第119話 海の中のお話

「──ベー!」


 あーはいはい。崩れ落ちてる場合じゃねーよな。


 まったく、剣と魔法の世界だつーのに、夢も希望もねー現世だぜ。


 よっこらせと立ち上がると……あ、なんだっけ、こいつら? 上半身は人で下半身はイカ。まあ、魚人なんだが、大きな分類での通称であって種族名は他にあるんだが……よー知らんわ。


 考えんのもメンドクセーから見た目でいっか。


「じゃあお前ら、イカ娘な。はい、決定しました」


 拍手~とか求めるが、誰もしてくれなかった。


「ノリワリーな、イカ娘ちゃんたちよ」


 なんかの生き物の牙か爪で作ったナイフを抜いて襲い掛かってきた。


 いやまあ、緊迫した状況なのはわかんだが、イカの足をうにゅうにゅさせながら近付いてくる光景ってのは、もはやギャグでしかねーな。


 水の中ならきっと速いんだろうが、地上ではゴブリンより遅い。なんつーか、憐れみしか湧いてこねーよ。ほんと……。


「捕縛」


 で、終~了~。


「……身も蓋もねーな、お前は……」


 村人になに求めんだよ。熱いバトルを所望ならねーちゃんらに付いてけ。もしくはエリナんとこにいけ。


 取り合えず、結界に封じたイカ娘ちゃんたちは放置で。いろいろやることあるしな。あ、でも邪魔だな。ここに店創るしな。


「んじゃまあ、端っこに置いとくか」


 なんか食っても不味そうだし、エリナに回すか。栄養はありそーだしな。


「あんちゃん。ウルさんに話通してくっからよ。荷物を倉庫に運んでてくれや」


「お、おい、一人にすんなよ! またあの変なのが出たらどーすんだよ?!」


「襲われても平気なよーに結界の腕輪してんだろう。死にはしねーよ」


 まあ、精神の方は責任持てんが、ここで商売するって決めたのなら覚悟しろ。そして、慣れろ、だ。


「……海からいくのはメンドーそうだし、非常口から行くか」


 なにやら洞窟に張ったヘキサゴン結界(A4サイズくらいのヘキサゴンを何千枚と洞窟の入り口に並べたもの)を叩く、イカだかタコだかの足が見える。


 海には海竜やら海神やらがいるから別段驚きはしねーし、ヘキサゴン結界の強度は黒竜の衝突(激突とも言う)にも耐えた。我ながら結界スゲーだな。


 右足で地面を叩く──と、足元の岩盤が消失。そのまま自由落下する。


 別に砕いた訳じゃなく、土魔法で穴を創ったまで。まあ、オレだけが使える非常口なんよ。


 着地(着水)した場所は、ハルヤール将軍の寝室──なんだが、なにやらお客さんが大勢いた。


「なんだってんだ、いったい?」


 突然落ちて(沈んで)きたオレにびっくりする人魚さんたちに構わず寝室を出る。


 廊下にも人魚たちが溢れ、さながら野戦病院と化していた。


「──ベーさま!?」


 と、前方からウルさんが駆けて──じゃなく、泳いでくる。


「おう、ウルさん。どったの?」


「ベーさま!」


 と、泳ぐスピードを殺さぬままオレへと激突(いやもうこれ胸に飛び込んできたって威力じゃないからね。オレじゃなかったら壁に激突して圧死だからね)してきた。


「……いったいどうしたってんだよ? 泣いてちゃわからんだろうが」


 地上だったら〇〇の感触を堪能しているところだが、結界を纏っている現状としてはなんもおもしろみもねー。それ以前に人魚って結構固くて柔らかくはねー。マジ、夢も希望もねー。


「……て、帝国が攻めてきたんです……」


「帝国? って、ガルザス帝国か?」


 人魚界に数ある国の中で最大勢力を誇り、天下統一に一番近い国と呼ばれているとかいないとか。興味ねーんでよー知らん。


「……はい……」


「でも、ガルザス帝国って、ここと反対側だろう? なんで、こんな辺鄙なところに攻めてくんだ?」


 距離的にも離れてるし、こんな辺鄙な場所に戦略価値はねー。人魚が欲しがる資源もねーしな。


「……まったく、ベーさまらしいセリフです……」


 なにやら泣きそうなウルさんがいつのまにか苦笑していた。


 それで気持ちが切り替わったのか、いつものインテリジェンススマイル(なにそれとは聞かないで)を見せた。


「ここは我が国の重要拠点にして最大の武器庫。ベーさまがいてくれるからこそ、小国である我が国は大国に飲み込まれず、それどころか対等に渡り合っています。この意味がわかりますか?」


「さっぱりわかりません」


 いや、わかっているが、それはハルヤール将軍の活躍があってこそ。オレは武器を供給しているに過ぎない。しかも、少量を、だ。


「ベーさまが与えてくれた武具は確かに少量です。ですが、一騎当千の能力を秘めている。ハルヤール将軍率いる百の軍勢が一万の敵を壊滅させました。敵国としたら我が国の力に疑問を抱くのは当然であり、間者を放つのも当然……」


 そこで口を閉じるウルさん。まるでオレの反応を待つかのように。


「……つまり?」


 ならばとオレは聞く。


「ベーさまの存在がバレました」


「ふ~ん」


 とのオレの反応に、キョトンとするウルさん。


「……驚きは、なしですか……?」


「ねーな」


 知られたからと言って地上まで攻めてくる魚人や人魚はいねーし、そもそも隠してはいねー。所詮、海の中のお話。地上人たるオレには関係ねーことだ。


 いざとなればここを封鎖して、ハルヤール将軍とは別の場所で会えばイイだけだしな。


「とは言え、事情が変わったしな、邪魔者にはさっさと退場してもらいますか」


 今後の計画上、ここはどーしても必要になるからな。

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