第120話 村人に求めんな

「ところでウルさんよ。ここに立て籠ったってことは港の中にまで侵入されたってことか?」


 ここを造ったのは八割がた趣味だが、ハルヤール将軍が万が一国に追われたときのための最後の砦として終の棲家して造ってもある。


 だから凶悪な海竜が集団で攻めてきてもびくともしないし、備蓄はうちの保存庫並みに蓄えてある。だから侵入されたのが不可解でしかたがねーんだよ。


「はい。バレーラに侵入され、少なくない被害を出しました」


「バレーラ?」


「ベーさまにわかるように言えばイカの足を持つ魚人です。帝国の戦闘奴隷で、侵入や暗殺を得意とする種族です」


「ふ~ん。フナムシみてーなもんか」


 あいつらも結界で封じたにも関わらず通路まで侵入してくるからな。マジ、どうやって侵入してくんだよ?


「一度、本格的に港の改造せんとな……」


 造りに妥協はしてねーが、あるものを思いのままに、あれやこれやと盛ったから穴がどうしても生まれる。やっぱ基礎からやり直すしかねーな。


「んで、襲ってきた数はわかるかい?」


 領主館には窓(結界補強してます)があるし、港の入り口までは見通せる造りにしたし、オレのテリトリーにしてある。増築や破壊は困難。隠れることは更に困難だ。


「港に侵入されたのは帝国兵五十名前後。バレーラは十名を確認しております。外には、海獣バッカル。町にいた者の証言では更に百人の兵がいるとのことです」


「つーことは、補給部隊もいるってことか。こんな辺境に随分な数を投入したな」


「ベーさまからいただいたものがものですから。帝国としてはなにがなんでも排除したいと考えたとしても私は驚きません」


 オレにはさっぱりわからんね。


「まあ、ちと数は多いが、なんとかなんだろう」


 結界有効範囲は半径三十メートル。港の広さはだいたい野球場くらい。だからそう苦戦はせんだろうよ。


「ベーさま! いくらベーさまでも一人では危険です!」


「で、ハルヤール将軍がくるまで立て籠るのか? それはいつだ? ちゃんと兵を引き連れてきてくれんのか? その間、ウルさんはここを維持できんのか? 言っとくが、オレは付き合ってられねーぞ」


 オレが大切に思うのはハルヤール将軍の身。他はしょうがねーで切り捨てられるぞ。


「……………」


 ウルさんもそれはわかってるだろう。ハルヤール将軍は危険と判断したらここを放棄しろと命令してんだから。そのために兵は常駐させてるし警戒させてある。それを活かさず無視して立て籠ったのだ、責任はウルさんにある。


「まあ、自分の作品を壊そうとするアホには死ぬほど後悔させてやりてーからな、オレの勝手でやらせてもらうよ」


 執着はねーが、やはり自分の作品を壊されんのはおもしろくねー。ましてや人を殺そうとしたアホに落とし前をせんと気が晴れんわ!


「村人ナメんなよ」


 堂々と正面扉から出ると、金属の鎧(たぶん魔法的なものが施されてるんだろう。じゃなきゃ海の中では動き辛いわ)を纏った、一際迫力のある野郎(まさしく半魚人って言う見た目だ)が二股の槍を杖のように持っていた。


 ……異種族国家とは聞いていたが、兵も多種多様なモンがいんな……。


 着ている革鎧や槍は統一されているが、半魚野郎の後ろに控える兵はいろんな種族が見て取れた。


 スゲー威圧を感じるが、地上にもこんくらいのヤツはゴロゴロいる。まあ、感じからして美丈夫なオーガくらいかな?


「貴様がハルヤールに武器を提供している人間か!」


 翻訳の魔道具をしているとは言え、やっぱ半魚人の言葉がわかるって違和感バリバリあんな。いやまあ、人魚らと話していて今更なんだがよ……。


「盗賊に答える気はねーよ。メンドクセーから降参しろ」


 なにか激怒したよーだが、魚ヅラではいまいち……いや、さっぱり表情が読めんわ。


「栄えある帝国兵を盗賊呼ばわりするか、地上の猿ふぜいかっ!」


「そう言ってる時点でテメー三流以下。まんま魚だな。この世に完璧な生き物なんていねーし、他人の家に土足……はねーな。下半身どころか全身魚だしな。まあ、魚ならしょうがねーか。食うか泳ぐしかできねーしな」


「──地上の猿ふぜいがっ!! 」


 ほんと、海の中のヤツまで沸点が低いな。そんな思い付きな挑発に乗んなよな……。


 なんか最近これと同じ光景を見たよーな気がするが、思い出したいほど重要なものではない。なんで、


「捕縛」


 で、即終了。


 戦闘シーンを所望する方は、他の物語をお読みください。村人に求めんな。

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