第157話 ハッピーデイ
「あ、あのよ、ちょっといいかい」
イイ感じに終わりそうなとき、今まで黙っていたドワーフのおっちゃんが口を挟んできた。
「ん、なんだい?」
「オラは見ての通りドワーフだぁ 。シェラダのもんらのように狩りや畑仕事なんてできねーだよ。オラに、つーか、オラたちにできる仕事はねーかな?」
甘えんな、と言うのは簡単だが、労働力と考えたとき、ドワーフを狩りや畑仕事させんのはもったいねーし、ドワーフの特性を殺すだけだ。
どこにでもいる(うちの村にはいねーけどよ)ドワーフだが、鍛冶ギルドがあるところしかいねー。ん? そー言やぁ、なんで獣人といんだ、このドワーフのおっちゃんら?
「つーかよ。なんであんたがこいつらといんだ?」
よくよく考えたら獣人に鍛冶屋なんて不要じゃね? モコモコさんらの武器、木の棒に魔物の牙だか角だかを使った原始的な槍だったぞ。盾なんてのも持ってなかったし。
「恥ずかしい話だが、オラ、鍛冶はそんなに得意じゃねぇんだ。まあ、それなりにはできるが、ナマクラしか作れんだよ……」
ヒゲもじゃなんで表情はわからんが、情けなさと悔しさが態度に出ていた。
まぁな。ドワーフだからと言って全てのドワーフが鍛冶に特化してる訳はねーわな。中には不得意な者いるさ。いねーと思う方がどうかしてるわ。
「んじゃ、なにが得意なんだ?」
獣人の生態はよく知らねーが、同一種族の中に異種族を入れるなんてなかなかあることじゃねー。それがいるってことは、なんらかの得意なことがあり、モコモコさんりに必要とされているってことだろう?
「オラ、鍛冶はダメだが皮を鞣したり加工したりは得意だぁ。シェラダ族の靴はオラが作ってるだよ。あと、木工も得意だぁ」
と、横にいるモコモコダンディがこれですと自分の履いている靴を見せてくれた。
「ほぉ~」
思わず感嘆の声が漏れてしまった。
モコモコに隠れてわからなかったが、前世の革靴にも負けない逸品であった。
スゲェーよ。この時代に出せるもんじゃねーよ。もはや芸術だわっ!
……もしかして、当たり引いたんじゃね……?
「……ダメだかぁ……?」
黙り込んだオレに不安な声を出すドワーフのおっちゃん。
「ダメどころじゃねーよ。こっちから頭下げたいくらいだよ!」
なにこのドワーフのおっちゃん。なんでモコモコさんらといんだよ。デカい街なら王室御用達になっても不思議じゃねーレベルだよ。
「ちょっと待ってろ!」
そう言い残し、保存庫へと駆け出した。
皮置き場から皮を剥いだまま時間凍結させた灰色狼や角猪、火竜の皮を抱えて広場に戻った。
「な、なあ、ドワーフのおっちゃん。これ、鞣して革にできるか?」
持ってきたものに戸惑いながらも手に取り、具合を確かめた。
「……剥ぎ取りは雑だが、いい皮だなぁ。これならいいもんができるだよ」
「キタァァァァァッ!」
歓喜のあまり思わず叫んでしまった。
こんな出会いにハッピーデイ! なんて自分でもよくわからないテンションになっていた。
オレが求めている職人(技術者)は何人かいるが、一番求めていたのが革職人だ。
この世界(時代)、魔物の発生率が高いので、狩った魔物の皮を加工する技術が発達している。だが、そんな職人(技術者)は、大きな街にしかおらず、冒険者や貴族相手にしかしないのだ。
職人、とまではいかねーが、皮を加工するもんは村に何人かはいるが、本職の片手間にやるから量は作れねーし、複雑なものはできねー。精々、革のベストやベルト、簡単な鞄くらい。とてもオレが望む域じゃねーのだ。
そんなレジェンド級の職人が目の前にいる。これが叫ばなくてどうする。力の限り歓喜しろだ。
「おっちゃん! あんた、この村に住まねーか? 村長にはオレから言っとくし、住む家も工房もオレが用意する。必要な道具も揃える。食料も酒も用意する。なんなら嫁さんや子供にも仕事を回す。決して雑には扱わねー。約束する。だからオレの専属職人になってくれ!」
これまで下げたことのねー頭を下げてドワーフのおっちゃんに頼み込んだ。
「……オ、オラでいいだかよぉ?」
「あんたが欲しいっ!」
まるで愛の告白だが、オレのこの熱意はそれ以上だ。今ならその足にキスしろって言われたら躊躇なくするぞ!
「……わ、わかっただ。あんたの専属になるだよ……」
その後、歓喜どころか狂喜したようで、心配したアリテラに静め(沈め)させられたとかなんとか。
まあ、結果オーライだ。
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