第155話 毎度ありィ~

「まあ、理解しろとは言わねーよ。ただ、そう言った未来図……は、わかんねーか。つまり、生活が変わるからガンバレってことだ。今はそう理解しとけ」


 たぶん、八割以上オレの言ったことなんて理解してねーだろうが、未来に希望ありと感じてくれれば御の字、くらいの気持ちで言ったまで。あとは族長たるモコモコダンディにお任せだ。


 とは言え、それも心配なのでもうちょっと言葉を足しとくか。


「眠いヤツは無理せず眠れ。起きていられるヤツは残れ」


 その言葉に遠慮してか誰も動こうとはしなかったが、あんちゃんの説得で女や子供、老人が下がり、十八人のモコモコマンが残った。


「あんたらの一族、元々こんくらいの数だったのか?」


 はっきり数えた訳じゃねーが、五十人いるかいないかの数だった。


 まあ、三十人ばかりの小さな村なんてざらにあるし、村としてなら別段問題ねー。だが、種族となると絶滅秒読み段階の危うさだ。


 この数だけで子を産んできたら種として不具合、奇形児や体の弱い子が生まれかねない。近親相姦してるのと同じ。種として末期だ。


「……元々我らは大部族でした。村もたくさんあり、人族とも交流してました。ですが、百年前に我らが住む森に魔王が攻めてきました。各村の戦士が食い止めようと命をとして戦いましたが、魔王の軍勢に一つ、また一つと村を焼かれ奪われ、一族は散々に、今ではこれだけの数となってしまいました……」


 この世界(時代)では魔物に滅ぼされる村や町なんて珍しくもねーが、魔王に滅ぼされたとかは初めて聞いたぜ。


「他の仲間とは連絡つかずなのか?」


「……はい……」


 重苦しい返事にオレはそうかとだけ呟いた。


 強者として沢山の命を奪ってきたオレにとやかく言う資格はねーからな。


「……話は変わるが、あんたらのその毛って、なんか云われがあったり掟があったりするのか?」


 今更だし、撤回する気はねーが、あるなら聞いとかねーと。無理矢理だったら不和が生まれかねねーしな。


「これと言ってありません。我々のこの毛は人で言うところの服であり鎧です。夏と冬には毛が生え変わりますし、病気を防ぐために年に何回か刈るので刈ることに抵抗はありません。刈っても直ぐに生えてきますし」


 種族が違えば生体も違う。獣人パネー!


「あの、我々の毛などどうするので?」


「糸にして売るんだよ。あんたらの毛、丈夫そうだし暖かそうだし、洗えば綺麗になるはずだ。糸として紡げば値のつくものになるぞ。そうだな、一巻き、銀貨三──いや、五枚はいくな」


 毛糸の知識はそうはねーが、毛長山羊と比べたらモコモコらの毛の方が上質感がある。この毛なら相当イイもんができるとオレは見るね。


「まあ、そう思ったからこそあんたらに毛を刈れって言ったんだよ。売れればあんたらの懐に入る金も多くなるし、物も買える。畑に植える種や家畜を買うこともできるしな」


 こちらも糸が手に入れば服を作ったり、絨毯作ったりと、生活向上アイテム間違いなしのものだ。毛皮や革では暖かみに欠けるからな。


「本当に我々の毛が売れるので?」


 まあ、懐疑的なのもしょうがねーか。オレだって自分の髪が銀貨五枚で売れるって言われてもなに言ってんの? 気持ちワリーわ、ってなるだろうしな。


「売れる。つーか、大人気になるとオレは見る」


 今は灰色に汚れてはいるが、元の色でコートなんて作ったら貴族の令嬢は必ず飛びつくはずだ。まあ、デザインはセンスのイイ人にお任せだがな。


「だろう、あんちゃん」


 そう振ると、あんちゃんは思案顔になる。


「……う、んー、まあ、悪いとは思わないが、大人気になるか? 白長羊の毛の方が人気あるぞ」


「ったく。商売は上手いのに見る目はねーな、あんちゃんは。もっと見る目を養わねーと他に追い越されんぞ」


「うるせー! お前と一緒にすんな。そんなのわかんのお前だけだわ!」


「んじゃ、こいつらの毛はオレが全て買うぞ。文句ねーな?」


「い、いや、それとこれは別だ! 少しは──いや、半分はこっちに回せ。なあ、イブールさんよ。こちらに卸してくれるならうちの商品二割は安くするぞ。なんならこれからの暮らしの準備金を出す。もちろん、返してはもらうが利子は付けないし、三年は返済を待つ。どうだ?」


 ったく。獣人相手になに言ってんだか。そんなことわかんならとっくに繁栄してるっつーの。


 ほら、モコモコダンディ、オレに助けの眼差し向けてるぞ。


「イイんじゃねーの。あんちゃんなら騙したり、誤魔化したりはしねーしな。半分は出してやれ。あ、オレは女子供の毛を買うな」


「あ、テメーきたねーぞ! それは話し合いだろう! 勝手に決めんな!」


「うるせー! 横から出てきて勝手言ってんのはあんちゃんだろう。それを認めてやったんだ、優先権はこっちにあんのは当然だろうが」


「普段、村人村人言ってるクセに、調子いいときばかり商人すんじゃねーよ! 安く売ってやるから全部寄越しやがれ!」


「よしわかった。半値で寄越せな」


「なっ!? な、なに暴利なこと言ってんたよ! 二割安に決まってんだろう!」


「オレは一度ならず二度も譲った。ましてや安く売るとあんちゃんは言った。それで二割安? あんちゃん、それはなんでもぼったくり過ぎだろう。イイ商売じゃねーぞ。それともあんちゃんは、オレになにを譲歩してくれんだ? オレにはこいつらに手助けする恩があんだぞ? ジャックのおっちゃんを通して糸職人に繋がりを付けてもらえる。あんちゃんより安く糸にしてもらえる。半値でも高いくらいだぜ」


 フフンと笑って見せる。


 あんちゃんは『グヌヌ』と唸るが、オレの伝の多さを知っているだけになにも言えずにいた。


 なんちゃって商人だが、経験値はあんちゃんより上だ。口も伝も敗けやしねーんだよ。


「……わ、わかったよ、こん畜生が……」


「へへっ。毎度ありィ~」


 そんなあんちゃんに、オレは会心の笑みを見せてやった。

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