第121話 僕(しもべ)に命令だ。

「はい、捕縛終~了っと。ふ~。疲れた……」


 すばしっこく逃げるイカ娘ちゃんに手間取ったが、なんとか港にいる魚くんらを捕縛できた。


「まったく、どこから入ってきたもんだか」


 まあ、自然の洞窟を改造したからな、いろんなところに穴が開いてんだろうが、よく見つけたもんだ。さすが魚くん、いや、イカ娘ちゃんの力かな?


「……身も蓋もありませんね……」


 見ていたのか、ウルさんが出てきて最初のセリフがそれだった。


「だから村人になに求めてんだよ」


 あんちゃんと言い、ウルさんと言い、そんなにオレの戦いが見たいのか? 無茶ぶりにも程があんぞ。


「それで、この者らをどうするので?」


「そーだな。なんか見た目的に食えそうもねーし、違うことに有効利用するか」


 前世が日本人で魚を食ってきた民族ではあるが、さすがに魚人を食うには勇気がいる。まあ、普通に食える魚は何百種類といるんだ、わざわざ魚人を食うこともねーだろう。


「いえ、あの、地上の方は、そう言う目で我々を見ているのですか……」


「海と違って地上は食い物が少ねーし、気候次第で簡単に飢餓になる。だから食えるもんは食う。旨いもんに差別はしねー。この世の恵みに感謝を籠めて、いただきますだ」


「……あ、あの、意味がさっぱりわからないのですが……」


「まあ、わかんねーならそれでイイよ。わかってくれるヤツがいねーのは諦めてっからよ」


 前世の名残のようなもの。クセです。流してください。


「あとで使うから邪魔にならねーとこに置いててくれ。あ、偉そうなのは館の地下牢に頼むわ。聞きてえこともあるしな」


「わかりました」


 頷くと、背後にいた常駐兵に命令を飛ばした。


 ここにいる兵はハルヤール将軍の配下だが、引退した老兵がほとんど。なんで戦闘能力はねーが、海のイキモンなだけあって老化(どんなに老けたヤツでも三十代にしか見えん)と言うもんがなく、力は人より三倍くらい強いのだ。


 元々ハルヤール将軍の家に仕えてきて、ハルヤール将軍に選ばれただけはあって、ウルさんの指示に素早く動いた。


「さて。あとは港の外にいる海獣と魚くんか」


「まさか、海獣バッカルまで捕まえる気ですか!?」


「そのままにはしておけんだろう。港の外に町があんだからよ」


 勝手に住んでるヤツらを救ってやる義理はねーが、将来あんちゃんの金づ……じゃなく客になる人(魚)たち。安全な場所だと知らせておかねばならんでしょう。


 それに、まだあんちゃんには言ってねーが、港の外に海中牧場を造る計画している。まあ、まだ構想の段階だが、将来のために食料を確保しておきたいのだ。


「しかし、海獣バッカルは、帝国の最終兵器と呼ばれているもの。いくらベーさまでも無謀過ぎます!」


「確かに、あのデカさに策もなく突っ込むのは危険だな」


 洞窟の入り口が縦横二十メートルくらいで海獣の全貌は見れねーが、最低でも五十メートルはあんだろう。まさに海獣である。


「けどまあ、ここはハルヤール将軍の安全に過ごせるために造った館であり、襲撃を防ぐための結界だ。想定内のことだよ」


 海獣だろうと海竜だろうと問題はねーし、怖くもねー。我が結界術に死角なし──なんつてね~。この世に絶対はねーし、結界をものともしねー力はある。油断は禁物だ。


「……にしてもグロい海獣だな……」


 結界の前に立ち、結界を破壊しようとする海獣を見上げる。


 入り口だけじゃなく左右の岩壁にも結界を張っているから衝撃だけじゃなく音も通さないが、あの太い腕で叩かれたら会長さんの魔道船でも一撃で沈むな。


「下半身はタコかな? いや、なんかえげつない口があんな? ヘビな下半身に山嵐のような上半身に触手な舌? 意味わからんイキモンだな……」


 海竜にはロマンを感じたもんだが、海獣には嫌悪しか湧いてこねーな。


「でもまあ、生命力は海竜以上に持ってそうだな」


 エリナにやれば相当な魔力を得られ、結構早い段階で計画に移れそうだ。ナイスタイミング~。


「ん~。下半身のヘビの多さや体のデカさから言って入り口の結界だけじゃ足りんかな~?」


 入り口のヘキサゴン結界は、防御、捕獲、従属の三つの能力を設定してある。まあ、美丈夫なオーガにやったのと同じものだな。


「もうちょっと出しておくか」


 A4サイズくらいのヘキサゴン結界を能力限界範囲内に重ねて出現させる。


 半径三十メートル内と言う縛りはあるため、操れる範囲は狭いが、それはやりかた次第でなんとでもなる。


「防御解除。捕獲開始」


 範囲内に入ってる入り口のヘキサゴン結界が柔くなり、海獣の腕がこちらに向かってくるが、ビニールのように柔くなったヘキサゴン結界がその腕を包み込んでいく。


 連結化しているのでヘキサゴン結界の一つが柔かくなれば連結しているヘキサゴンにオレの命令が伝わり、次々に柔かくなり、そして、海獣を包み込んでいく。


 今生み出したヘキサゴン結界も操り、不足を補いつつ入り口の防御に回す。


 デカさがデカさなので包み込むまで時間を要したが、捕獲には成功できた。


 入り口のヘキサゴン結界を通り抜け、動けぬ海獣のヘビの下半身、山嵐な上半身を登り、イボイボな頭に到達する。


 結構綺麗な海で透明度があるのでしっかりと下が見渡せる。


「いつか巨人を操り『ベー、行きまーす!』をやりたかったんだが、まあ、今は『三つの僕しもべに命令だ』、でガマンしとくか」


 まあ、残り二つの僕はいねーけどよ。今度、エリナにでも頼んでみるか。


「いけ、ポセイドン。捕まえろ!」


 連結化していれば三十メートル内と言う縛りは関係ないのだよ。ヌハハハハ!

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