第108話 村長宅

 集落まで来ると、あちらこちらに女衆が集まっておしゃべりしていた。


「毎回のことながらスゲーもんだ」


 村の女衆が一斉に集まるところは何度も見てるが、この買い物へ向かう前の活気と言うか、興奮と言おうか、体から放たれる熱に圧されてしまうぜ。


「そりゃそーよ。今回は量が違うもの」


「ほーん」


 あんちゃんの弟、相当な量を持ってきたみてーだな。まあ、今回は二台分だから持ってこれたんだろうがよ。


「でも、なんでおしゃべりしてんだ?」


 雑貨屋に開店時間なんて決まってねー。客がきたら開店がド田舎ルールだ。


「人数が人数だからね、広場でやるんで用意してるのよ」


 なるへそ。そりゃそーか。


「それに、順番にしたら後の人から不満が出るしね」


 言われてみれば確かにそうだ。おばちゃん、考えたな。


 広場にくると、おばちゃんら雑貨屋総出で服やら布やらを並べていた。


「おう、おばちゃん。精が出るな」


「あ、ベーかい。あんたも買い物かい?」


「いや、村長に話があってきたんだよ。しかし、スゲー量だな。おばちゃんが依頼したのか?」


「ああ。そうなんだけどね、まさかこんなに持ってきてくれるとは思わんかったけどさ」


「あんちゃんの弟とは話したのかい?」


「ああ、話したよ。次からくるそうでよろしくってさ。朝、あんたんちに行ったんだが、会わなかったのい?」


「いや、会ったよ。ただ、下りてくる用があったからな、挨拶しかしてねーんだよ」


「そうなのかい。まあ、今日はあんたんちに泊まんだろうからそんときに話せばいいさね」


 なんて世間話をちょこっとしてその場から離れた。女衆の熱に巻き込まれたくもねーからな。


「ベーは見ていかないの? イイのなくなっちゃうよ」


「その辺はトアラに任せるよ。金はオレの名でつけといてもらってくれ」


 物々交換(払い)もありなので、つけてもらってあとでおばちゃんの欲しいものと交換するのだ。


「わかった。イイの選んどくね」


 エエ笑顔のトアラに「頼むよ」と言って村長宅へと向かった。


 うちのボブラ村の村長は、開拓時代から続く歴史があり、代々村長を輩出している。いわば、格式ある家であり、唯一姓を持つ豪農な一族である。


 なので屋敷も広場に近く、集落の三分の一は村長の土地になっている。


 魔物襲来に備えて村長宅は塀に囲まれ、石造りの門があり、屋敷までは結構な距離がある。


 貴族がきた場合の離れに馬小屋、分家の家やらがあり、ド田舎にしてはイイ感じに配置され、小綺麗な造りになっている。


「ちわー。村長いるかい?」


 庭掃除してある使用人のおっちゃんに声をかける。


「おー。ベーか。家におるよ」


「あいよー」


 開け放たれた扉を潜り、玄関(作業場)に入ると、村長のとーちゃん──前村長とひ孫のラサ(六才)が籠作りをしていた。


 豪農とは言え、暮らしに余裕はねー。動けるなら働けがド田舎の美徳だ。


「おう、邪魔するよ」


「おう、ベーか。どうしたい?」


「村長に話があってな。いるかい?」


「今畑にいっとるよ。ラサ。ザダに言って呼んでこい」


 わかったと言ってラサが駆け出していった。


「まあ、上がれや。ばーさん。茶を頼むよ」


 奥から出てきたばーちゃん(前村長の嫁)に茶を出すように言った。


「おや、ベーかい。いらっしゃい」


「邪魔してるよ」


 挨拶を返し、暖炉の前に置かれてるテーブル席に座った。


「コーヒーでいいかい?」


 村長もコーヒー派なのでばーちゃんも淹れられるのだ。


「ああ、頼むよ」


 勝手知ったる他人の我が家じゃねーが、まあ、よく来るので村長がくるまでゆっくりさせてもらった。

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