第192話 商談成立
よしっと。まあ、こんなもんだろう。
「ふ~。やっぱ多いと疲れんな」
一人でも神経使うのに、こんだけの数は半日全力で働いたくらいの疲労だぜ。
体力は年相応なんで、処置が終わると自然と地面に腰を下ろしてしまった。
ポケットからコーヒー牛(羊)乳を取り出し、一気に飲み干した。
うん! 仕事の後の一杯は格別だぜ!
「……お前、薬師だったのかよ……」
呆れ気味の船長さんが、苦笑いしながらオレを見下ろしていた。
「まあ、副業だがな」
「調合は自作なのか?」
「調合、配合ができてこその薬師だよ」
まあ、それだけじゃねーがな。薬師の仕事ってのはよ。
「しかし、見事なもんだな。何度か薬師の仕事を見たことがあるが、お前みたいに鮮やかにはできてなかったぞ」
「いろいろ勉強したからな」
これでも高校卒業するまでは学年三位を取ったこともある。そう。オレはやればできる子なのだ。まあ、やりたくねーことはまったくできねー子ではあるがな……。
「……どんな十歳児だよ……」
「こんな十歳児だよ」
さてと。いつまでもヘタっている場合じゃねーな。さっさと依頼を受けてくれる冒険商人を捜さねーと。
よっこらせと立ち上がり、親父さんとやらに請求にいく。
「回復を喜んでいるとこワリーが、代金をもらえるかい」
まだ顔色はワリーが、目には強い意志と生命力を宿した親父さんとやら。まさに海の男って感じだな。
「いくらだ?」
「そうだな……」
と、治療したヤツらを見回す。
一、二、三……と、全部で十八人か。我ながらよくやったもんだ。
「まあ、全員が全員同じ薬でもなけりゃあ、量も違うが、だいたい一人金貨一枚と銀貨三枚。合わせて金貨二十枚と銀貨八枚になるが、団体さん割引きで金貨二十枚にしてやるよ」
「──なっ! 金貨二十枚だと!」
と、なぜか驚く赤髪のねーちゃん。あれ、安すぎたか?
「な、なんだ、その暴利な値段はよっ!!」
え? あれ? 逆? 王都ってそんなに薬が安いのか? 去年きたときは初級薬が高くても銀貨五枚だったのに……。
「止めねぇか、ナバリー」
「だ、だが、親父、金貨二十枚なんてっ!」
叫ぶ赤髪のねーちゃんを一睨みで黙らせる親父さんとやら。スゲー眼力だこと。
「悪かったな。負けてもらったのに不快にさせてよ」
「構わんよ。薬師やってりゃよくあることだしな」
素人目には簡単に治したように見えるし、薬の原価なんて知らねーんだからな。
「だが、やっぱり商人は商人なんだな。そんな目にあいながらちゃんと見てんだからよ」
中級の薬を使ったとは言え、それはオレの中での中級であって世間の中級じゃねー。はっきり言って原価は金貨二枚くらいだ。もちろん、技術料は抜きでな。
「それをわかるあんたも……悪い。名乗ってなかったな。おれは、ダングルリー号の船長、ブラーニーだ」
「オレの名は長いんで、ベーと呼んでくれ。ただの村人で薬師や樵とかいろいろやってるもんだ」
「まあ、突っ込みどころ満載だが、この非常識はそんなもんだと無理矢理飲み込め、ブラーニーの」
なぜか口を挟む船長さん。なんのフォローだよ。
「クックッ。これまでいろんなもの見てきたが、一番珍妙なもんを見たようだな、おれは」
「それには同感だな。この先、どんな珍妙なもんを見ても驚かねぇ自信があるよ」
なにやら失礼なことを言い、なぜか息の合うお二人さん。なんとでも言えや。
「で、払えるかい?」
「それなんだが、正直言って今は手持ちがねぇ。ワリィが、違うものでもいいか?」
と、腰に差していた刃渡り三十センチくらいの短剣を鞘ごと抜いてオレに差し出した。
見た目は飾り気のねー質素な短剣だが、魔を感じるところからして魔剣──いや、魔道剣か。
「……魔道剣、か?」
「わかるのか?」
「いや、魔の感じが魔術よりなんでな、そうかなと思ったまでだ」
魔剣を見て触ったのは二回しかねーし、魔道剣(まあ、魔道杖だったがな)を見て触ったのは一回だけだが、魔剣は魔法のような自然的な力で魔道剣は人工的な力を感じんだよ。
「やはり、おま──ベーは珍妙だな」
「感じるのは得意なだけさ」
「ふふ。それは風の魔道剣だ。そいつのお陰で一つ目から逃れることができた」
つまり、高価な品ってことだ。
「イイのかい?」
大切なもんだろう、コレと、赤髪のねーちゃんを黙れと睨むおや──じゃなくブラーニーのおっちゃんに問うた。
「しょうがねぇさ。払う金がねぇんだからよ」
「正当な仕事には正当な報酬を。とても金貨二十枚で買える品じゃねーようだからな、これもつけてやるよ」
ポケットから栄養ドリンク剤を三十本出した。
「直ぐにってわけじゃねーが、オレの自信作だ。飲んで一晩眠れば八割は元気になる。あと、味は二の次三の次なんで期待はしねーでくれ」
「……ありがたく受け取っておくよ……」
「なら、商談成立だな」
言って、魔道剣を受け取った。
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