第107話 人がいる世界で

「あ、兄貴!」


 薪の管理小屋にくると、シバダたち次世代チームがいた。


「よぉ、シバダ。なにやってんだ?」


「薪の護衛だよ」


 はん? 薪の? なんで?


 意味がわからず小屋にいるバルじぃを見た。説明ぷりーず。


「魔物騒ぎで薪が入ってこんかもしれんからな、村長が薪を盗まれんようにとシバダたちに薪の護衛を依頼を出したんじゃよ。村の外に出れんからな」


 そこまで考えてなかったわ。村長、やるな。


 まあ、うちの村に薪泥棒をやるヤツはいねーだろうが、そんな理由を付けなければシバダやバンら専属組の仕事がなくなりメシが食えなくなる。


 村としてはバンらは村の大切な用心棒だが、冒険者ギルドの一員。ギルドに属する。なので依頼と言う形でバンらをこの村に留めておかなくちゃならねぇ。


 村専属にすりゃイイじゃねーかと言うかもしんねぇが、経験の浅いバンらだけでは村は救えねー場合がある。そんときの保険としての冒険者ギルドであり、ギルド支部の設置である。


 これは冒険者ギルドの勢力を増やすことに貢献し、その見返りとして、村になにかあったときの救援を要求できるのだ。まあ、よっぽどのコトじゃねーとタダで動いてはくれんがな。


「そりゃご苦労さん。しっかり護衛してくれや」


 なにから護衛するかは知らんが、まあ、適当に見張りをして、いつものように訓練してればイイさ。


「あ、なら、薪を下ろすのやってもらうか。小銅貨二枚でどーだ?」


 依頼中だが、その途中で小遣い稼ぎをやることに不謹慎と言うヤツはいねーし、村もギルドも承認している。どうせ薪の護衛なんて銅貨一枚の安い仕事だろう。んな金で文句言われたら誰も冒険者なんてやらねーよ。


「やるぜ、兄貴! なあ、皆!」


「もちろんだよ!」


「やったー! さすがベー兄だぜ!」


「ベー兄、ありがとー!」


 小銅貨でこんだけ感謝されると、なんだか申し訳ねー気持ちになるが、こんなド田舎で、しかも十歳以下のヤツらにしたら小銅貨でも大金だ。家にいたら小銅貨どころか金の存在すら知らねー扱いを受けんだからな。


「ってことで、ワリーな、トアラにサリバリ。集落まで歩くぞ」


 こいつらに任せるとなると一時間以上はかかるだろうからな。


「うん、わかった。皆、がんばってね」


「しょうがないわね。あんたら、しっかり働きなさいよ」


 まあ、そんな二人だと知っているのでバンらのやる気に変化はない。軽くスルーした。


 オレも一声をかけて集落へと歩き出した。


「ベーは集落になんの用なの?」


「今後のことで村長と話し合いだ。あと、オババや冒険者ギルドに顔見せだな」


 あくまでオレが目指してんのはスローライフであって隠匿生活じゃねー。そもそもスローライフなんてある程度文明が発展してなきゃやれねーことだ。


 田舎で自給自足なんて、字面はイイかもしれんが、自給自足なんて不可能に近い。いや、やろうと思えばやれるさ。原始人だって生きていけたんだからな。だが、決してスローライフなんて生易しいもんじゃねーだろう、そんな生き方。もう過酷の一言に尽きるし、生きる楽しみなんて感じられねーよ。


 だから、時代に飲み込まれねーように常に情報は仕入れ、内に隠らねーように人との付き合いを大事にしなくちゃならねーのだ。


「ガキんちょのクセに生意気よね、あんたは」


「ガキは生意気でできてんだから当然だろう」


 サリバリを見て言ってやる。


「でも、ベーがいてくれるからこの村は平和だって、とうちゃんたち言ってたよ」


「ま、まあ、それはそーだけどさぁ~」


「なんもしてねーとは言わんが、それほど大したことはしてねーよ。村を守ってんのは村に住むもん全員でやってることだし、誰か一人に任せてイイもんじゃねー。オレはオレにできることをやってるまで。できねーことは他人任せさ」


 人がいてこその村。そして世界。オレはそんな人がいる場所でスローライフを送りてーんだよ。

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