第114話 晴れ姿させてやれ
「──え、家!? なんで?!」
「朝はなかったのにっ!?」
「まあ、ベーくんだし」
「そうね。ベーなら不思議じゃないわね」
外からねーちゃんらの声がした。
テーブルを作る手を止め、上を見る。
土台と壁は創ったが、屋根は木にするのでまだ造っていないので空が見えるのだ。
……もう夕方か。集中するとあっと言う間に時間が過ぎるな……。
もうちょっとで完成だが、切りの良いところまでやるほど几帳面じゃねーし、途中で止めてもまた同じところから再開できるタイプなのでカンナをその場に置いて外に出た。
玄関(になる予定)先でねーちゃんらが建設途中の家を眺めていた。
「おかえり、ねーちゃんら。無事でなによりだ」
「ただいま。ふふ。帰りを出迎えてもらえるのも悪いものじゃないわね」
魔術師系ねーちゃんが朗らかに笑いながら言った。
「男はねーちゃんみたいな美人に迎えられる方を望むがな」
クセのあるねーちゃんらだが、見た目だけならイイからな。
「ハハ! 十歳のクセに生意気なこと言ってー!」
バンバンと容赦なくオレの背中を叩く魔術師系ねーちゃん。あと、なんでアリテラがオレの頭をチョップしてんだよ。まあ、痛くはねーがさ。
「ベー、客か?」
と、真っ先に完成させた寝室をメイキングさせていたあんちゃんと嫁さんが出てきた。
「おう。さっき言ってた冒険者のねーちゃんらだよ。こっちは行商人の──じゃなくて、元行商人のあんちゃんだ。横にいんのは嫁さんな」
と、軽く紹介する。
「ほんと、お前は雑な紹介するよな~。名前を言えよ」
「双方初対面なんだ、そんなもんでイイだろう」
しばらく顔を見合わすんだ、徐々にでイイじゃねーか。
「ったく。どうせお前のことだから"ねーちゃん"で統一してんだろう」
「通じんだから構わんだろう」
しゃべるときはそのねーちゃんを見て言ってんだ、ねーちゃんで充分だろう。
「……あ、あたし、ねーちゃんで認識されてたの……」
「なんだい、おばちゃん──」
四方向からチョップを食らった。やっぱ、ねーちゃんでイイんじゃねーかよ。
「ハハ。お前は相変わらずだな。もうちょっと女心を理解しねーと……いえ、なんでもありませんデス……」
嫁さんのエエ笑顔から逃れるあんちゃん。もう尻に敷かれてんのかよ。情けねーなー。
「初めまして。アバールの妻でサラニラと申します。お見知り置きください」
「あ、わたしらは『闇夜の光』で、リーダーのトコラです」
「あたし、バーニス」
「わたしは、サライラ。見ての通り、魔術師よ」
「……アリテラ……」
いつの間にかフードを被ったアリテラさん。あなた、人見知りだったの?
「にしても、こんなところであの『殺戮の乙女たち』に会えるとはな。いや、ここだからか。さすがベーの周りにはスゲーのが集まるよな」
……殺戮の乙女たち……?
「や、止めてください。あれは……なんと言うか、たまたまで、偶然が重なって……」
「まあ、イイじゃないの。異名があるのは実力があるってことなんだからさ」
「そうね。異名があるお陰でバカどもが寄ってこないんだからさ」
「なあ、あんちゃん。ねーちゃんらって有名なのか?」
「超有名だ。隣の国で起きたゴブリンの大襲来を僅か百人の冒険者が防いだって話、前にしただろう」
ああ、そー言やぁそんなこと聞いたな。
「そんときリーダー的な立場で、四人で千匹以上も葬ったことから殺戮の乙女らって渾名がついたんだよ」
「へ~。そりゃスゲーな。そんな有名人が村を守ってくれてんなんて贅沢なこった」
なら報酬を値上げしねーとなんねーな。
「あんちゃーん! 夕食ができたよー!」
おっと。今日はあんちゃんらの披露宴を兼ねて早く夕食にするんだった。
「ねーちゃんら、今日は一緒に食おうぜ。あんちゃんと嫁さんの披露宴をやんだよ。一緒に祝ってやってくれよ」
「お、おい、ベー!?」
「あんちゃんのことだからどーせ結婚式もやってねーんだろう。一生に一度──になるかはあんちゃんの甲斐性次第だが、嫁さんに晴れ姿させてやれ。まあ、うちに花嫁衣装があるわけじゃねーが、ブーケとそれらしいのは知り合いに頼んであっから着せてやれや」
「……ワリー……」
「気にすんな。オレとあんちゃんの仲じゃねーか。ほら、行こうぜ」
照れる二人を連れて家へと向かった。
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