第123話 やりたいようにやれ
久しぶりに港の外に出た。
あ、いや、正確に言えば海面下に出るのは久しぶりってことだ。
海面上なら船釣りや岩礁帯での貝獲りで何度も出てるし、夏になれば海遊びもしている。
海面下には町ができたとは聞いてはいたが、海面下にきたのは一年半ぶりだろうか。その時間で海面下は見違えるほど変わっていた。
前にきときは、魚介類の宝庫と言った感じの岩やら珊瑚やらが見て取れたのに、今では人魚たちの家やら珊瑚や大貝を使った建造物が造られていた。
人魚も国や地域、部族により住む家はまちまちだが、この国の一般人(魚)は岩をくり貫いた場所に住み、力があるものは珊瑚やら大貝を使った家に住んでいるとか。
人魚も常に海の中にいると言う訳じゃなく、水魔法で空気のある場所を作ったり、日光浴したりするイキモンである。
「……多少は壊れてんな……」
岩をくり貫いた一般住宅は、頑丈なので被害は見て取れないが、高級住宅は完全に崩壊していた。
まあ、ポセイドンの体格からしたら無理ないか。むしろ、略奪した形跡がないのが不思議だな。
人魚の価値観はいまいちわからんのでスルーするが、無差別殺人(魚)や強姦(いやまあ、人魚、哺乳類じゃねーけどよ)が見て取れない。
人魚は逃げ足(?)が速いし、逃げ口を作る習性があるのでそう簡単に殺されんだろうが、まったく見えないってのも不思議でたまんねーよ。
辺りを見回していると、港に逃げていた住民が出てきて、我が家に戻っていった。
……人もそうだが、繁栄する種族と言うのは逞しいもんだな……。
そうこうするうちに沖合いに逃げていた人魚も戻ってきて後片付けを始めた。
「……うん?」
ぼんやりと町を眺めていたら、誰かの声が耳に届いた。
辺りを見回すが、誰もいない。住民たちは忙しく動き──じゃなくて泳ぎ回っている。こちらを見る者はいるが、こちらに寄ってくる強者はいない。
「……誰だ? いったい?」
『……しいもの……小さいもの……』
声が下から聞こえてきた。
は? え? もしかして、この声、こいつか!?
「……お前がしゃべってんのか……?」
びっ、びっくらこいた。こいつ、言葉を知って──いや、自動翻訳の首輪の力か……。
人魚は魔術より魔法に特化した種族であり、まさにお伽噺に出てきそうな魔法を使うのだ。
この自動翻訳の魔法も人魚どころか魚人やエルフの言葉まで自動に翻訳してくれる。まさに魔法としか言い様がない力なのだ。
『小さいもの。我を解放してくれ』
しっかりとした言葉にすぐに反応できない。こいつ、想像以上に賢いイキモンじゃねーかよ?!
「……お前、あ、オレはベーだ。お前、名前はあるのか?」
『名はない。我々には☆○★●◎◇だ」
なにやら翻訳できない言葉があったようだが、まあ、そこは考えるな、感じろ的なもんがあんだろう。
「じゃあお前、ポセイドンな。呼び名がねーと会話がしづれーからな」
あんちゃんに聞かれたら『じゃあ、名前を言えよ!』と突っ込みがきそうだが、海獣とかじゃ言い難いんだよ。
「まあなんだ。解放してくれって言うなら解放しねーでもねぇが、その後はどーすんだ? ここで暴れんのか?」
『暴れはしない。我は仲間を助けに戻りたい』
「仲間を助けに? って、仲間が帝国に捕まってんのか?」
『ああ。我々はあいつらに使われている。我々は自由になりたい。解放を、頼む』
見た目はアレだが、結構理知的なイキモンなんだな。
「わかったよ。解放してやるよ」
右足でポセイドンの頭を叩き、ヘキサゴン結界──と言うか、従属を切る。
『……すまない。小さいもの……いや、ベーよ……』
「気にすんな。でも、帝国に行って大丈夫なんか? お前を使うくらいだからなんかの魔法なり魔術なりあんだろう?」
『あるが、いかねばならん。同胞を救う』
ふ~ん。なかなか情熱的な心を持ってんだな、こいつ。
またポセイドンの頭を叩き、魔法阻害の力をつけ加えた。
「ポセイドンの体に魔法を効き難くする力を纏わせた。まあ、相手の力がわからんからはっきりとは言えんが、無理と判断したら逃げろよ。もっと強いものを纏わせてやっからよ」
言ってポセイドンの頭から飛び下りた。
『……感謝する。ベー……』
ヘビのような下半身をタコのように使い、沖合いへと去っていく。
姿が見えなくなるまで見送り、ため息一つ。
「我ながら甘いな、オレは……」
でもまあ、それがオレだ。やりたいようにやれ、だ。
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