第125話 ウッキッキッー!

 ──捕虜。


 オレ的脳内辞書によれば、戦争で降参して捕まったり、捕らえられたものと、書かれている。


 まあ、捕虜の正しい意味や現世の言葉にも精通している訳じゃねーから曖昧なのは仕方がねー。


 だが、今回のことは戦争と言うよりは強盗に襲われたと言った方がしっくり来る。


「なあ、ウルさんよ。帝国とこの国って、捕虜の取り決めとかあんのか?」


「ありませんが、暗黙の了解程度にはあります。まあ、帝国が了解しているとは聞いたことはありませんが」


 この時代ではある方がおかしいか。暗黙の了解があるだけでもマシだな。いや、ウルさんの言い方では帝国は守ってねーな。


「ちなみに港って、ハルヤール将軍が属する国に入ってるのか? 正式な意味で」


 ハルヤール将軍の終の住み家としてやったもんだが、厳密に言えばアーベリアン王国の領土だ。一応、海もな。


「いえ、港内はベーさまから借りていると将軍が言ってましたし、我々からしたら陸地扱いなので領土とは見てません。国の上層部にも報告はしておりませんので我々の領土は港の外からとなっております」


 まあ、ハルヤール将軍の性格から言ってそうだろうな。立場的にも友人的にも、な。


「つーことは、だ。捕虜の扱いをしろってのはお門違いってことだよな?」


 前世ならうちに入ってきた強盗に人権は与えられるが、この世界(時代)では強盗や盗賊に人権なんてねー。その場で殺したところで罪にはならんし、逆に殺されても運が悪かったと嘆かれて終わり。なんとも世知辛い現世(時代)である。


「はい。その通りです」


 つまり、人魚の世界でも同じってことだな。


「で、ウルさんはどうしたいわけ?」


「どうしたい、と言う訳ではなく、どうしたら良いのでしょうとお聞きしたいのです」


「つまり、このまま捕まえて置くのも殺すのも厄介。戦争の口実を与える、ってことかい?」


 黙って頷くウルさん。


「オレとしてはハルヤール将軍が無事なら帝国が亡びようとこの国が亡びようと関係ねーが、ハルヤール将軍の立場を悪くしたはくねー。が、こちらを殺しにきたアホを許してやるほどオレの心は広くはねー。やられたらやり返す。それもお土産付きでがオレの主義だ」


 よく自分を殺しにきたものを殺さねーのは甘いと言うが、オレからしたら単純バカの考えなしだ。殺すなんてもったいねーし、再利用を考えろよ。せっかく手に入れた人手(実験体)だろう。死ぬそのときまで使い果たせ。人権うんぬんを騒ぐヤツもいねーんだからよ。


「んじゃまあ、そのアホの顔を見にいくか」


 ってことで牢屋へと移動。結界に包まれた魚くんを見下ろした。


 ……なんだろうな。子どもの頃(前世でね)飼っていた金魚を思い出すぜ……。


「とは言え、目の保養にもなんねーな」


 ウルさんみたいなお胸さまが家の水槽で泳いでいてくれたらほっこりすること間違いなしなんだが、萌え要素のねー魚くんでは悪夢しか涌いてこねーよ……。


「えーと、魚くん。君、第六皇子なんだって?」


「我が名は、ババル・バン・バビウス。真帝ザイラザの子孫。誇り高きバビウスの一族なり。帝国の名と力に逆らう地上の猿よ、我を解放せよ!」


「あーごめん。言ってる意味、全然わかんねーわ。地上の猿なもんでよ。ウッキッキッー!」


 猿から進化した者としては別段、悪口でもない。それ以前に海の魚に言われても心に響かねーわ。


「ってまあ、魚くんがどこの誰でも構わんし、なにをしゃべろうがどうでもイイ。お前が選べるのは三つの未来だ。一つ。こちらの質問に答えてから死ね。二つ。なにもしゃべらず解放される。三つ。死ぬまでオレのために働く。好きなのを選べ」


 その選択肢に魚くんがキョトンとなる(雰囲気的にそう感じるだけね)。


 ウルさんを見ればなんとも不思議な生き物を見る目でオレを見ていた。やん。そんな目で見ないでっ。


「我はなにも語らん! すぐに解放しろ!」


 そのどうしようもねー思考力……とも呼べねー愚かさに考えるな、感じろ的思考力が働いた(なんだそれはの突っ込みはノーサンキューで)。


「ウルさん。このアホ魚の部下はどこに片付けた?」


「え? あ、人数が人数なので町の広場に集めてあります」


 との返しに直ぐに町の広場へと向かった。

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