを本拠地として、十年以上やってるヤツはだいたいここに事務所を置いてんだよ。いろいろあるからな」


 顔に出たのか、船長さんが教えてくれた。


 まあ、こんな時代とは言え、事務仕事は結構あるもの。荷の目録や船乗りの賃金、補給などなど、書いたり用意したりとメンドクセーもんがあるのだ。


「まずはアリベオからだな」


 と、三階にある、十畳ほどある部屋へとやって来た。


 中には机が四つ並べられ、羊皮紙の束やら木版が高く積み重ねられていたり棚に押し込められていたりと、ちょっとしたカオスになっていた。


 部屋の端には休憩スペースらしきものがあり、多分、代表者と思われる厳ついじーさんと、副官みてーな理知的な顔をしたおっちゃんが寛いでいた。


「アリベオの、ちょっといいかい?」


「構わんよ。ちょうど暇してたところだ」


 お邪魔するよと中に入り、来客用と思われるソファーへを勧められた。


「で、どうした?」


 海の商人は単刀直入派が多いよーだ。


「仕事が空いてるそうだが、こいつの仕事を受けてくれねぇか」


 と、厳ついじーさんと理知的なおっちゃんの目がオレに向けられる。


「どうも。オレはベー。ボブラ村のもんだ。仕事の内容は人と物の輸送だ。まだはっきりと決まった訳じゃねーんで明日から七日ほどの時間をもらいてぇ。報酬は一日の拘束料として金貨五枚。一回の輸送で金貨二十枚。諸経費として金貨三十枚を出す。前金として金貨十枚を出す」


 言って、ポケットから金貨を十枚出してテーブルに置いた。


「……実に魅力的な仕事だし、タージの紹介だが、お断りさせてもらおう」


「理由を聞いても構わねーかい?」


 真っ直ぐ厳ついじーさんを見る。


「信用がねえ客だからだ」


「わかった。時間をとらせて悪かったな」


 テーブルに置いた金貨をポケットに戻し、酒を一本出してテーブルに置いた。


「これは時間をとらせたワビだ。飲んでくれ」


 そう言って部屋を出た。


「お、おい、ベー。いいのか? 交渉次第ではなんとかなったんだぞ」


「見る目のねーヤツに用はねーし、信用できねーヤツと商売なんてしたくねーよ」


 オレの勘が言っている。ありゃダメだってな。


「なぜと、聞いてもいいかい?」


「面白味がねーからさ。自慢じゃねーが、オレの知り合いの商人につまんねーヤツはいねーんだよ」


 あんちゃん然り、会長さん然り。ああ、横の船長さんも然りだぜ。


「商売は人と人がするもんだ。金を見る前に人を見ろだ」


 それがオレの商売道だ。なんつってね。

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