第118話 君に問う

「ったく。いつまでやってんだよ。皆待ってんぞ!」


 サプルの工房で悩むあんちゃんを怒鳴りつけた。


 なんだか続きのように感じるかもしれねーが、アレ(どれだよ! との突っ込みはノーサンキューで)から丸一日は過ぎている。


 朝の仕事を終え、朝食の時間になってもやってこねーあんちゃんを捜しに出れば、サプルの工房であーだこーだと悩むあんちゃんがいたのだ。


「なにも今日中に決めなくてもイイだろうが。これから何回も行き来すんだからよ」


「いや、そうなんだが、そうなんだけどよ……やっぱ、これだけの良品を見ると商人魂がこう、くるんだよ……」


 わかるだろう的な目で見られてもわかんねーよ。オレは村人。なんちゃって商人なんだからよ。


「持ってくもんはもう積んであんだ、今度にしろ。ほれ、朝食にするぞ」


 あんちゃんの襟首をつかみ、問答無用で連行する。


 皆で楽しくて美味しい朝食をいただき、渋るあんちゃんを引きずって保存庫へとやってきた。


 荷物は昨日のうち纏めてあるし、空飛ぶ結界台車に載せるなんてものの五分もかからない。


「んじゃいくぞ、あんちゃん」


「お、おう……」


 何度か乗せてるのに、まだ慣れないのかへっぴり腰で荷物にしがみつくあんちゃん。嫁さん連れてこなくて正解だな。こんな姿見せたら百年の恋も覚めるぜ。


 あんちゃんの嫁さんが人魚見たいと、いきたいとごねたが、初心者には海辺の生き物はキツいだろう。オレだって巨大フナムシとか初めて見たときは「キャー!」とか叫んじまったもんさ。


 港へと通じる壁を土魔法で解除する。


「あんちゃん。これから結界で塞ぐが、あんちゃんは通れるように設定しておく。だからいきたいときには勝手にいけな。あんちゃんちからもいけるようにしといたからさ」


「悪いな、手間かけさせて」


「そんな手間じゃねーよ。ただ、馬が怖がるからリヤカーでの移動になるがな」


 臆病な馬にはこの通路はキツいし、海辺の生き物に襲われる可能性もある。あんちゃんには身を守る道具(結界)を渡してあるので肉体的には平気だ。精神的にはわからんがな。


 通路を無言で進み、壁を解除、結界敷設を繰り返し、最後の壁を解除したとたん、なにか白いものが視界を遮った。


 なにがなんだかわからんが、これが初めてと言う訳でもなければ対策は万全にしてある。なので、結界に張りつくなにかに向けてパンチを一発お見舞いする。


 全力全開ではないが、馬くらいなら軽く吹き飛ばせる威力で殴ったので、結構遠く──てか、五十メートル先の海に落ちてしまった。


「……な、なんだ、今の……?」


「フナムシ、ではなかったな」


 肉体的には強くても五感は人並みなんで、なんだったのかはわからない。でも、白かったのはわかった。


 茫然と海を見詰めていたら、海面から女の顔が現れた。それも一つだけではなく、五つも現れた。


 顔だけで判断すれば、皆、十三、四。子と言うよりは娘と言う年齢層だ。


「……なんか、ヤバい目してんな……」


 生気ってもんは感じられねーが、なんか、スゲーヤバげな光を放っていた。


「……お、おい、ベー……」


「心配ねーよ。見た目がイイだけフナムシよりマシだ」


 あのインパクトある姿は軽く兵器だ。寝起きに間近で見たら即死する自信があるね!


 顔を見せる娘らが上半身を現せ、一人、また一人と港に上がって来る。


「…………」


 緊迫した状況なのはわかるが、なぜか地面に崩れ落ちるオレ。


「……いや、そうだけど、そうなんだけどよ、そりゃねーだろう。なんなの、この残念な展開。あんまりだぜ……」


 海から出てきたのは魚人族。人魚族の親戚みたいなもんで、珍しい存在ではない。いるってのはハルヤール将軍やウルさんからも聞いている。


 だが、実際に見たら残念、つーか理不尽? いやまあ、なんでもイイが、この世界の進化論に叫ばずにはいられない。


「ざけんじゃねーぞ、こん畜生がっ!!」


 と。


 ここで君に問う。


 上半身、人。


 下半身、イカ。


 性別、女。


 年齢、十三、四。


 これを一言で表現するならなんと言う?

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