第156話 漢(おとこ)よ誇れ

「話が逸れっちまったが、元に戻すな。その前に、あんたら、酒は飲めるか?」


 突然の問いに目を大きくさせるモコモコさんだが、飲めると頷いた。


「んじゃ、飲みながら聞いててくれ」


 まあ、獣人の口に合うかどうかわからんが、逃避生活が長かったみてーだし、酒のない日々だったはず。ならなんでもイイだろう。


 瓶詰めした蒸留酒をポケットから二本出す。あと人数分のコップに魔術で氷の塊を入れて行く。


「ベー。蒸留酒あるならうちに卸してくれよ。それ、人気で頼まれってんだよ」


「ワリーな。あと三本しかねーからやれねーよ。まあ、会長さんに作り方教えたからそのうち出てくるから待ってろ」


 酒作りに関しては完全な趣味。そして来客用だ。卸すほど作りはしねーのだ。


 ……とは言え残り三本。そろそろ作るか買ってこねーとならんな……。


「ったく。天下のバーボンド・バジバドルに教えたらまた繁盛するじゃねぇかよ」


「愚痴るなよ。あんちゃんは人魚との取引を一手に扱ってんだ、蒸留酒ごときでグダグダ言ってんじゃねーよ」


 まあ、そこはあんちゃんの手腕によるが、真珠だけでも相当な儲けになるはずだ。そんな贅沢言ってたら他の商人に殺されんぞ。


「そんなに欲しいなら作らせたらイイだろう。作り方なら教えてんだからよ」


「んな簡単にできるかよ。あれはお前だからできる方法だ。普通にやったら資金難で首吊るわ!」


 まあ、そりゃそーだ。個人で飲むならあるものでできるが、売るとなればそれなりの大きさになる。今の技術で蒸留装置(主にガラスを作る技術者がすくねー)なんて造ったら軽く国家予算くらい注ぎ込まなくちゃならねーだろう。


 会長さんに教えたのは実験サイズのもの。あとは数でなんとかしろと言ったからな。まあ、それでも金は掛かりそうだがな。


 蒸留酒と水を注ぎ、軽くかき混ぜてモコモコさんらとドワーフのおっちゃん(いたの気が付かなかったよ)に回していく。


 そう濃くした訳じゃねーが、ドワーフのおっちゃん以外は火でも吐きそうな感じに口を開いた。


「濃いなら水を足せ。あと、香りが合わねーならこれを垂らせ」


 ポケットからレモン(のようなもの)を出し、輪切りにし皿に置いた。


 酒好きな種族のドワーフのおっちゃんには薄いだろうと、もう一本だして渡してやった。


「で、だ。さっき言ったようにあんたらにはしばらく体力と精神を回復してもらう。こちらにも都合があるからいついつまでとは言えねー。が、まあ、五日か六日はゆっくりしてろ。暇なら船の扱い方や泳ぎを覚えてたりしろ。あんちゃん、こいつらを一度港に連れてってくれや」


「ああ、そりゃイイが、獣人に船とか泳ぎを覚えろとか酷じゃねぇか?」


「できなきゃ滅びるだけだ。生きたきゃ覚えろ。人だって水ん中で生きられねーが、船に乗って漁はしてるし、海ん中に潜ってる。人にできて獣人にできねーなんてことねー。少しずつやっていけば一万年後には半魚人にもなれるわ」


「……ほんと、メチャクチャ言うよな、お前は……」


「無理を通せば道理が引っ込む。そんな気概で生きやがれ。人はそうやって繁栄してきたんだからよ」


「……あんたら、話半分に聞いておけよ。そんなことできんのベーだけだから……」


 なぜか同意するモコモコさんら。解せぬ!


「まあ、なんでもイイよ。しばらくはそうしてろ。で、だ。タケルは明日島に戻って潜水艦を港に持って来い」


「へ? え、おれ!?」


「お前だよ」


 自分に関係ないと思ってのか、完全に他人事で見ていたよーだ。


「ったく。ちゃんと話を聞いとけ。お前にも働いてもらうんだからよ」


「え、あ、お、おれ、嵐山らんざんを操るくらいしかできませんよ」


「今はそんだけできれは充分だ。つーか、あの未来的な潜水艦を一人で操れんのか?」


「あ、はい。操るだけなら。戦闘になったら難しいですけど……」


 そりゃそーだ。一人で動かせたらアニメ的に見せ場がねーわな。クルーとのやりとりが海戦の醍醐味なんだからよ。


「なあ、あんちゃん。さっきこいつらから一人、雇えとは言ったが、あんちゃんは、人を雇うこと考えてっか?」


「あ、ああ。まあ、考えちゃいるが、まだ先だとは思ってるな」


「なんで?」


「普通の店持ち商人なら弟子の一人や二人いても不思議じゃねぇが、ここでの商売は人魚相手だ。と言うか、人外がほとんどだ。そんなところにきたいと言うヤツはいねーよ」


「ならいたら雇うんだな?」


「ま、まあ、いれば雇いてーよ。まだ客は少ないとは言え、港とここを見なくちゃならんし、月に一回は街に卸しにもいきたいからな」


「じゃあ、きたいってヤツを二人か三人連れて来る。だから雇え」


「……ったく。わかったよ。きたいってヤツを連れて来てくれ」


「わかった。連れてくるよ。タケルもだぞ」


「へ? あ、あの、いったい、なにがなんだかさっぱりなんですが……」


「だからお前も雇え。そして、潜水艦のクルーにしろ。タケル船長」


 艦に船長ってこともねーが、まあ、その辺は深く考えるなだ。


「あと、暇なときは体を鍛えろ。戦える術を持て。いくら潜水艦を操れても常に乗ってる訳じゃねーだろう。海ん中には人魚や魚人がいるし、地上には凶悪な魔物や悪党がいんだ、そんな軟弱な体と精神では早々に死ぬぞ」


 何度も言うが、なにかに優れているだけでは生きていけねー。そんな単純な世界なら誰も苦労しねーよ。


「それと、港と島に造る潜水艦の基地を考えておけな」


「へ? な、なぜです?」


「基地は男のロマンだろうが! 下手なもの造ったらカッコワリーだろうがよ!」


 なんて言うのは八割方本音だが、補給や整備をする場所は必要だし、今後のことを考えたら海の防御を固めておかねばならん。ってのが一割。残りは輸送船ゲットだぜ! ってなことから港を造らなくちゃならんのよ。


「──そ、そうですよねっ! やはり基地はカッコよくないとダメですよねっ! おれ、ベーさんに一生ついていきます!」


 おうおうついて来いついて来い。オレはロマンを理解できるヤツはいつでもウェルカムだぜい。


 ねーちゃんの冷たい目が『バカがいる』と語っているが、そんなものアウト・オブ・眼中だ。


 男は女にバカと言われたときに真の漢おとこになるのだ! 誇れ、おとこよ!


 あ、突っ込みはノーサンキューね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る