第126話 やることいっぱい
「ベー!」
領主館を出ると、あんちゃんがいた。
「おう、あんちゃん。どうした?」
「どうしたかじゃねーよ! 一人にすんなよ! こえぇーだろうがっ!」
なんか涙目で叫んでいた。
「こっちも忙しいんだよ。好きにやってろよ」
自由自在に動き回れる結界に自動翻訳される首輪してんだからよ。
「こんな状況で見て回れるかよ! 戦争じゃねーか!」
「戦争くらい地上にもあんだろう。騒ぐことじゃねーよ」
「いや、騒ぐところだわ! なに当たり前に言ってんだよ!」
「まったくです」
なぜかウルさんがあんちゃんの味方。なぜに?
「世は弱肉強食。戦争なんて日常茶飯事。敵は直ぐそこにいる。わかってんなら備えろ。そして、強くなれ。それを心掛けていれば騒ぐ必要もねー。これこの通り港は無事だろうが」
こんな危険な世界(時代)に生まれたのだ、備えるのも当然だし、最悪を想定して当たり前。大切なものを守りたいのなら強く賢く逞しく、だ。
「まあイイ。あんちゃんは人魚と商売すんだから友好関係を広げるなり文化を知るなりしてろ。相手を知ってこその共存共栄だ」
言って港の外にある広場へと向かう。
ヘキサゴン結界はまだ発動していると言うことは、まだ住民登録してないものが侵入しようとしているかわからずに触れたと言うこと。まあ、イカ娘ちゃんらの仲間(間者)がいんだろう。
触ったのなら後にしても問題ねぇ。今は捕まえたヤツらだ。
町にある広場は、市が開くためのものらしく、野球場くらいの広さがあった。
人魚が市? と首を傾げる者もいるだろうが、人魚だって食いもすれば服(海の中にも毛を生やす生き物もいれば皮加工する技術もあるんだよ)も着る。地上と同じく商人もいれば狩人もいる。農民だって職人だっているのだ。
その広場には捕まえた魚くんらが積み重ねるように置かれていた。
球型に取っ手付きなので持ち運び簡単。兵士さんたちに優しい創りとなっております。
なんてことはどうでもイイ。見張りの兵士に手伝ってもらい、階級(帝国には階級章があるそーだ)ごとに分けてもらう。
それらを一つ一つ見ていく。
魚人の顔の判別なんてできねーし、顔色もわかんねー。が、目の色(目力か?)はわかる。
他が俯いている中、一人(魚)だけ前を向き、オレを睨んでいた。
「ハイ、一人確保」
ほんと、わかりやすくて助かるわ。
結界の取っ手をつかみ、集団から離す。
「ベーさま、これは?」
きてたのかウルさんが離した魚人を指差した。
「第六皇子の副官かそれに準ずる立場のモンだ」
「はぁ? え? あ、え、こ、根拠は、なんですか?」
「考えるな、感じろ的なもんだ」
「…………」
ウルさんのジト目、なんか萌える。ハルヤール将軍にも見せてーな。
「まあ、あのアホにこれだけの数を率いれる能力があると思うか? 他に誰か率いてるか副官に丸投げしてるかのどちらかと考えるのが自然だろう」
「……た、確かに……」
「なんでこいつは勇敢に戦い戦死な」
見張りの兵士に言って港の牢屋に運んでもらう。
「さて。次だ」
「次? 次とは?」
「ポセ──じゃなく、海獣を操る者やイカ娘ちゃんらを纏める者か指揮者、監視役、軍師、切り札などなど。他国の奥、それも辺境にこれだけの戦力を送り込んできたんだ、最高戦力が集められたって不思議じゃねーだろう」
まあ、港の外にもいたから全てとは言わねーが、捜して損はねー。
また一つ一つ見ていくと、階級章のない平兵士の集まりの中に、魔力の濃いヤツがいた。
イカ娘ちゃんらと同じように下半身はイカだが、イカ娘ちゃんらとは違い目に生気がある。が、兵士のような気配は感じねー。なにか病弱と言うか、体の線が他より細い。まるで魔術師のようだ。
「……こいつだな……」
これと言った確証はねーが、考えるな、感じろ的センサーはこいつがポセイドンを操る者だと判断した。
と言うのは冗談で、結界が魔力阻害の力を発動している。これはポセイドンから感じた魔力に似てるのだ。
「ウルさん。こいつも戦死で頼む。あと、こいつはオレがもらうな」
「……あ、あの、この者はいったい……?」
「海獣を操る者だ。まあ、そのうちの一人かどうかはわかんねーし、なぜ港にいるかは謎だがな」
魔力阻害が働いてる港内に入る意味がわかんねーが、まあ、それは後で聞けばイイさ。
また兵士に言って港の牢屋に運んでもらい、検分を続けるが、考えるな、感じろ的センサーに引っかかる者はいなかった。
「……やはり外にいたのか……?」
まあ、それならそれでしょがねーか。そう都合よくいてくれねーしな。これで納得しておこう。
「ウルさん。しばらくしたらオレは帰るから尋問とかよろしくな。素直にしゃべるヤツには厚待遇を。そうじゃねーヤツには適当に。あと無駄に殺すなよ。後で使うからよ。まあ、その辺は任せるからよ」
「わかりました。あ、次はいつお越しで?」
「ん~~そうだな、三日後か四日後かな? まあ、あんちゃんは毎日くるから用があればあんちゃんに言ってくれ。可能な限りくっからよ」
エリナとこに行かんとならんし、木を伐らんとならない。それに、そろそろ毛長羊の毛刈りをせんとならん。ほんと、やることいっぱいだぜ。
「んじゃな」
片手をあげ、港へと戻った。
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