第117話 人魚の趣味趣向よーわからん

「よし。完成だ」


 あんちゃんの──じゃなくてアバール邸がやっとのことできあがった。


 簡単な家なら一日あれば造れるんだが、店と病院と住む場所と馬車置き場と倉庫と……なんて造っていたら四日もかかってしまった。


「我ながらイイできだ」


 まあ、こんなド田舎には不似合いな洒落た造りだが、ここにくるヤツらなら理解してくれると思う。


 それに、アバール邸の横には小さな公園がある。つても、芝生にベンチがあるだけだが、お茶やおしゃべりを楽しむにはちょうどイイだろうよ。


「あ、ベーくん。完成したの?」


 家ん中を整えていたあんちゃんの嫁さん──じゃなくて、サラニラが自宅の正面玄関から出てきた。


 まあ、家は二日前にできていたので、引っ越し(持ってきた荷物は少ねーが、保存庫にしまってあった作り置きの家具やらなんやらを移してたのだ)をやっていたのだ。


「ああ。イイ看板ができたぜ」


 画竜点睛じゃねーが、商人として、医者としてやっていくのなら最後に名を刻まなければ締まらんだろう。


「アバール商会とサラニラ病院。まあ、なんのヒネリもねーが、まあ、シンプルイズベストだ」


「フフ。なんだかよくわからないけど、ありがとう。とっても気に入ったわ」


 そう言ってもらえると嬉しいよ。


「あんちゃんは?」


 朝は店の品出しをすると言ってたが。


「サプルちゃんと窯にいたわよ」


 窯に?


 疑問に思いながら我が家の裏にあるサプルの工房へといってみる。


 サプルの趣味は料理や魔術だけではなく陶芸やガラス細工も趣味で、暇があると工房で創作活動をしているのだ。


 ……まあ、オレの妹だけあって夢中になると歯止めが効かなくなるがな……。


「あんちゃんいるか~?」


「そこにいるよ~」


 色とりどりなビー玉を作っていた(今は魔術で)サプルが、端っこに積まれた陶器人形を食い入るように見ているあんちゃんを指差した。


「あんちゃん、そんなもんが人魚に売れるのか?」


 できはイイと思うが、完全なサプルの趣味であり、これと言ったテーマがある訳じゃねー。『アハハ、おもしろーい!』のノリでどこまでも作っちゃうのが我が一族。おそろしや。


「売れるに決まってんだろうが!」


 決まってんだ。人魚の趣味趣向はよーわからんな。


「んで、なに悩んでんだ? 売れんならなんでもイイじゃねーか」


 オレは売れる売れないなんて関係ねーから適当に並べてるぞ。


「バカ野郎! イイものを売るのが商売だ! 妥協できるかっ!」


 ハイハイ。商人さまは大変です。かんばっておくんなまし。


「サプル。店の品なくなったからそこら辺のものもらってくぞ」


「イイよ~」


 軽いやりとりをしながらそこら辺にある皿やカップやらを収納鞄に詰め込んで行く。


「あ、あんちゃん。保存庫の方も持ってってよ。もう置き場がないんだ」


「あいよ」


 港の倉庫、まだ余裕あったしな。あ、ついでに武具類も持ってくか。エリナに武具を作ってやらんとならんしな。置き場所確保せんと。


「あんちゃん。明日までには選んでおけよ」


 新居もできたし、店の品出し……はどーか知らんが、そろそれ港にいってウルさんと話をせんといかんし、あんちゃんの店も造らんといかん。


 なにより、エリナのとこにも行かんとならんし、やることあんだよ。


「まったく、忙しい毎日だぜ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る