第137話 ところがぎっちょんちょん

「ちと、話は変わるが、煎餅って、エリナの能力で出してるのか?」


 煎餅を皿からつかみ、掲げて見せる。


「そうでござる。拙者、煎餅が好物なので」


「つーか、食えんのか?」


「食えるでござるよ。この肉体は生きてるので」


 あん? 生きてる?


「拙者、リッチではござるが、ダンジョンマスターでもあるでござる」


 それは聞いたし、覚えてる。が、それがどう繋がるかわからん。説明ぷりーず。


「あまり確証があるわけではござらんが、拙者、基本はダンジョンマスター──このくらいの核が本体でござる」


 と、親指と人指し指で輪を作った。


「神にこのままの姿でと願ったことから核に精神体をくっつけたと思うのでござる」


 ふむ。エリナの願いからしてそうなるのもわからないではないな。


「でも、肉体を持ってんのはなんでだ?」


「ダンジョンマスターの能力には、記憶にあるものや想像したものを生み出す力があるでござる。まあ、魔力次第、と言うつけたしがあるでござるが」


 まあ、そのくらいの縛りがなけりゃ理不尽で憤死するわ。


「じゃあ、その体なら外に出れる理屈じゃねーの?」


「ところがぎっちょんちょん。肉体に精神体をシンクロさせてるのでなんの防壁にもならんのでござる。前のダンジョンのときは核を岩で包み込み、部下製作能力でゴーレムを創りその中に閉じ籠って逃げたでござるよ」


 ふ~ん。いろいろ逃げ道あんだな。


「じゃあよ、その方法でエリナはダンジョンから出れんのか?」


「維持管理は拙者の魔力なので長時間──そうでござるな、魔力を注ぎ込んでおけば一日は平気でござるな。まあ、拙者、筋金入りの引きこもりなので一日以上は出たことないでござるがな」


 ドヤ顔する意味はわからんが、一日でも出れるなら更に更に好都合だ。


「じゃあ、オレの力で陽の光や物理、魔術的なものは通さない結界を纏わせる。もちろん、中からは能力的魔術的なものは出せるようにする。だから、港から底の空間まで通じる通路ができるまで港に通え。これももちろん、毎日じゃなくてイイし、数時間。海の幸を食って帰ればイイさ。お前の部下製作能力で俊馬を創り出せば直ぐだろう。もし、陽が怖いなら馬車や日傘を作ってやる。どうだ?」



 オレの問いに、エリナは『うーん』と言って考え込んだ。


「マスター。べーさまの心遣いに甘えるべきです。魔力さえあればジオなんとかができるのです。一時の我慢です」


 バンベルの援護でエリナなは不承不承頷いた。


「……ほんのちょっとの時間でござるからな……」


 なるほど。確かに筋金入りの引きこもりだな、こいつは……。


「それでなんだが、オレにも馬を創ってくんねーか? できれば駿馬で番。繁殖できるやつ。更に欲を言うと賢い番犬も欲しい。まあ、無理なら諦めるがな」


 家畜もさることながら馬も欲しいんだよ。リファエルは荷を曳くなら問題ねーんだが、移動用と見たら不満しか出てこねー。それに、一匹しかいねーからサプルに回せねーのだ。


 まあ、サプルには強化結界鎧(オレ的にはドレスにしたかったのだがサプルがこれってないくらい嫌がったので鎧型にしたのだ。発動言語は魔法少女的なもんにしたがな)を渡してあるから荷車を曳くのは苦ではねーんだが、見た目的にアウト(八歳の幼女が荷車を曳くってある意味虐待だよ)だから馬が欲しかったのだ。


「馬に犬でござるか? まあ、できないことはないでござるが、拙者、この世界で馬も犬も見たことないでござるから前世の馬と犬になるでござるがよろしいでござるか? それと拙者、犬が嫌いなのでチワワしか生み出せんでござる」


「チワワじゃ番犬にはできんな。ペットとしてもいらんしな。んじゃ、馬を頼む。繁殖させてーから番で五組、はできるか?」


「オークを三匹くらい頂けば大丈夫でござる」


 なんか燃費イイな、お前の能力って。


「あ、あんま時間がねーからある程度賢くしてくれや。調教とかもよーわからんからよ」


「わかったでござる。ただ、生まれた子は普通の馬になるでござるが、構わんでござるか? 拙者の部下製作能力は一代限りなんでござるよ」


「まあ、しゃーねーだろう。馬を生み出してもらえるだけありがたく思わねーとな」


 この世界にねー命を生み出せるのだ、それだけで感謝だろうよ。


「あとよ。玉蜀黍とかも出せるか? 家畜の飼料にしたいからよ」


「わかったでござる。あ、では薩摩芋もお願いするでごさる。拙者、薩摩芋も大好物でなんで」


 と、玉蜀黍と薩摩芋が炬燵の上に溢れるほど現れた。


「出せんなら作る必要ねーんじゃね?」


「拙者、手作りなものを食したいでござる!」


 うんまあ、前世でも今世でも誰かに作ってもらう料理は旨いって知ってるからな、エリナの主張に頷いておこう。


「わかったよ。今度くるとき、旨い石焼き芋を持ってきてやるよ。うちのサプル──妹は料理上手だからな」


 ちょっとのヒントでマヨネーズやアイスを作り出すサプルである。石を熱して焼くって教えれば試行錯誤して旨い石焼き芋を作るだろよ。


「それは楽しみでござる!」


 そうだな。オレも石焼き芋は好きだったからな、楽しみだ。

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