第132話 今世は出会いに満ちている
まあなんだ。これと言った考えもないので枝払いを再開しますか。
モコモコガールは、干しラムノを幸せそうな顔で食っててこちらはアウト・オブ・眼中のようだしな。
野生の動物ではなく、知性のある獣人のようだから満腹になれば帰って行くだろう。なんて考えながら枝を払っていく。
始めれば集中するのがオレなので、だいたい払い終わる頃には昼近くになっていた。
ふ~。イイ汗かいたぜ。
まあ、大物を狙ったので時間を食ったが、昼前に終わったのだから上出来だろう。
ポケットからタオルを出して汗を拭い、一息つく。
そこでモコモコガールのことを思い出し、さっきいた場所に行ってみる。と、モコモコガールが幸せな顔して眠っていた。
「呑気なガールだ」
全身を覆うモコモコ──つーか、顔だけ見れば人だが、ここまで無警戒な獣人も珍しいもんだぜ……。
「……さて、どうしたもんだか……」
人の何倍もタフで丈夫な獣人だからほっといてもイイんだが、この幸せそうな顔を見たら動くに動けんだろう。やっちまったら外道もイイとこだ。
昼は山小屋で、が樵衆の暗黙の決まりだが、今日は止めておくか。『夢中になったらどこまでも』なオレの性格を知ってるのは家族だけじゃねーし、心配なら誰か見にくんだろうよ。
「しゃーねーな」
モコモコガールの横に腰を下ろし、まずは水を一杯飲んで落ち着く。
土魔法で竈を、そして、その上に鉄鍋を創る。
そこに水を注ぎ入れ、豚鍋セット(オークの肉な)を放り込む。
まあ、いつもなら完成品を頂くところなんだが、モコモコガールがいつ起きるかわからんし、時間を潰すには煮るがちょうどイイだろう。
集めた枯れ枝に魔術で火を着け、火加減を調整しながら煮立つのを待つ。
ぐつぐつ煮立つ鍋を見詰めていると、きゅるきゅると言う音が耳に届いた。
ん? と音がした方に視線を向けると、モコモコガールが鍋を凝視していた。
オレの視線に気が付いたのか、モコモコガールがこちらを見る。そして、マンガみたいにヨダレを滝のように流した……。
「……もうちょっと待ってろ。あと少しでできるから」
コクンと頷くモコモコガール。どうやらこの地域の言葉はわかるよーだ。
「そー言やぁお前、肉は食べられんのか?」
見た感じ草食系のよーだが。
コクンと頷くモコモコガール。意外と肉食系?
イイ感じに豚鍋ができ、土魔法で創った深皿に盛って渡した。
「熱いから気をつけろよ」
コクンと頷き、木のスプーンを器用に使ってフーフーしながら食べ始めた。
苦笑いを浮かべ、オレも自分の皿に盛り、はふはふしながら食した。
半分ほど食った頃、なにやら強い魔力が近づいてくるのを感じた。それも一つや二つじゃない。最低でも十はあった。
嫌な感じはしないが、念のために結界を張っとくか。
気づかないフリをしながら魔力を感知に集中する。
音や気配を感じさせないところを見ると、かなり山歩きに長けたモンのよーだ。
完全に囲まれたが、それでも表情は変えず、モコモコガールのお代わりに応えてやり、自分も食べるのを続ける。
やがて鍋が空になり、満足したモコモコガールはまた眠りに着いてしまった。
ヤレヤレと肩を竦め、鍋をどかしてポットを創り、冷めたコーヒー(モドキ)を注ぎ入れ、イイ感じに温める。
「ん~〇ンダム」
カップに注ぎ入れ、その薫りに一言。もはやオレの作法である。
しばしコーヒー(モドキ)を楽しむ。と、なんの気配もなく、ただし、魔力は全開にしながらモコモコダンディが現れた。
……なんつーか、顔はダンディなのに、姿はモコモコって、なんかスゲーシュールだな……。
「なんか用かい?」
なかなか口を開こうとしないのでこちらから尋ねた。
「……その子を返してもらおうか」
「あんたがこいつの親だって言うなら勝手に連れてけばイイさ。だが、こいつに危害を加えよーってんなら渡せねーな」
見た目はガールと同じモコモコだが、だからと言って親や仲間とは限らない。同族を絶対に殺さねーなんて言う種族はいねーんだからな。
オレを囲む魔力が高まるが、オレは目の前にいるモコモコダンディから目を放さないし、動きもしない。
「……わたしは、シェラダ族の長、イーブル。娘の名はアリザ。五日前、オークの群れに襲われ、散々になってしまった。娘を保護し、食べ物を与えてくれたことに感謝する」
なかなか冷静で、状況を読めるばかりか異種族相手に頭を下げれるとは。想像以上に賢い種族のよーだ。
「オレの気まぐれ。気にすんなだ」
立ち上がり、モコモコガールから距離を取る。こちらに害意はないことを示すために。
木々の間からモコモコクールガイが音も気配もなく現れ、すやすや眠るモコモコガールを抱き上げ、やはり音も気配もなく木々の間に消えて行った。
「……我々は故郷を追われた身ゆえ、礼のしようもない」
「気にすんなって言ったろ。それと、この近くに村の山側、その端に店がある。そこは種族は選ばねーし、物々交換もしてくれる。もし、山で採れたものがあるなら行ってみるとイイ。あ、やってんのは午後からな。で、べーから紹介されたって言えば相談にも乗ってくれもする。まあ、機会があれば、だがな」
まあ、あんちゃんのために宣伝しておくか。
「……感謝する……」
そう言ってモコモコダンディが視界から消え、オレを囲んでいた魔力も遠ざかって行った。
しばらくその場に居続けた後、竈の前に戻り〇ンダムタイムを再開した。
……ほんと、今世は出会いに満ちてんな……。
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