第115話 誓書
「ありがとな、ベー」
披露宴も終わり片付けを女は女で、男は男にわかれて二次会の席を設けた。
つても、トータは食ったら眠くなったので寝室に運び、あんちゃんの弟は集落に下った。
なんでも集落の男衆に飲みに誘われたとかで、今後の付き合いを考えて参加することにしたんだとよ。
今後、お世話になるからオレも話したかったが、まあ、あんちゃんが隣に住むんだから話すチャンスはいくらでもあんだろうし、また今度にすっか。
「どういたしまして。喜んでもらえたらなによりだよ」
あんちゃんは終始照れくさそうにしてたが、嫁さんの方は相当嬉しかったよーで、最後まで、いや、二次会になっても笑顔を咲かせていた。
「嫁さん、親はいんのか?」
「いるにはいるが、勘当されて十年近くは会ってねえそうだ」
「フフ。貴族になり損ねたな」
「バカ言え。貴族なんかになりたくねーよ。おれは死ぬその日まで商人だ」
「おーおーカッコイイね~。さすがあんちゃんだ」
なにがさすがかはオレも知らんが、あんちゃんらしいセリフなのは間違いねー。
「ったく、バカにしやがって……」
ソッポを向くあんちゃん。ほんと、根は純情なんだからよ。
「アハハ。ワリーワリー。ほれ、祝い酒だ、飲めや」
氷が入ったカップに蒸留酒を注ぎ、ラーシュからもらったレモン(っぽいもの)を絞って入れてやる。あんちゃんのお気に入りな飲み方だ。
「……飲めねえクセに、ほんと旨いもん作るよな、お前は……」
「褒め言葉と受け取っておくよ」
前世でオレの親友が酒好きで、酒マニアだったからな、見ているうちに覚えちまったんだよ。
「んで、これからどーすんだい?」
祝いの席で野暮ってもんだが、どうせ時間が進めば出てくる話題。早くても問題はねーさ。
「もちろん、隣で店を開く。ここなら王都より稼げるからな」
「こんなド田舎に人なんてこねーだろう」
村のもんでも滅多にこねーし、立地なんて最悪どころか拒んでるとしか思えねー場所だぞ、ココは。
「……そんなド田舎の村外れに名だたる客がきてることを自覚しろや。聞いたぞ、あの大商人、バーボンド・バジバドルがきたって。しかも、魔道船を修理してやったとか。どんだけ恩を売ってんだよ、お前は。絶対、来るぞ。バーボンド・バジバドル"も"」
「………」
「お前を知ってるヤツはお前の価値を間違えることなく理解してる。まあ、お前が認めたヤツならお前の不利になるようなことはしないだろうが、なにかあればお前を頼るし、お前との仲を繋ごうとする。おれもその一人だ、ズルいとは言わねえ。必ずお前の周りに集まる。十歳のくそガキなクセに、妙な求心力を持ってるからな、お前は……」
あんちゃんの言葉に、なぜか反論できず沈黙を続けた。
「おれは、お前のダチの前に商人だ。商人としての欲もあれば誇りもある。そこに商機があるなら見捨てることなんかできねえ。醜くても食らいつく。お前はそれを非難するか?」
「しねーよ」
それでこそ商人。非難どころかアッパレと褒め讃えるよ。
「港でナルバールから話聞いたか?」
「ああ。聞いたし、勝手にしろって言っといたよ」
「人魚の間でもお前の存在は知れ渡っている。これからまだまだ人……人は集まる。そうなればハルヤール将軍にしわ寄せがくる。お前もわかってるだろうが、人魚の商人も俗物ばかりだぞ」
まあ、人魚とは言え戦争する生き物。俗物なのしゃーねーだろう。
「あんちゃん一人でなんとかなんのかい?」
「なる訳ねえだろう。だが、誰かが体制を創らねえと混乱しか生まれねえぞ」
まあ、港に人(魚)が増えたのを理解したときからなんとなくは感じていたが、改めて言われると頭痛しか生まれねーな。
「オレとしてはのんびりとやりてーんだがな」
「だったら最初から自重しやがれ」
ハハ。返す言葉がねーな。
「だがまあ、渡りに船かもしんねーな」
なにやら神の悪意を感じるが、文句を言ったところで返してくれる訳でもねぇしな、ここは素直に好機と見よう。
「わかったよ。港との道は開いてやる。だが、その報酬はもらうぞ」
「当然だ。売り買いしてこその商人だ」
「なら商談成立だ」
オレたちの間で口約束が誓書だ。
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