第138話 忘れてた
なんつーか、エリナの能力スゲーなとは頭ではわかっていたが、その能力を直で見ると言葉を失うな……。
あの後、オークを捕獲していると言う地下室に場を移し、美丈夫なオーガの手によりオークがエリナの前に出された。
オークを前に嫌な顔を見せるエリナではあったが、自分の糧となるため必用なことは受け入れているらしく、なんの躊躇いもなくオークの頭に触れた。
エナジードレイン。または生命力吸収。まじスゲーな。
いやまあ、生命力が流れて行くところは目には見えんが、エリナの魔力が高まっていくのは感じ取れ、オークを見れば見る見るうちに目から生気が失われていっていた。
先程エリナが言ったように命だけ吸い取っただけなのでオークはそのままで──死体となった。
普通に考えたらミイラみたいに枯れ枯れになると思うんだが、エリナのエナジードレインはそうじゃないみたいだな。
まあ、オレの力も不思議パワーなんだし、深く考えるのは止めておこう。ありのまま受け入れてろ、だ。
続けてオークを二匹頂いたエリナは、さすが王級(騎士系ねーちゃんによれば魔王になれる力を持つ魔物を王級って言うんだってよ)なだけはあると感じさせる魔力を放っていた。
「腹一杯って感覚になるのか?」
疑問に思ったので聞いてみた。
「そう言う感覚はないでござる。ただ、満たされた気持ちになるでござる。ちなみに、エナジードレインは何百体でもいただけるでござるよ」
食えば食うほど強くなるってか。そりゃ魔王にもなるわな……。
「では、馬を生み出すので上にいくでござるか」
まあ確かにここで生み出されるのも困るわなと、上に、マンションの前に場を移す。
「つーか、どこでもイイのかよ」
もっとこう、なんか怪しげな部屋とか魔法陣とかあるもんだと思ってたんだがな。
「能力なんで場所は選ばぬでござるよ」
まあ、オレの結界術も場所選ばんしな。便利で納得しておこう。
「では、馬を生み出すでござる」
場所を選ばないのなら呪文も必要なしとばかりにエリナの目の前に茶色毛の馬が──たぶん、競馬に出てくるやつが忽然と現れた。
「……なんて馬だ?」
「知らんでござる。拙者、馬なんてテレビでしか観たことないでござるから」
いろいろ突っ込みたいが、同じ不思議パワーの持ち主。聞かぬが礼儀だ。たぶん……。
「こいつ、何歳くらいだ?」
「わからんでござる。競馬番組で観た記憶をもとに生み出したでござるから若いのではなからろうか? あ、でも寿命は五十年くらいに設定したでござるから安心してくだされ」
あーうん、それはタスカリマシター。
考えるな、感じろの精神で事実を飲み込み、生み出された馬に近付く。
馬がこちらを見る。オレも馬はテレビでしか知らんが、エリナの生み出した馬の瞳は、なにやら賢さを感じさせる輝きがあった。
「今日からこのヴィどのが主でござる。よく仕えるでござるよ」
わかりましたとばかりに頭を下げ、顔をオレに擦り付けてきた。マジ賢いな、こいつ。
「ま、まあ、よろしくな」
馬相手になんと言ってイイのかわからんから無難に挨拶を返した。
「ヴィどの。名前をつけてくだされ。そうすれば正式にヴィどのの所有になるでござる」
なんかよくわからん決まりがあるよーだ。
「わ、わかった。名前な……」
馬のアレに目を向けると、立派なものがあったのでカッコイイ名前にすることにした。あ、ちなみにオレはキラキラネーム派ではありませんのであしからず。
「……アカツキ。お前の名はアカツキだ」
拙者、和名派でござる。
なにやら名づけするとアカツキの体が眩しく光り、なにやら気持ち、存在感が増したよーな?
「えーと、どゆこと?」
エリナに説明を求めた。
「あ、拙者が生み出す生き物は魔物でござる。なので名をつけることでワンランク上に進化したでござるよ」
先に言えやっ! この汚物魔王がッ!
「アハハ。新種ってことで、かんにんでござる」
血管切れそうだが、まあ、望んだのはオレ。詳しく聞かなかったのもオレ。自業自得だ。責任持って受け取れだ。
「イイよ。人を襲わねーならなんとかするよ」
エリナの言ったように新種で誤魔化す。どうせ村のヤツらはオレだからと納得すんだろう。毛長山羊のときも別に反対されなかったしな。
続いて生み出されたのは黒毛のメスで、名をコノハと命名した。
次々と生み出される馬に名を付け、最後のメスの白馬が生み出された頃、ねーちゃんらがやってきた。
「遅かったな」
「あんたらが速すぎるのよっ!」
と、斥候系ねーちゃんに怒鳴られた。
まあ、まったくその通りなので笑って受け入れた。
「それで、いったいなにしてるの?」
言っても無駄と早々に諦めた騎士系ねーちゃんが尋ねてくる。
「エリナに馬を生み出してもらってたんだよ」
前々から馬が欲しかったんだよ的な説明をざっぱに語ってやった。まあ、理解も納得もされなかったけどね~。
「んじゃ、お前はユキノな」
十頭全てに名をつけてやった。
「さて。用も済んだし帰るか。あ、港の用意と馬車が用意できたらくるよ。それまではオークを食って凌いでくれや」
「わかったでござる」
まあ、それほど時間はかからんだろうがな。
「ねーちゃんらはどうする?」
「「「「帰るわよ!」」」」
と、大合唱された。なんだよいったい?
女心にいちいち付き合ってたら心臓がいくらあっても足りやしねー。気にすんな、受け流せ、が一番である。たぶん……。
「ねーちゃんら、馬に乗れるか?」
ちなみに、オレは超余裕で乗れます。
「問題ないわ」
騎士系ねーちゃんの説明では、馬に乗れない冒険者は二流のことなんだとよ。
「じゃあ、好きな馬を選びな。トータもだ」
ずっとへばりついてるトータにも馬を選ばせた。
収納鞄から厚手の敷物を取り出し、土魔法でハミや鐙などを創り出し、六頭に装着させる。
「ん~。なんかイマイチ」
いや、デザインも完成度も下の中だな。馬具を作る才能はオレにはないよーだ。
……今度、王都にいったときに買ってくるか……。
王都での買い物リストを追加し、皆に馬に乗るよう促した。
ねーちゃんらは流石と言った感じで跨がった。
「トータは無理せずハヤテに任せろ。ライオウ、頼むな」
任せろとばかりにヒヒーンと鳴くライオウ。いやもう言葉を理解できるとか、賢いって粋じゃねーだろう。
「じゃあ、帰るか」
アカツキの脇腹を軽く蹴り、出発の命令を下した。
あ、ここは『ハイヨーシルバー!』をやるところだろう、オレ!
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