第122話 面倒なことはお任せします

「──あんちゃん待たせたな」


 海から出ると、あんちゃんが突然、地面に腰を下ろした?


「どうしたんだ、いったい?」


 ポセイドンに頭から下ろしてもらい、港に降り立った。


「あんちゃん?」


 なにやら口をパクパクさせて、オレを指差している。


 なんか後ろにいんのかと振り返ればポセイドンがいるだけ。別に変なもんはいねーぞ。


「いるわボケッ!!」


 なにやらオレの心の声を聞いたかのような突っ込みをするあんちゃん。冗談だよ。


「冗談じゃねーよ、こん畜生がっ! 腰抜かしたわっ!」


「アハハ。あんちゃんの突っ込みマジサイコー。商人より道化師の方が向いてんじゃねーか?」


 その突っ込み、商人にはもったいねぇぞ。


「……こ、この、クソガギがぁっ……」


「ワリーワリー。ちょっとした子供のイタズラだよ。怒んなよ」


「イタズラじゃなく嫌がらせだわ、アホが!」


「ハイハイ。そー怒んな。あんちゃんがこれから商売すっとこは、こんなのがいんだ。今から恐れてたんじゃやってけねーぞ」


 地上と海の中ではまるでイキモンの質が違う。まあ、まだ人魚なら理解し合える余地はあるが、先程の魚くんらと理解し合えるなんて夢物語の域だ。


 将来はわかんねーが、少なくてもオレらが生きている間にわかり合えるなんてことはねーだろう。あまりにも種が違い過ぎる。


「けどまあ、この港にいる間は大丈夫だし、あんちゃんにやった防御結界は、この海獣の攻撃も防ぐ。だからそう恐れんな。それとも尻尾巻いて帰るか?」


 そうおちょくるが、どんなにヘタレでもやるときはやる男。退かぬ。譲らぬ。突き進む。それがあんちゃんだ。


「帰らねーし、怖くはねー!」


 叫び、立ち上がった。フフ。頼もしいね~。


「よし。じゃあ、いくぞ」


 あんちゃんの腕をつかみ、海へと向けて歩き出す。


「え? いや、あの、心のじゅ──」


 あんちゃんのヘタレに構わず海の中へと飛び込んだ。


 突然のことに暴れるあんちゃんだが、ちゃんと海に潜れる結界を纏わしてあることは言ってある。今更泣き言など聞かん。


 海底に着地すると、ウルさんらが待っていた。


「ウルさん。ナルバールのおっちゃんはまだいるかい?」


「え、いえ、もういません。一度、店に戻るそうで、早くてもここにくるのは半月後かと」


 まあ、ナルバールのおっちゃんも人魚界(つーかこの国ではな)は大商人の分類に入り、一応貴族の階級らしい。なんで、そうそうここにはこれんらしいよ。


「じゃあ、しゃーねーな。来るまで待つか」


 この時代じゃあ、陸も海も交通は不便。いや、まだ人魚の方が速いか。馬以上に速く泳ぐし、海竜船があるしな。


「あ、あの、ベーさま。いったいなにごとで……?」


「ああ、これな」


 パニクるあんちゃんの首根っこをつかみ、ウルさんに突き出す。


「そっちと通商を結んだつーから港をあんちゃんに任せることにした。まあ、海ん中はこれまで通り、ハルヤール将軍の持ちもんだ。管理はそっちに任すし、オレは口は出さねー。が、将来ここに船を着けるために入り口を大きくして灯台……はわかんねーか。まあ、沖合いにある島に塔を建ててやってくる船の誘導灯を光らせる。細かいことはハルヤール将軍がきてから詰めるが、街の上を船が通ることは理解しててくれ。あと、港には人間や人間じゃねーのもいれて街にする。いや、そうして行く。まだ空想の段階でしかねーし、考えが変わるかもしんねーから軽い気持ちで聞いてくれ」


 そこまで一気に話し、飲み込むまで待ってやる。


「……つまり、地上への道を開いてくれると?」


「いや、地上じゃなく地下だな」


「はあ、地下、ですか?」


「ああ。地下だ。港はあんちゃんに任すし、なにを取引しようがオレは関知しねーが、この国との繋がりは許可できねぇし、させねぇ。あくまでもあんちゃんと、オレが認めたモンに限らせてもらう。こっちにもいろいろ都合ってもんがあんでな」


 まだ頭ん中の計画でしかねー。いろいろ詰めなくちゃならんし、下準備をせんといかん。やることいっぱい。問題山積み。先が不安でしかねーよ。


「なんで、港の問題や関係事はあんちゃんと決めてくれ。こちらに不利にならんことなら協力すっからよ」


 言ってあんちゃんをウルさんに渡した。


「オレはちょっと沖合いを見回ってくっからよ」


 なにもオレが代表って訳じゃねー。任せるところは任せるし、面倒もやりたいヤツに見てもらう。


 何度も言うがオレは村人。領主でもなけりゃ開拓団のリーダーでもねー。たんなる協力者の一人。やれるときにやるまでだ。


「ポセイドン、ゴー!」

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