第158話 マイウェイ
なんか体イテーと戸を開けたら目の前に口があった。
「──のわっ!」
理解するより早く体が勝手に動き、襲いくる口から転がるように回避した。
「キュー!」
なにやら憤慨する鳴き声がするが、泣きてーのはこっちだわ!
「ったく。お前の愛情表現は重いわ! もっと静かな愛情表現しろや」
キュッキュッと鳴くルククに抗議するが、毎回食われて振り回されるこっちの身になれ。結構ビビるもんだぞ!
「まったく、どこで覚えてくるのやら」
頭を押しつけてくるルククをあしらいながら保存庫からブララを持ってきてやる。
「ちょっとやることあっからそれ食ってろ」
そう言い残して朝の習慣を済ませ、朝の仕事へと向かう。
畑や柵の見回りを終え、家畜小屋(奥行を拡張したからもはや小屋ではねーんだけどな)の扉を開ける。
「ほら、出てこい」
そう声をかけると、新に加わった馬たちが我先にと出て来た。
「いっぱい食っていっぱい走ってこい」
そう声をかけ、他の家畜らを放牧する。隣のおじぃんちに、な。
小屋の掃除を終えて外に出ると、ドワーフのおっちゃんら家族がきていた。
「おう、おはよーさん。よく眠れたかい?」
オレは記憶がないほど眠れたぞ。
「お、おう。よく眠れただよ」
「お、おはようごぜいますだぁ……」
と、おっちゃんの嫁さんが挨拶し、その背後に隠れてガキどもが顔を出してお辞儀した。
「はい、おはよーさん。早いんだな。もうちょっと寝てればイイのに。無理しなくてイイぞ」
気力体力が戻ったらバリバリ働いてもらうんだからよ。
「だ、大丈夫だ。お陰さんでゆっくり眠れたし、いっぱい食えただよ。じっとしてる方が体にワリィだよ」
「アハハ。ドワーフは働きもんだな」
「よくも悪くもそれがドワーフだでよ」
なにやら自嘲気味に言うおっちゃん。まあ、いろいろあんだろうさ。
「まあ、イイさ。いろいろ作って欲しいしな、早く仕事してくれんならありがたいよ」
鞣す皮もいっぱいある。やってくれんなら文句などねーさ。
「じゃあ、おっちゃん。ちょっときてくれや。あ、トータ。こいつらの面倒見てろ」
家から出てきたトータにおっちゃんらの子供(見た目的にはトータくらいだ)に言う。
「……わ、わかった……」
まあ、人見知りなトータだが、これでいて面倒見のイイところがある。自分より弱い者や年寄りには優しいのだ。
「お、おれ、トータ」
近くにきたトータが三人のガキどもに自己紹介をする。まあ、これが限界だがよ……。
「トータが砂場でおもしろいもん見せてやるからいってみな」
土魔術訓練用の砂場だが、まあ、魔術で城を創ったり山崩しをしたりと、ガキんちょどもにはイイ遊び場だろうて。
「お前ら、とーちゃんとかーちゃん、仕事してくっから遊んでこい」
おっちゃんの言葉に躊躇するガキどもだったが、オレが土魔法でミニゴーレムを創り出して気を引いたらあっさりと砂場の方へ誘導されていった。
「トータ。土魔術でミニゴーレム創って倒してみな。それが今日の訓練だ」
「うん!」
と、元気良く返事して砂場へと駆けてった。
「あ、あんた、土魔法使えんのかい?」
なにか驚くおっちゃん。あ、ドワーフは土魔法の使い手で、人が使うのは珍しいものだったっけな。
「持って生まれた才能なんでな」
「や、やっぱ、神童って言われるだけあんだなぁ……」
まあ、土魔法の才能なんて願ったからな、それだけ見ればは神童だろうよ。自慢にはならねーがな。
「なんとでも言ってくれ。それよりいくぞ」
もはやなんと呼ばれようがオレのマイウェイは変わらない。思いのままに突き進むだけである。
まず、おっちゃんらを皮置き場に連れて来る。
「村に皮を鞣すことができるもんが少なくてな、こうして残ってんだわ。まずは鞣してくれや。道具は一応あるが、足りねー場合は言ってくれ。すぐに用意すっからよ」
「……こ、これ、な、なんで腐らねぇだ?」
血肉の付いた皮に驚くおっちゃんら。まあ、無理はねーわな。
「その辺は魔法的なもんで腐らねーようにしてある。鞣す前に三度指で突っ突けば魔法的なものは消えるから忘れずにな。で、道具はこっちだ」
と、皮の置き場や道具の置き場を説明していく。
「普段、この保存庫には家族以外入れねーようにしてるがおっちゃんらも入れるようにした。だから必要ならこの保存庫から好き勝手に持ち出してイイからよ。あと、家と工房はもうちょっと待ってくれな。いろいろ忙しくてやることいっぱいなんだわ」
先程から口ポカーンとさせてるが、ちゃんと聞いてるか?
「……あ、あんた、何もんなんだぁ?」
「由緒正しい村人だよ」
まあ、母方からの系譜では、だが。オトンの系譜はよー知らん。
「んじゃ、朝食取ったら頼むわ」
今日はジャックのおっちゃんがいるバリアルの街にいかんとならんのだ、いつまでもおっちゃんらに付き合ってはいられんのだよ。
朝食を済ませ、街に行く用意(服装的なものと装備的なものを変えたのだ)する。
「オカン。夕方までには帰ってくっからよ。そっちも気を付けてな」
まだ朝食を取ってるオカンらに声をかけた。
「ああ、いってらっしゃい」
「あんちゃん、珍しい調味料があったら買ってきてね」
「いってらっしゃい」
ああと、笑顔を見せて待機してたルククの背に跨がる。
「ルクク、ゴー!」
「キュイー!」
力強い鳴き声とは裏腹に軽やかに浮かび上がり、そして、竜の名に恥じぬ羽ばたきを見せた。
「さあ、買い物の時間だ!」
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