第131話 ドンとこい!
「よっこらせーのどっこいせー。あらよ、ほらよ、どっこいしょ~!」
軽やかな音頭を取りながら直径一メートルほどナラバの木を伐って行く。
五トンのものを持っても平気な体と自慢の斧のなら二、三回も伐れば倒せるのだが、伐採とはそんな単純なものじゃねー。
オレが考えなしに力を振るえば伐採じゃなく粉砕になり、薪にするところが少なくなる。
倒す場合も他の木を巻き込まないよう伐って行かなければならんし、倒したときに枝を伐りやすい位置に狙ったりもする。
まあ、何人かでやればそれほど考える必要はねーんだが、うちはオレ一人でやってるので考えてやらんとならんのだ。
まあ、結界術を使えば簡単なんだが、それだと技術が身に付かねー。将来、子供ができたときや下に教えるとき、へっぴり腰では情けねーってもんだろう。威厳は一日にして成らず、だ。
「倒れるぞ~~!」
周りに人はいねーんだが、オレは形を大切にする男なのだ。
ズシーン! と、高さ三十メートルもの大木が狙った場所に倒れた。
埃が落ちるのを待ち、斧から鉈に切り替える。
切り口の方から大木に上がり、枝を払っていく。
「ほいさ、あいさ、ほいさ、あいさ、ほいさ、あいさとほほいのほ~い」
簡単に伐っているように聞こえるかもしんねーが、陽を求めてあちらこちらに伸びた枝を伐るってのはなかなか骨がおれるもんだ。
倒れた大木の上も不安定だし、伐る際の力の踏ん張りが悪けりゃ転げ落ちるし、枝が目に入ったりと意外に危険性を帯びているのだ。
「ふ~っ。一休みするか」
半分くらい枝払いしたところで休憩する。
陽がそんなに当たらんとは言え、動けば汗が出るし、スタミナも減る。適度な休憩と水分補給。あとちょっとした塩分と糖分をクッキーで摂取する。ほんと、熱中症には要注意だぜ。
手頃な枝に腰かけ、竹の水筒から冷たい水を飲んでいると、視界になにか妙なものが映った。
「ん? なんだ?」
はっきりと認識したわけじゃねーからなにが妙かは説明できんのだが、伐り場ではまず見れないものだけはわかった。
……いやまあ、最近あり得ないものばかり見てますけどね……。
一度深呼吸してから妙なものを見る。
この場所から約三十メートル先に樹齢二十年くらいの若木──ボウラの木が見える。
この山では珍しくもない雑木の一種、杉に似て真っ直ぐ伸びてくれるので丸太小屋を造るには重宝している木である。
が、灰色のモコモコが生えるような木では断じてはない。
「…………」
なんぞやと見詰めていると、モコモコが動いた。
……は? 生き物、だと……。
風に揺れたわけじゃない。モコモコが自らの意思で動いた感じだった。
更に見詰めていると、モコモコが横へ、木から出てきた。
「…………」
「…………」
モコモコと目が合う。
ど、どう、表現してイイかわかんねーが、モコモコの着ぐるみを着たサプルくらいの女の子だった。
……〇グモン……?
ざっぱに言ったらそんな感じだ。
「…………」
「…………」
どうしてイイかわらず、見詰め合いが続く──と、きゃるきゅると言う可愛い音が耳に届いた。
何気なくポケットからクッキーを取り出し、口に放り込む。
モグモグと咀嚼すると、モコモコガールがツバゴックン。
そんなモコモコガールを見詰めたままもう一枚取り出して口に放り込む。
モコモコガールが完全に木の陰から出てきた。
更にポケットからクッキーを取り出し、半分だけかじり、残りをモコモコガールに差し出した。食うか? ってな感じで。
モコモコガールは躊躇するが、胃袋は正直なようで食べようときゃるきゅる訴えている。
慌てず騒がずクッキーを取り出しまま待つ。クッキーの誘惑か、オレが危険じゃないと判断したかはわからんが、ちょっとずつ近づいてくる。
やがてクッキーまで近づいてきたモコモコガールは、恐る恐るクッキーに手を伸ばし、つかんだと思ったら光の速さでクッキーに食らいついた。
元々カントリー〇ムくらいの大きさなので二秒と掛からず飲み込んでしまった。
なんとも寂しそうな目をするなと眺めていたらモコモコガールがオレを見る。きゃるきゅると腹を泣かしながら。
表情を変えずポケットからクッキーを取り出し──たら奪われてしまった。
なんかやっちまった感があるが、まあ、男の娘や汚物より何倍もマシだ。
こーゆーファンタジーならドンとこいだ。
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