第141話 ルククが遊びにきた
朝。いつものように起きて身だしなみを整えて家の扉を開けたら壁があった。
は? と思う暇なく視界が暗転。
なに? と更に思う暇なく重力消失。なんか凄まじく揺られ捲った。
──なんだ!? なんにが起こった!?
なにやら生温かく、なんか生臭い臭いに包まれながらじたばたしていると、さらに激しく揺られ回された。
うぉおぉぉぉっ! なんなんだいったいっ!?
「こら、ルクク! 止めなさい!」
サプルの声が耳に届くと、揺れが収まり、急に視界が光に包まれた──と理解するより早くケツに衝撃が生まれた。
──イテェー! くはないが、心臓にワリーわ!
「あ、あんちゃん、大丈夫?」
なんか顔がベタベタで瞼が開けない。
手で払うがなかなか払い切れないでいると、水が顔に当てられた。
「あんちゃん、水。顔洗って」
サプルの水魔術だろうと理解して水に顔を突っ込み、乱暴に洗った。
汚れを落とし水から顔を離すと、タオルが顔に当てられ、ゴシゴシと拭いてくれるサプル。この世に生まれて一番の幸せは、お前が妹でいてくれることだぜ。
「ありがとう、サプル」
してもらったら礼を言うのが我が家のルールである。
「まったく、いったいなん──」
「──キュイィー!」
言葉途中で慣れ親しんだ鳴き声に遮られてしまった。
「……ルククか……」
そー言やぁ、去年も同じことされたっけ。毎日が新鮮な出来事だから忘れてたわ……。
「お前の挨拶は過激でたまらんな」
まあ、もうちょっと落ち着いた挨拶をしてくれると助かるんだが、オレとの再会をこうまで喜んでくれたらなんも言えねーな。
「よくきたな。ルクク」
顔を撫でてやると嬉しそうにキュウキュウ鳴き出した。
「さて。早くきてくれワリーが、仕事があんでな、ちょっと待っててくれ。朝メシは食ったのか?」
「キュウィーキュウィー」
「まだか。ならお前の大好物を出してやるよ」
ルククの顔を撫でてやってから保存庫へと向かい、ブララが一杯詰まった樽を持ってきてやる。
ブララとは見た目はキウイに似てて、完熟しても酸っぱいものだが、 ルククには旨いもんらしい。
まあ、砂糖を混ぜて煮込めばイイ感じのジャムになり、ホットケーキやクッキーにかけたりと、なかなか美味なるものだ。
「旨いか?」
夢中で食ってるから旨いんだろうが、つい聞いてしまうのが人情ってもの。なんか犬みたいでカワイイのだよ。
「そー言やぁ、ブララの季節だったな」
春の半ばくらいに実をならし、ルククがきたときに採りにいくものだった。
「サプル。今日はブララ採りにいこうと思うんだが、どうだ?」
さすがに一人で採取するのは大変なのでサプルを誘う。
「そうだね。ルコの実はまだだし、イイかもね。うん、いく」
あ、ルコの実採りは山の女衆総出でだっけな。それも忘れてたわ。
「なら、朝食取ったらいくか。あ、オカンに言わんとな」
イイよと言うのはわかっているが、ちゃんと言うのが孝行であり、信頼を生むのだ。
「あ、オカン。今日、サプルとブララ採りに行っても大丈夫か?」
丁度家から出てきたオカンに尋ねる。
「ああ、いってきな。ついでにラビーも採ってきておくれ」
甘い小さな木の実で、味は栗に近いかな? ブララが採れる場所にしか自生しないもので、オカンの大好物なものだ。
「わかった。たくさん採ってくるよ。楽しみにしてな」
人がこない場所なので、もう採り放題食い放題。時間を忘れてしまい帰りが夜にならないか心配だぜ。
「んじゃ、とっとと朝の仕事を終わらせますか。ルクク、待ってろな」
「キュイー!」
にしてもルクク、年々賢くなってねーか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます